第60話 第二のプルダバ攻城戦②
空に巻き上げられた砦の残骸が街に降り注ぐ。
この城壁は造営方法が魔法だっただけで、元は実体がある。
つまり、高性能魔法防御も意味をなさないと言うわけだ。
その日初めて轟音が響いた。
砂塵が舞う中、誰の物ともつかぬ悲鳴がこだまする。
「おやおや、まさかこんなに早く突破されるとは思いませんでしたよ」
砂塵の中から4人の影が現れた。
素人目にも分かる。強者だ。
たたずまいに隙が無い。
剣を振り始めて日が浅いけど、それでも圧倒的な威圧感を覚える。
「
「問題ない。むしろ我が王に上の下をご覧に入れることができたことを喜んでおる」
「強者とお見受けするが、名を尋ねても良いかな?」
返答は矢弾である。
炎の砲弾、黄金の光の槍、そして青い光を称えた矢である。
後衛3、前衛1の4人組。
「ははっ、威勢がよいわい。これは久方ぶりに楽しめそうじゃのう」
そう言うやいなや応戦態勢。
三色の軌跡は
しかし、当然それだけでは終わらなかった。
「本命は矢といったところか」
青い光は誘導性能を持たせた魔術の証だったようだ。
矢だけは一度上空に舞い上がり、
そして炎と黄金は地面に着弾。
砂ぼこりを巻き上げて視界を封じる。
「二の矢が本命というわけでもあるまい。よっと」
空高く上がった矢はまだ飛んでいる。
つまり、
「これに反応するか……」
射手は歯噛みするかのような渋い声を出した。
必殺の波状攻撃だったのだろう。
二本目の矢の矢じりは黒く、貫通力特化の魔法が付与されている。
魔力光は完全になく、なんの変哲も無い矢と区別することは至難だ。
しかし、
当然だ。まだこれは前奏曲の序盤に過ぎない。
料理で言えば、テーブルに着いたところでしかない。
3撃目は青の燐光。
上空に舞い上がった矢が
辺りは月の雫でもこぼしたように青く光っていたことだろう。
それほどの光量だ。砂塵の中でさえ眩しさを覚えるはずだ。
そして炎、黄金、矢のトリプルコンボ。
「ほほう。充填に時間の必要な魔法攻撃を矢を使って稼ぐとは天晴じゃ」
「嘘だろ」
「そんな……」
そう、まさに天は晴れた。
砂塵は薙ぎ払われ、本物の月が顔を出す。
「そろそろ名を聞かせてもらえるかの?」
何ということは無く、魔法も矢玉も切り捨てたのだ。
恐るべきは『
おそらく2度の振りだけで、砂塵ごと弾ききってしまった。
目前の3人は愕然としていた。
しかし、次弾の準備を怠らず、自然な流れで次の策を講じようというのは錬達のそれである。
ほとんど無自覚。
精神の動揺と肉体の反撃はもはや相互に独立の事象であった。
「獲ったああああ!!」
「む?」
即座に振り返る
前衛の一人はいつの間にか
たしかに
どうやって背後を取ったのだろうか?
月光を受けて輝くブロードソードは、
「あっぱれじゃ」
「
思わず叫んだ。
隣のローザリンデがびくっとした反応を示す。
俺は俺で常在戦場だ。
リアルタイムで戦場が見えるのは便利だが、俺から安らぎの時間が消えているようで良くない。
これが常在戦場と言うやつか。
剣士ごと射貫くつもりなのか?
「おお、これが矢避けの護符かの」
「は? 何やってるんだ
攻撃は来なかった。
魔法の砲弾も槍も、矢も飛んでこない。
満を持した状態で止まった。
「え⁉ 俺の護符を、どうやって」
その護符とやらは剣士が持っていたようだ。
「さっき一太刀受けるときについでにな。手癖が悪くてすまんのう」
護符は正五角形の板状。各辺の中点を結んで逆さ五芒星が彫られている。
あのマークにどんな呪術的シンボルがあるか分からないが、重要なものではありそうだ。
「さて、まだやれることはあるのだろう。もっと手の内を見せてはくれまいか?」
4人がかりの猛攻を鎧袖一触で払いのけたのだから当然か。
「エルザ! お前は逃げろ! ほかは援護だ!」
「分かった!」
「「了解!」」
4人は強かった。
エルザと言うのは黄金の魔法を使う女だった。
光の柱が立ち上り彼女を包み込む。
「むう、逃がすか、槍を浴びせろ!」
4人に包囲されているのに余裕だったのは圧巻だが、それは相手が戦闘をしてくれた場合の話らしい。
エルザと呼ばれた女を逃がすまいと追撃するには、目前で対峙している剣士に背を向ける必要がある。
「させるか。二人は蟻の相手を頼む。こいつは俺が時間を稼ぐ」
違った。
剣士は独りで
4人がかりでダメだったのにか? という疑問は拭い去れないが、彼の戦闘スタイルを見て確信した。
「ほう、2刀流だったか」
右手にはブロードソード、左手には風の魔力でできた剣。
「うおおおおおおおお!」
剣士の男のやけっぱちな声とは裏腹に、その剣技は流麗で隙が無かった。
「……やりおるのう」
エルザを包む黄金の光は、時間の経過に従ってますます強くなっていった。
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