第32話 侵掠事由
ローザリンデに連れられてきたものの、置物だったな。
なんならロイドのやつ、俺がいない方が話しやすかったんじゃないだろうか。
しかし、一つだけ確定したことがある。
それはこれからギスギスログハウスでの爛れた生活が始まるということだった。
平和なのはいいことなんだろうなあ。
俺はエルフの状況とかはよく分からない。
エルフ族の侍従からは嫌われているから、アルウィナが理性を取り戻していられるわずかな時間、エルフ族の状況を聞くことができるだけだ。
しかし、俺の予想に反して我々はすぐに行動を起こさねばならなくなった。
それは3日後のことだった。
「我が王、お疲れのところお話があります」
クィマームが家にやってきて言った。
これはなにかあるな?
「食糧が不足していますので、ニンゲン領に侵攻します」
え? 順番が逆な気がするんだけど? しかも突飛だ。
「侵攻って、それこそ食糧が無いとできなくない?」
「それがですね、エルフを支えるだけの恵みが今この森に無いのですよ」
話は思ったより複雑だった。そして喫緊ではないらしい。
エルフ族は女王アルウィナを含めて37名が森陣営に入った。
クィマームの眷属も飯は食うが、それは独自の農業により自給できているから森にそこまで迷惑はかけていないらしい。
これは食い分けというらしいが、さておこう。
しかし、ニンゲン向け食糧はそんなになかった。
ニンゲン向け食糧を食っているのは、俺とローザリンデとエルフ族だけだが、この森が養える人数は30人くらいが限界であることが分かった。
これはエルフ族が森を調査した結果だが、ロイドたちトレントの直感でもそこまで見当違いな調査結果ではないと結論づけたらしい。
「5年持つなら急がなくてもよくないか?」
正直、俺にはイメージが付きかねていた。
この森は食料が豊富だ。その印象がどうしても付き纏う。
「ダメです。肉食獣の影響は大きいのです。ニンゲンほどの大きさであればなおです」
「うむ。エルフたちのせいで某の樹液にも影響が出るはずじゃ」
「こら、
「分かったよ。でも口減らしってこと?」
「いえ、結果的に眷属は死ぬでしょうが、死なせることが目的ではありません」
「……もしかしてなんだけどさ」
最悪の未来が見えてしまったかも知れない。
「君の眷属って、きのこだけじゃなくて、肉も食える?」
「当然、いけますよ」
「ニンゲンもってことだよね?」
「無論です」
クィマームの口調はくどいと言わんばかりだった。
いつかは戦わねばならないと思っていた。
でもまさか、こちらから仕掛けていって、しかもそれが食糧事情の困窮が原因とか信じられるか?
想定外だった。人間同士の戦争では、敵国のニンゲンが食糧になることは、ふつうない。
あったとしても困窮した軍隊が仲間の死体をって話が普通だと思う。
もしかして日本軍だけか?
「我が王にとっては刺激の強い話だろうことは想像がついておりました」
「じゃがのう、やつらは我らのことを資源や虫けら程度にしか思ってない。ま、お互い様じゃの」
これは事実だろう。
アルウィナによると、エルフ族でさえ奴隷化で済めばいいほうらしい。
彼らは今の森陣営の中で、人として扱おうとする姿勢がない。
そう言えば、俺だって奴隷にされたのだった。
「分かった。で、戦法は?」
「某じゃ」
「
「おっと間違えた」
あれ? 20㎞しか離れられないんじゃない?
「ん? ああ、
「そんな仕様が?」
「こほん、戦力は蟻型眷属150と飛行眷属2ですね」
「そんなにいたっけ?」
「はい。蟻型眷属は現在キリよく216体で止めております。飛行眷属は12体おります」
キリいいかな? と思ったのだけど216は6の3乗か。
クィマームの感覚だと美しいんだろうな。
「あれ? そういえば1体亡くなってたけど、キリよく216体になるの?」
「我が王はよく覚えておいでですね。ええ、215が気持ち悪すぎたので、全属性個体を1体産みました」
「何かできるの?」
ちょっとした気持ちでと聞いてみた。
するとクィマームは嬉しそうに答えた。
「はい。指揮できます」
とんでもねえ。答えだった。
指揮能力持ちも生み出せるってなんだよ。
「飛行能力は持たせられませんでしたが」と小さく答えた。
「じゃあクィマームはここに残っていられるわけだ」
「はい」
「うむ。さすがに眷属だけでは我が王の守りが手薄過ぎると感じてな」
今回の襲撃で人類側に
「分かった。それにアルもいるから、要人が増えたしな」
「ええ、それもありますね」
あ、でも一つだけ付け加えなければ。
「俺もアルもそうだけど、ローザこそ絶対に守ってくれよな」
「心得ております。その判断が合理的でないのが癪ですが、我が王がわが身を呈してでも守ろうとするのはローザリンデだと、分かっております」
よくできた
「こいつ、我が王の前で見栄を張りおって。某が助言したのだろうが」
「え? そんなことありましたっけ」
……少し肩透かしを食らった気がするが、仲が良いのはいいことだ。
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