第34話 惨劇ちょっと前
蟻たちの驀進は2時間ほどか。
くねっているから120㎞先ということは無いのだろうが、おおむね100㎞先かそのあたりで止まった。
飛行眷属は一度地上に出たようだ。
日は沈み切っている。月はまだ出てないから、暗いな。
ガス灯みたいなものはなく、家々の明かりがまばらに光っている。
森と言うよりは雑木林に囲まれた農村と言う感じだ。
でも主な作物はブドウと小麦みたいだ。
もっとも地球に似た作物で言えばだが。
と思っていたら、いったん停止した。
それはそうか。ここで休憩しないとバテるもんな。
飛行眷属も再び地下に入ったようだ。
これは警戒させないためだろう。
「よく考えているな」
「え?」
寝室にいたエルフ侍従の一人が反応した。
「いや、独り言さ。忘れてくれ」
「分かった」
意地でも丁寧語は使わない気らしいので、俺も普通に接する。
俺けっこう頑張ってるよね。寝室の営みを見ず知らずの人に見られながらも遂行するの。もしかすると王の素質あるのかもしれない。
そんなものを誇ってどうするんだと言われればそれはそうだが。
しかし、独り言はまずかったかもな。
「ん? ノボル様?」
「わりい、起こしちゃった?」
ローザリンデが起きてしまった。
意識が戻りきる前に、「寝かしつけて」おこう。
慣れていないのか、侍従が手で顔を覆いつつも、指の隙間からばっちりと見届けていることは見逃さなかった。
「良かった。アルはまだ寝てるな」
楽しい夢を見れているようで身体がピクピクと跳ねたりはしているが、起きてはいなそうだ。
静かなること林の如く。行軍の基本でもある。
スピードも出せているな。
しかし甲冑武者がひょいひょい進んでいく時点で、本来なら速すぎると言うべきだろう。
一方で、眷属部隊はというと、一休みを終えて林のなかに土塁を築いているようだ。
これワンチャン城っていうんじゃないかな?
城の写真だよと言われて、空堀を見せられた記憶が蘇る。
彼は元気しているだろうか。
建物ばかりが城ではないらしいのだ。
眷属たちの築城術はいたってシンプルだ。
【
クィマームは以前言っていた。
特化させた能力を連携させれば良いのだと。
ゆえに器用貧乏タイプではなく、1点豪華主義型眷属にすると。
これがその答えなのだろう。
槍魔法は比較的強力で複雑な魔法だ。
魔法の基本はボール状らしい。球は一点からの距離が等しいため、魔法的な負荷が小さいらしいのだ。
たしかに立方体の方が考えることは多そうだ。中心からの距離がまちまちになるから造形が大変そうな気がするのは分かる。
しかし、球形であるよりも鋭利で衝撃力があるのが槍魔法であり。複雑さが増す以上に威力が上がるので、是非とも習得したい上級魔法であるらしい。
眷属たちは槍魔法以外使えないそうだ。
それゆえ威力はあるが、汎用性はそこそこ劣ると考えられる。
形状を槍型にしかできないからだ。
しかし、それらの使い方を工夫することで、文字通りの一本槍でもやりたいことを貫き通すようだ。
これはその一例に過ぎないのだろう。
それを考えると、服などをどこからともなく生み出したクィマームは魔法のバリエーションもあると言うことになる。
やっぱあのお母さん凄いわ。
目の前の地属性蟻型眷属に目をやれば、せっせと土の槍を拵えていた。
隣の水属性は【
もちろん威力は最低限だ。
しかしこれによって、陶器の要領で固定し大地の槍同士を連結しているようだ。
やはりよく考えている。行き当たりばったりは良くない。
「
「おお、我が王かたじけない。どこかで間違えたかのう?」
今の刃声に出したわけではない、と思う。
少なくともエルフの侍従は反応してない。
なんとなく
行き当たりばったりは良くないが、やって見なければ分からないこともあるな、うん。
クィマームの方でもこれは問題ありと認識したようだ。対策を講じてくれそう。
と言うか今までって
あ、待て、奴は二代以上前の
それを考えると連携作戦をしても記憶に残らず練度が上がらないのかもしれない。
「我が王、それ結構重大な発見です。妾の方で対策を講じれるかもしれません」
クィマームが連絡をよこした。もちろんテレパシーだ。
「というと?」
「妾の生成できる毒のバリエーションは増えてます」
ほほう。それは有意義だ。
戦争は現在だけで起こっているのではない。
未来でも起こっているのだ。
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琥珀ではなく蟲珀です ~異世界に召喚されて召喚士になったけど、召喚蟲が奔放で困る~ 戦徒 常時 @saint-joji
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