第28話 森の会議
「では王女アルウィナはノボル君の奴隷に、それ以外は自由民として受け入れよう。ただし、志願兵の働き如何によっては奴隷王女を解放としようか」
あれ? 流れ弾が飛んで来た?
「え? 俺が主人になるの?」
いやいやいやいや、なんでだよ⁉ 脈絡ないじゃんか。
「なるほど名案ですな」
「おお、それならなんとか丸く収まりますか」
トレントの皆さんにはギリギリ妥当なラインらしい。
ローザリンデは話にならないと怒って家の方に行ってしまった。
「いや、待て、俺はよくないのだが? なんか厄介ごとを押し付けようとしてません?」
「おや、ノボル君にも魅力ある提案だと思うがね」
どこが? エルフ族の憤懣が俺に向けられてトレント達への悪感情が弱まるなあ、くらいしか分からないけど。
「クィマーム、これ丸いのか? 君の見識に照らして」
「まあ、丸いでしょうね。
「王女を奴隷化しても大丈夫なのか?」
「奴隷化が避けられないことくらい彼らにも分かっているはずですよ。全員の命があるだけ有情。奴隷化が王族1人だけなら寛大と認識されるのでは?」
「俺は
「彼らは気にしない生き物だと認識しています。いずれにせよ困ったらご相談ください。殺します」
と言ってクィマームはファイティングポーズをとっている。
「強いて言えば、
クィマームのこの疑問にはロイドが答えた。
「いや、さすがにそれはない。奴隷の主として最上級の格を持つというだけで、さすがに王族の奴隷化に何も感じないならあそこまで鼻持ちならない奴らではないのう」
「そうですか。では決まりですね。この仔細アルウィナ元王女にもお伝えしましょうか」
え? もう来たのか? と思って西の方向を見る。
「いえ、ただあと少し来ます。この場で待機でお願いします」
本当に3分ほどで来た。
クィマームのやつ、これが分かって早くに切り上げたんだな。
何か一芝居打つのかもしれない?
「
正直面食らった。
王女ならばそれなりに上等な服でも着ているのだろうと思っていた。
11人のニンゲンの記憶によれば、上質な服を着ていた気がするし。
しかし、目の前に現れたのはボロに身を包み、片方裸足の女だった。
それ以外のエルフも先頭のエルフ以上にみすぼらしい姿をしていた。
「エルフの一派37名が保護を求めてきたが、敵軍の可能性濃厚のため、捕虜として連れてまいりました」
「
厳粛な声でロイドが言った。冷たい声だった。
エルフたちにどよめきが起こった。
ロイドのやつ、知らないふりか。演技派だな。
「はい。現エルフ女王、アルウィナです」
戦闘を歩いてきた女エルフがそう答えた。
今度はトレント達がざわめいた。
ロイドも驚きを隠せなかったようだ。
女王といったか?
王女がいつの間にか女王になっているということは、それはつまり先王が死んだということだ。
トレント達の驚きはそれに起因しているようだ。
「……僭越ながら妾が尋ねよう。小娘、この森にニンゲンの狩人を放ったのはそなたか?」
「そ、それは、やむをえず……」
「そなたかと聞いておるのだ?」
「はい、申し訳ございませんでした」
そう言うとアルウィナは土下座をした。
エルフたちもトレント達にも動揺が走っているが、エルフが土下座をするなんてよほどのことなんだろうなあ。
俺はエルフにも土下座の文化あるんだって驚いてるけど。
「うるさいぞ、雑兵ども。次にその口開いてみろ、その口縫い合わすぞ」
クィマームはカチカチと顎を鳴らして、眷属を一歩前に進ませる。
「ヒィ‼」という悲鳴をぐっと飲みこんだのか、静かになった。
トレント達も静かになった。怖いもんな。俺も怖かった。
「で? 今回は何をしに来た? 命乞いか?」
「いいえ。わが身はどうなろうとも構いません。森を裏切り、街に出ていったこと、ニンゲンに命ぜられるままにこの森に刃を向けたこと、申し訳ありませんでした」
「ほう。王の首一つで民草は助けてくれと? そういうことか?」
アルウィナはまだ頭を上げない。
「殊勝な心掛けではないか? 介錯なら某が務めてやっても良いぞ」
あ、まずい
知らなかったけど分かってた。うん。
「
クィマームのカチカチ音がさっきよりも多くなってる。
もしかしてこの二人、仲悪いのか?
あ、でも
情が深いのに棹差さないのがいいところだ。
「……足りぬな。足りぬ」
「私の首一つでご満足いただけないということですか? 残念ながら先の王、王妃ともにニンゲンに幽閉され、今頃は殺されているでしょう。それゆえ、二人の首をお持ちすることができませんでした」
アルウィナはさらに地面に額をこすりつける。
「何卒、この首一つで手打ちにしていただきたく存じます」
森の湿り気を帯びた地面は、さらに深くへこんだ。
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