第61話 第二のプルダバ攻城戦③
「【
「了解」
魔法使いと弓使いは眷属の対応に終始している。
いや終始できている。
剣士の消耗を厭わない猛攻に
焦りの気配は見えないが、反転してエルザ脱出を妨害するほどのゆとりはない。
「眷属将、あなたも撃ちなさい」
クィマームの指示が飛んだようだ。
大群の眷属達の各種槍魔法では妨害にならなかった。
炎の魔法使いの【
しかもこの爆発指向性がある。
圧力が加わった方向にのみ爆風をもたらすので、防御壁と呼ぶにはあまりに暴力的だった。
この壁を突破した魔法はほとんどなく、たまに【土石槍】の破片が散るくらいだ。
だから弓使いは
そして、黄金の柱は辺りを昼間の明るさまで照らし、ふっと消えた。
「はあ、はあ、俺たちの勝ちってことでいいか?」
猛ラッシュをかけていた剣士は、光の消失を確認すると攻勢を止めた。
息も絶え絶えで、汗だくとなっている。
「うむ。見事なり」
エルザの逃走を許してしまった。
だが、これさえも想定外の許容範囲内だ。
「殺せ」
残った3人は確実に殺す。
闇属性眷属によって傀儡にするためだ。
それ以外の住民は眷属達のおやつにする。
そもそも森だけでは飯が賄えないことに端を発した侵攻だ。
眷属がニンゲンを食糧にできる軍隊でなければこんな行軍できなかったと思うが、こんな奴らと和議を結ぼうなどと考えてくれるのだろうか? という不安はいつも頭を過ぎる。
「うむ。戦闘は終わったな。ここを仮の拠点としてしばらく留まるかの」
「そうですね。それがいいでしょう、と
クィマームも当座の方針に賛成のようだ。
「分かった。それでトレーヴィ市はいつ攻めるんだ?」
意外なことにその答えはクィマームが持ってきた。
「あ、実はもう落とせますよ。文字通りの意味ですけどね」
「ん? 文字通り?」
「ぬ? あれをやるのか?」
なんか不満そうな顔をしている。
「ええ、部隊の大移動をさせてたときに手隙の部隊をトレーヴィ市の地下に派遣させていたんですよ」
ん? 街の地下? それって?
「お気づきになったようですね。街を丸ごと落とします。高さにして私2体分くらいですかね」
クィマームの身長は2mないくらい。
だいたい4m弱ってことか?
「もちろん城壁に対しても同様の作戦は取れるんですが、街の機能自体はギリギリ生きているほうがいいかなと思いまして」
「それって城壁はそのままに市街だけ地盤沈下させるってことだよな?」
一応確認しておこう。
「そうですね。城壁との行き来が難しくなるので、防御力は落ちるものの城壁自体は無事にしておいた方がいいかなと思いまして」
やっぱりか。
でもいきなり4mくらい落下したら怪我しないか?
市長も死んじゃう気がするんだけど。
「ふふ。我が王も考えるようになりましたね。市長なんていくらでも替えが効くのですよ」
ああ、はい。
「いや、しかし飯は持つのか? 某は暫くここを拠点に周辺の農村に残されてきたであろう家畜やら食糧倉庫やらを巡ることになるが、降伏させてしまったら食えないだろう?」
「ええ、ですが今しがた大型冷凍庫が完成しましたので、食糧事情はだいぶ良くなるでしょうね」
「……冷凍庫ねえ」
直接は見えてないけど、口元が引き攣ってることは容易に想像できる。
本当にこいつ前々回以前の記憶ないのか? ってくらいクィマームの行動は先が読めるんだろうな。
しかし、冷凍庫は実際助かる。
これで生鮮食品も貯蔵ができるようになる。
今は森の恵みを享受できる季節だからいいけど、冬場は漬物くらいしかなくなるはずだからな。
問題はこれのどこが
「あ、我が王、誤解してますね。冷凍するのは食糧でなく眷属です」
「へ? 眷属?」
あれ、でもそれは前々からやってたのでは?
「はい。兵隊なんて戦闘の無いときはただ飯ぐらいですからね。戦うときだけ解凍して、戦いが終わったら凍眠してもらうのです」
「改めて聞いても、人でなしにもほどがあるよね?」
「妾は
「
「……分かっておる。ほかならぬ某自身も【越冬】の重要性くらい分かっておるわ」
「ご理解感謝します」
なるほどねえ。
精強な
「我が王もご理解は頂けたようですね」
「……うん、まあ、ね」
歯切れよく答えることは出来なかった。
クィマームはさらに続けた。
「それに闇属性眷属もいれば夢の中でも戦闘訓練は積めますからね」
多分、ここが氷漬けと違うところなんだろうな。
強制的に眠らせて飯を不要にしたうえで、訓練だけは出来るってなんだよ。
「……悪魔かな」
「いいえ、あくまで
クィマームは心外ですねと言わんばかりだった。
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