第27話 どよめき
あれから3日経った。
夜中にこっそり来ているのかもしれないが、あいつ気配消すの上手いから気づける自信は無い。
そういえば最近剣の訓練をしていなかったなと思い、軽く木剣を振う。
行軍やら作戦会議やらで、てんやわんやしていた弊害なのだが、やはり一日空くだけで億劫さが増してしまう。
継続は力なりだが、惰性であれば力は必要ないのだ。
「ほっほ。精が出るの」
「ああ、ロイド。おはようございます」
「なんじゃ? そんな怪訝な顔をして」
「いえ、ロイドに話しかけられるとき、たいてい厄介ごとが起こるなと思いまして」
「ほっほっほ。ノボル君も冗談を言うようになったの。まあ、それだけ話すようになったと言うことで」
「ロイド様!」
そこに若いトレント兵が走って来た。
ロイドは呟いた。
「ふむ。もしかすると何かあるのかもしれぬな」
「伝令、エルフの王女アルウィナ、その傘下のエルフ族37人が保護を求めてきました‼」
若い兵士君、非常に声が大きい。
割と大勢のトレント達に聞かれてしまった。
「あ、これ、そう言ったことは大声でなくとも良い」
まずったな。日ごろの訓練が裏目に出てるじゃないか。
穏便にこっそり保護したという既成事実を作れなくなっちゃったんじゃないか?
「ふむ。至急会議を招集じゃ。ノボル君来てくれるね」
「ええ、それよりクィマームに連絡をしないと、エルフを足音でやりかねない」
「それには及びませんよ」
仕事が速いと言うべきか、クィマームはもうそこに来ていた。
「
あ、ちょっと顎をカチカチさせている。
まあそりゃ苛立つか。せっかく産んだ眷属を殺されたんだもんな。
でも、戦略的判断として、
「そうか。それはすまなかったな」
「なぜ我が王が謝るのです? 非はエルフが投降してくるなどと考えていなかった妾にあります。下命の誤りですから、責任は妾のものです」
「……そうか」
こういうとき何といったらいいか分からない。
「犠牲者が出てしまったのは残念だ。なおのこと今回のことは慎重に対応したい。しかし時間もない。エルフたちがここに来る前に、彼らの処遇を検討したい」
そこに部屋着のままのローザリンデが飛び込んできた。
「処遇もなにも全員死刑でしょ。あいつらが裏切ったせいで、私の種族はニンゲンどもの家畜にされたのよ‼」
こういうことが起こるから、秘密にしてほしかったんだよなあ。
「おい、ローザ、服……」
「我が王、これを」
クィマームが即興で服を作った。
クィマームが着ている(?)ようなドレスだ。
器用だな。
「む、妾より胸がある……。きつくてすまないな」
「どっちかというとウエストがきついかも」
仕切り直しだな。
まあ、だいたいローザリンデの主張は分かるが現実的じゃない。
が、情緒的には共感するトレントもちらほらいる感じかな。
「で、話を戻そう。みんなも心配しておるようじゃが、なんのお咎めもなしということにはならない。その点は私も同意見じゃ」
「当たり前です。王女の首を森の入り口に晒してやり……たい」
ローザリンデが途中泣き出しながら主張している。
これ、エルフ族主導のアルラウネ狩りでもあったのか?
「ローザ、気持ちも事情も分からないが、王女の首はもっと価値のある使い方があるんじゃないのか? どうなんですかロイド?」
ローザリンデの涙を前にしてトレントの男どもは何も言わなくなってしまったのでロイドにボールを投げる。
ローザリンデにはキッと睨まれてしまった。
だが、今は戦力の拡充が必須のはず。
どうやって恩を売り、首輪をはめ込むかの方が重要だ。
後の統治を考えると、エルフ族にしこりが残るような条件もダメだ。
「ふむ。まあ穏当に見えるかもしれんが、王女は奴隷にしたうえでそれ以外のエルフは兵士にするかの。ただし、志願したものだけじゃ」
「それはあまりにぬる過ぎませんか!」
「
「王女は死刑、他のエルフは奴隷が妥当ではないのか?」
怒号が飛んだ。
弱腰ならぬ弱幹とはいかにもトレントらしい言葉遣いだ、
しかし、捕虜ではなく大逆罪を犯したと考えれば、全員死刑がデフォルトなのかな?
まあ死刑にすると戦力が増えないのだけど。
「ダメじゃ。戦力に組み込むのに種族間の差別などあってはならない。クィマーム殿の眷属もおるのだ。戦場において兵種・階級以外の別があることはまかりならん」
「しかし、裏切者ですぞ」
「それは彼らとて分かっておるはずじゃ。二度とはこの森に戻らないと誓って出ていったはずじゃ。それなのに戻ってきた。その意味を考えるべきじゃ」
しかし、タイムリミットだけは刻一刻と迫ってきている。
投降したエルフの集団がじきにここに来るのだ。
「あの、不和の元凶になるのでしたら妾が皆殺しにしますが?」
しびれを切らしたクィマームが爆弾発言を始めた。
クィマームも経緯を把握しきれていないことだけは分かっている。
さっさと決めてほしいのだ。それができるのは彼らだけなのだから。
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