第23話 言葉が踊る会議
「さて、何があったかを話そう」
トレントの将や一部若い兵が集まって会議が始まる。
俺とクィマームも一緒だ。
始まってみればそんなに複雑な話ではなかった。
人類軍は木こりたちの壊滅原因の究明などを図る素振りはほとんど見せず、真っ先にトレント狩りに来たようだ。
「実に不可解だ。ニンゲンの考えることはいつも我々の予想を超える」
ため息をついた。被害はそこまで出ていない。
しかし、ロイドは指揮官として人類陣営の反応が読めなかったことを反省しているようだ。
俺にこう尋ねた。
「ノボル君、なぜ人類陣営はこんな行動を起こしたのだろうか?」
「木こりたちが生きてようが死んでようが構わないからじゃないですか?」
「「「は?」」」
理解されなかったようだ。
ロイドが健在なうちはこんな発想出てこないと思うが、他のトレント達も似た感じなんだな。
「どういうことじゃ?」
「はい。人類側から見ると彼らの死因なんてどうでもよくて、トレント狩りのためのいい機会だな、くらいの感覚じゃないでしょうか?」
「むう? よくわからんな」
まあ、これは予測だ。
ただ、国境紛争なんてこんなもんで、国境付近で良からぬことが起きたら相手方のせいにしてしまう方が何も考えなくて良いのだ。
特に大国にとっては。
トレント狩り、ついでに森の恵みを頂戴するための予算や許可とかも降りるんだろうなあ。
「森に分け入ってきたやつらの素性次第ですけどね。正規軍ぽい見た目じゃないなら、キノコ狩りの延長でトレントを狩っておこう打と思いますよ」
「ほう。人間とはかくも無慈悲な生き物だな。まるで蟲ではないか」
「これ、滅多なことを言うではない」
若い兵士トレントが激昂していたのをロイドがたしなめる。
あれ、俺歓迎されてると思ったんだけどな。
いや、クィマームが兵士を大量生産してるから、お株が奪われるかもと思っているんだな。
ここはクィマームに出てきてもらって、融和に努めてもらった方がいいかな?
と思っていたところだった。
「同感じゃ。アレは我らと同じ価値観で生きておる。主のために死ねと」
クィマームさん? あなた人の心に寄り添うの苦手ですね。
あ、俺もかもしれない。
「なんと……」
ちょっとしたざわめきが起こる。怒号が飛んだりもした。
「おい、クィマーム。言い方ってものを考えてくれ」
まったく。正論だが言い方ってものがあるだろうが。
「だが、重要な指摘です。敵と我々では命の価値が違う。人類陣営は多少の人死になど気にも留めません」
「……悪魔じゃないか」
「そも、妾は悪魔。なればこそ
ああ、クィマーム。人の心とかないのか?
「落ち着かれよ‼ ここで揉める話ではない。若造、口を慎みたまえよ。彼らは私の友人だ」
珍しくロイドから怒号が飛んだ。
若いのはちょっと委縮した、というよりはこちらを見て口が滑ったなと反省していそうだ。
よかった。最低限の知性はある。これは小隊長としてという意味ではあるが。
「すまないな。最近の苗木は躾がなっておらなんだ。血を見すぎたせいかの?」
「いえ、もとより理解など求めてはおりません。妾の忠誠と戦功は流れた血によってのみ測られるべきです」
クィマームの物騒モードはまだ終わらないみたいだ。
今から人類陣営は
トレント達はみな固まっている。
「我が王、攻撃の裁可を頂きたい。この森に踏み入れた人類陣営を
「分かった。クィマーム、君の戦いを見せてくれ」
俺は応じた。
ロイドはまだ少し難色を示しているか?
「しかし、良いのか? 君が産んだばかりの兵隊を出すというのかね」
「問題ない。そのための眷属だ。安い命には安い命をぶつけるまでのこと」
クィマームはそう言い放つと、両上腕で触角をもぎ取った。
「「「「え⁉」」」」
クィマーム以外が凍り付いた。もちろん俺もだ。
「何をしてる? 痛くないのか?」
「何を申します。これは杖です。『伝令杖アーチボルト』かつての敵軍はそう呼びました」
ここに戻って来る途中でどこからともなく取り出した杖はそれだったのか⁉
角を任意に取り外せる生き物なんていただろうか。
クィマームはその杖を西に向けた。
「さて、我ら悪魔同士の戦いをご覧に入れましょう」
クィマームの目は爛々と輝いた。
「……おい、クィマーム。意気揚々としているところ悪いんだが、ご自慢の眷属が出てこないが?」
待てど暮らせど巣穴に変化は無かった。
音も振動もない。まったくもって静かだ。
「え? ここは最前線ではないのですから、当然でしょう?」
「ん? じゃあ今何してるの? 格好いいポーズを決めただけってことはないよね?」
「ええ、うつけではないのですから。指揮ですよ」
うーん? どうにも解せない。
ちょっと頭の中覗いてみよう。
召喚方式を切り替えてっと——
「おいおい、こりゃとんでもないな」
「ノボル君、何が起きておるんじゃ?」
ロイドは俺がクィマームと感覚を共有しようとしていることに気付いたみたいだ。
「いや、それが、とんでもないんです」
俺の語彙力は戻らなかった。
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