エルフ族
第26話 エルフの王女 アルウィナ
珍しいものをみた。
凄まじい剣幕で怒りを露わにするロイド。
周りのトレント達も怒りたかったのだろうが、あまりに怒りが激しいので逆に冷静になっているようだ。
あ、若いのはびっくりして凍り付いているか。
「アルウィナ? これも知り合いですか?」
「……はあ、はあ。ぐび」
ロイドはお茶を一杯一気飲みしてから、続けた。
「ああ、森を捨て、街に寝返ったエルフじゃよ。そのころは人間と対立が激しくなかった頃じゃ。なんなら交易だってしておったのじゃが」
ふうと一息。まだ呼吸が安定してない。
「やつらはそのまま街に行ってしまったのじゃ。それっきり見ないと思っていたら、今度は先鋒を務めると来た。馬鹿にしよってからに」
再びヒートアップし始めた。
ロイドは去る者追わずの感があったけど、さすがに裏切りは別だよな。
凄まじく怒っている。徴兵はやらないが、敵方への寝返りにはぶち切れるか。いいバランス感覚だ。
ん? この激怒も演技が何割か入ってる可能性あるか?
いや? さすがに考えすぎか?
しかし、ロイドならやりかねない。
その風格があるのがこの大樹の恐ろしいところだ。
「して、妾は何をすればいいのじゃ? その者の首をここに晒すか?」
「いや、それは不要じゃ。勝手にニンゲンがやってくれるじゃろう」
「ロイド、話が飛びすぎて俺がついていけません」
「ん? ああ、では説明するかの」
曰く、アルウィナが人類を雇ってこの森に差し向けたことは間違いない。
そして誰一人として戻らなかったことから、アルウィナは何らかの責任を取らされるか、運が良ければ追加部隊を編成して再度差し向けてくるだろうとのこと。
つまりこちらから打って出なくても、アルウィナへの復讐自体は完了するということだ。
「なあ、だとしたら、エルフがこの攻撃部隊のメンバーになっていないのはおかしくないか?」
11の生首の顔を見る。耳の長いものは一つとしてない。
「む、なんらかの制約がかけられのかもしれんな。子飼いの兵隊を放って内通をされるのを嫌ったのかもしれんし、アルウィナの財力を削ぐのが、ニンゲンの目的だったのやもしれん」
「だとすれば、王と女王は人質にでも捕られたかもしれませんね。求心力がどれほどかは知りませんが、全てのエルフが拘束を受けているとも考えられませんし」
「うむ。ニンゲン側の政変というより、エルフ排除の動きの一環と見るべきじゃろうなあ」
「眷属にエルフェンリートへの警戒も加えておきましょう」
「おお、それがいいの。街に慣れたとはいえ、元々この森の狩人じゃからの」
またまた知らない単語が出て来た。
「なんだい、そのエルフェンリートって?」
「妾からご説明いたします。エルフは固有の魔力波長で自分の位置や狙う目標の識別などの共有を行います。これらは野生動物や魔獣にも感知されない通信手段です」
「なるほど。それって俺たちの感覚共有に近いものか?」
「そう言って差し支えないでしょう」
「だけどそれどうやって感知するんだ?」
「感知は出来ませんよ?」
「へ? だってさっき警戒するって」
疑問符が尽きることの無い俺に今度はロイドが説明してくれた。
「端的に言えば、独りに見つかったあと、周囲が連動して動くんじゃよ。何か小さな異常があったとしても、集団が連動するから、その集団がエルフであると分かるわけじゃな」
「なるほど」
これ、聞こえない群狼戦術じゃないか。
Uボートは攻撃を仕掛ける前に、エニグマ暗号を使って頻繁に敵の位置やらどの艦が何を狙うかを通信したようだが、エルフは個人単位で、無音でこれができるのか。
厄介極まりない。
「うむ、その顔は奴らの恐ろしさを理解したようじゃな。まったく君は平和な世界から来たと言うがなかなかどうして、物分かりが速いようじゃ」
「ははは……」
笑ってごまかす。
本を読んでたからなんて言えないよなあ。
この世界では彼らが材料なのかもしれないのだから。
「まあそういうわけだ。彼らが今回の作戦の失敗を知る頃合いは、木こりの失踪を知るよりも早いじゃろう。あまり時間はないが、どうする?」
クィマームが右手を挙手。右手は2本あるわけだが両方上げるんだ。
「
「うむ。それはありがたい」
「いや、待て、
「あの男は食べ物が絡むと見境が無くなりますからね。それも輸送するとお伝えください。あ、良いですかローザリンデ?」
「はい。構いませんよ」
ローザリンデは少し強張りつつも微笑んでいた。
「感謝します。妾は引き続き眷属を産み、巣穴を西側へと拡大します。これから産むのは飛行型ですね」
「お、事前に喋ってくれるのありがたいぞ」
「エルフの情報力は馬鹿になりませんから、足並みを揃え綻びが無いようにする必要があります」
罠を張っての防衛戦は妾の得意とするところではないのですがね。
クィマームは小さな声で吐き捨てた。
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