第33話 侵掠開始
「では、出撃ですね」
「おう、行ってくるぞ」
出立は巣穴前。そろそろ日没するかという頃合いだ。
前回の森林防衛戦同様に、地下を驀進してスピードを確保する。
特に今回は食糧不足が原因だから、速度は大事だ。
出撃メンバーは、
なんでも150ではキリが悪いらしく、180にしようとなったみたいだ。
飛行型に関しては2でもキリはいいらしいが3。
実はすんなり言葉が通じてるだけで、クィマームは6進法で物を考えてるのか?
そう考えると3も日本人の感覚では5に相当するから、キリ悪くないのかもしれない。
「ああ、行ってらっしゃい。気を付けてな」
お見送りはエルフ族とロイドを初めとしたトレント幹部、そして俺だ。
ローザリンデもアルウィナも寝ているし、あまり騒ぎは大きくしたくないのだ。
エルフ族が多めに来たのは
「さて、我が王、ベッドに戻りましょうか」
「え?」
物思いに耽る暇はないとばかりに、クィマームは俺を家に帰そうとしてくる。
思いのほか女王アルウィナに仕込んだ毒が強力すぎたせいで、侍従が苦言を呈すに至った。
本当に解毒できるのか怪しい、人格に支障が出ないのかなど問い詰められた。その懸念を解くべく、早く解毒してくれと流れになった。
でもそれって要するに「抱け!」と言うことなんだよなあ。
「贅沢な悩みですね」
憂鬱な顔をしていると、クィマームに追い打ちを食らった。
「いや、冷静に考えて地獄だろうさ」
ローザリンデも放置できないから、負担は2倍になっている。
「オスってそんなもんじゃないですか?」
……クィマームに何を言っても無駄かもしれない。
ぽん、とロイドが肩に手を置いてくれた。
分かってくれるか、ロイド。
「聞けばニンゲンは1年中花粉が撒けるそうじゃの。ファイトじゃ」
……うーん? なんかトレントのオスとは感覚が大きく違いそうだ。
それだけは分かった。
「はいよ」
こうして、俺も「戦場」に赴くことになった。
巣穴周辺にいるエルフたちは自分達の家へと戻っていく。
しかしクィマームとトレント幹部たちは残った。
俺も感覚共有は欠かせないな。
彼らは送り出した戦力でどこまで戦えるか? ニンゲンはどのくらいの速度で対応してくるか? を見るつもりなのだろう。
それは俺も変わらない。
いつもより重い足取りで家に帰るが、
戦争は現場だけのものではない。
特に俺やクィマームにとっては。
「ただいま」
「「おかえりなさいませ」」
ローザリンデとアルウィナが迎えてくれた。
出る前に気絶させていたのに、もう意識を取り戻しているし、アルウィナはせっかく取り戻した意識が性衝動に塗りつぶされ始めたようだ。
顔が赤いし、目がトロンとしている。
「二人とも飯は食べたか」
眷属達は時速60㎞ほどで驀進。
一方、
詳しい作戦計画は聞いていないが、
しばらくは眷属将の視点だけ追っていればいいな。
「はい、既に取りました」
「ええ、アルウィナは女王だったとは思えないほど料理が上手くてびっくりしました」
あれ? ふたりとも仲良くなってない?
まあいいか。ギスギスした寝室はこりごりだからな。
あとはエルフ侍従が俺に怒りの眼差しを向けてくることだけ解決できれば万事解決だな。
今のところ1人だけなのだ。
女王の痴態を見続けたせいで催して抱く羽目になったのは。
そもそもエルフ族に男が一人もいないのが問題なんだよな。
アルウィナに聞いたところによると、投獄されてたり、女を逃がすために戦ったりで連れてこれなかったそうだけど。
「あれ、ご主人様、どこか上の空ですか?」
「あ、ああ。美味いよ。それより食べ終わったらすぐに行くから、準備して待っていてくれ」
アルウィナはおれをご主人様と呼ぶ。ぞっとするよね。
そのたびに侍従がおピキり遊ばすのだから。
しかし蟻型眷属速いな。
飛行型も光の無い地下を壁にぶつかることなく進んでいる。
一番後ろを進んでいるようだ。
考えてみればそうか。
飛行に際して重要な刺激は光だが、蜂の巣の中は暗いもんな。
後ろをついていくくらいわけないのか。
「
巣の通路はどこも高さが4mはある構造をしているから頭をぶつける心配はないのだが、分岐の多い通路の分かれ目に気付かず、兜の三日月をぶつけていた。
おっと、思わず独り言が漏れてしまったな。
クィマームの方では、トレント幹部がいったん休憩に入ったみたいだ。
足並みのそろえ方とか、
休憩は取れるときに取っておくのが大事だもの。
「ノボル様? お食事が進んでいないようですが?」
やべ、せっつかれた。
ローザリンデもアルウィナが来てからというもの対抗心を燃やしてしまうのか、肉食化しているのだ。
ああ、安らぎの日よ来たれ。
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