第18話 琥珀蟲籠のありか
沼地を出て来た道に戻る。
ウッドチップは水気が浸み込みづらいらしく相変わらず乾いていた。
「では、今日はさらに東に歩みを進めるか」
これまでと同じように4㎞伐採、いや粉砕して前進した。
「我が王、これを見てくれ」
だいぶ進んだ頃に、
「ん? なんだそれは? 黒い羽根。でも金属光沢がある?」
「ああ、思ったより厄介かもしれんぞ」
「強いのか?」
「……そうだな、強い。脅威度が一段上がるな」
それが落とし物の主だった。
「しっかし、やっぱり昨夜の奴らはカラスではなかったか」
「まあ、顔つきがね」
羽毛が真っ黒であることを除けばフクロウだったからなあ。
そんな話をしながらも前進する。
しかし、前と言っても今までとは意味合いが違う。
落ちている濡刃が多い方向だ。
「【戦技:水飛沫】」
今までよりも抑えた威力だが、範囲は横方向に広く取っている。
これによって進むべき方向を明らかにするのだ。
「しかし目立つね」
「ああ、刃が通らないということだ」
これは2つの側面を持っている。
1つは、【水飛沫】で更地にしてなお、羽が原型を留める。
しかも頑丈なくせに中は空洞なのか驚くほど軽く、ウッドチップが沈み混んで、地面の一番上に残る。非常に探しやすかった。
ちなみにこれも戦利品として拾い集めている。
もう1つは、太刀が通らないことそのものだ。戦闘になったときに飛行手段が奪えないかもしれない。
「でも羽根の大きさからすると、図体はでかいよね」
「ああ、7尺はあるじゃろうな」
……だいたい210㎝か。少しづつ尺貫法に慣れてきた。
ゆくゆくは広めたいなメートル法。
そんなことを夢見ながらも、俺の目はしっかりと現実を直視していた。
「
10mほど前方の木の枝にきらりと光るものを見つけた。
「うん? あれは魔獣ではない。ただのカラスじゃないか?」
「いや、咥えている物がね、けばけばしいほどに光ってない?」
ラメ、ってやつだろうか。
チープな煌めきを放っているが、ベースとなる色は黄金だった。
「うん⁉ 奴の
「あのケバさは
「ああ、じゃがなんで普通のカラスが持っておる? 奴の抱える邪気はこんなものでは無いはず」
「邪気? そんな奴仲間にして大丈夫なのかよ?」
それよりもだ、もっと重大なことに気付くべきだろう。
「なんでこの瘴気の森にあってカラスが普通でいられるんだ?」
「それは簡単なことよ。鳥は遠くまですぐに来れるからな、瘴気の影響が出にくいのだ」
森を10㎞ほど入ってから、クマ、シカ、オオカミは全て魔獣化したんだが、あのカラスは一飛びでここまで来たと言うことか。
「じゃあ、チャンスだね?」
「ああ、一撃じゃ【戦技:水飛沫】‼」
小声ではあるが気合の入った一振りだ。
水の刃がカラスに吸い込まれていく。
そのときだった。カラスが
「グアアアRR‼」
水刃が当たる直前に魔獣化。ガキン! という金属同士がぶつかり合うような音がして、文字通りの
「ぐぬぬ、よりによって今魔獣化するか」
「瘴気が集約してたな。質量保存の法則はどうなってるんだ?」
「我が王、5歩後ろに引け、そして奴と一直線に並ぶな。必ず某を挟むように」
「了解」
しかし、協議が命の取り合いで良かった。フィギュアスケートみたいに芸術点を稼ぐスポーツだったら、勝利は奴のものだっただろうな。
「ぐぬう! 厄介極まりないな」
翼を広げた長さは10mを超えるか?
さすがにデカすぎるだろ。
プテラノドンが10m弱らしいから、恐竜が復活したようなものだ。
「グアアアRR‼」
奴は強く羽ばたく。すると黒い羽根の一部が抜けて、こちらに飛んで来る。
「危ない‼」ガギギギン‼
「うわっ‼」
すんでのところで躱す。
ヘッドスライディングなんて体育の授業以来だ。
「まずい、飛ぶぞ」
「分かった、手筈どおりね」
奴は旋回飛行を始めた。さすがに図体は重たいのか、鈍重な飛び方ではあるが、相手は空の住人。悠然と飛んで、攻撃の機会を窺っている。
こちらからは手出しができないので、俺は
しかし、賢い。さすがに魔獣化前がカラスなだけはある。
先ほどの一撃で俺こそがウィークポイントだと看破したらしい。
あるいは、鳥にだけ見える何かがあるのかもしれないが……。
「ん? 一段と鈍重になった。来るぞ‼」
羽ばたき。二度目の羽ばたきは倍プッシュだ。
「ぬおお! 【戦技:
太刀を振り回す。さらに太刀からも水滴が不規則に噴き出して、黒い刃を弾く。
「うわ、前が見えない」
なんとか刃には当たらなかったが、俺は姿勢が低くなってしまったし、水を被って一瞬視界を失った。
奴はそこが隙に見えたんだろう。
「ギャアアルRR!」
と鳴いて突っ込んできた。狙いは俺。
「ぬ? 我が王、もっと低く、巻き込んじまう!」
絶体絶命? とんでもない、待っていたんだよ。
「あれ、別に詠唱は要らなかったか」
「グギャアアアアアアRR!!」
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