第31話 殺意の家

「あ……、ノボル様、おはようございます」

「おはよう、ローザ」


 嫌な予感がしたので寝室に行くとこれだよ。


「ローザ、今アルを殺そうとしてたな?」

「……」


 答えは沈黙か。それは肯定しているようなものだ。


「言っておくが、彼女を殺したら俺の居場所も無くなるからな」

「え?」

「当たり前だろ? 明らかに俺の管理不行届だ。自分の戦利品に奴隷を殺されましたじゃ、そうなるでしょ」

「っ……すみません。そこまで気が回りませんでした」

「ま、複雑な事情があるのは分かるけどさ。それはこっちも同じなんだよ。分かってくれとは言わないけどね。譲歩するつもりはないよ」

「……はい」

「じゃ、朝飯にしようか。それとアルの拘束用の眷属貸してもらおう」

「拘束?」


 そうか、昨日アルを抱いているときはローザはずっと失神していたから知らないのか。


「ああ、クィマームの奴が毒を撃ち込んだせいで、アルは性衝動が抑えられなくなっているからな。なにするか分からないから夜まで動きを抑え込んでおく必要がある」

「え? 私の持っていた媚薬を使ったんじゃないんですか?」

「ああ、クィマームの毒だからな。じっくり抜いていく必要があるらしい。」

「つまり暫くは同衾するんですね」

「そんな目で見るなよ。俺には選択肢が無いが君にはあるんだから」

「選択肢?」

「そう。独りで寝るか3人で寝るかだ。俺もロイドも強要はしないさ。必要なら新しい家も作ってもらおう」

「む……、3人で寝ます」

「はあ、分かったよ。だったら殺そうとするなよ」

「かしこまりました」

「はい、じゃあ服を着る。もう日も高くなってきたから誰が来てもおかしくないんだ」


 さて、やっと朝食にありつけるかなと思った。

 でもそういうわけにもいかなそうだな。

 窓の外にクィマームを見かけたからだ。ロイドもいる。


「忙しいことこの上ない」


 思わず独り言が漏れた。

 しかしそうも言っていられない。

 俺は外に出た。ロイドは身長の関係で家に入れないからな。


「おはよう、ロイド。なにかあった?」

「いや、エルフの処遇についてなのだよ」

「そこのエルフの2人は?」

「ああ、まさにその件なのだがね」


 ロイドは昨日決まったことを話し始めた。

 アルウィナの世話係を1日につき2名任命する。

 エルフの猟兵、エルフェンイェーガーと言うらしいが、これを創設し、志願兵を募集。

 エルフェンイェーガーの働き如何によってはアルウィナを自由民にすることを認める方針を示す。


「ということなのだが、不明点はあるかね?」

「いえ、ただ名目上アルウィナは私の財産なんですよね?」

「その点は問題ない。エルフが解放金を用意するはずだ。」

「まあ、我が家の平和のためにもさっさと厄介払いをしたいところだね」

「はっはっは。そう言ってくれるな。……しかし頼むから解放金は吹っ掛けてくれよ?」

「え? エルフから搾り取ろうと言う魂胆なのか?」

「違う。エルフ族の女王だ。そう安くしたらそれこそ失礼というものだ」


 うわあ、面倒くさい。

 捕虜の解放の際にもそんなのあったな。

 ベルトラン・デュ・ゲクランだったか。

 家柄や血筋も悪いが将の才だけで王族並みの身代金を要求したらしい。

 まあ、シャルル6世は快く払ったんだけどね。自分の親父の分は払い渋ったけど……。


「そうそう。それと同時にローザリンデとアルウィナの状況も見に来たんだ。今は話せるかな?」

「ローザリンデは呼んできますよ。アルウィナは起きてたらですし、侍従の方? も一緒に付いてきてください」

「我が王、妾もともに向かいます」


 侍従の人は挨拶も名乗りもしてくれなかった。

 彼らは自由民で、俺に礼を尽くす必要もないし、彼らの王を奴隷化している悪い奴に見えているだろうから無理も無いのだけど。


「ただいま、ローザリンデ。アルウィナは今は寝室かな?」

「はい。まだ目が覚めて無いと思います。そこのエルフは?」

「彼らは侍従だ。アルウィナの世話をする。仲良くしなくてもいいぞ。俺も快く思われてない」


 最後の一言が効いたのか、二人は会釈をしてからクィマームに連れられて寝室に向かった。


「で、ローザリンデ、ロイドが話がしたいって言ってるんだが食事中か? だったら後でもいいが」

「いえ、ちょうど食べ終わりました。では行ってきます」

「ああ、頼むよ。俺は今から食事を……」


 目は口ほどにものを言う。

 え? お前も一緒に来るんだよな? と言う視線が突き刺さった。

 囁きの悪魔はついに一言も発することもなく俺を動かした。


「分かった。俺も行くよ」


 残念ながら朝食は昼食になりそうだな。

 寝室からは「陛下ああああ! ご無事ですか?」という絶叫が聞こえたが無視無視。

 どうせしばらくは「お誘い」の言葉しか喋らないだろうと思う。

 クィマームのやつ、毒の濃度間違えたんじゃないか?


「ああ、これだけもっていくか」


 ライチの味がする果実を2つだけ持って再び外に出る。

 ローザリンデは一枚羽織るだけで外に出るようだ。

 既に玄関で待っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る