第14話 樹液の魅力
黒い樹液に引き寄せられたのは俺たちだけではなかったらしい。
「グンマアアアアアアア!」
「キュイキュイキュイ!」
「ピュルロロロロロロ!」
クマ、蜂、シカが一堂に会していた。
もちろん、全員魔獣化しているのだろう。
およそ前の世界にはいないと断言できるルックスをしていた。
「ほほう。
「知っているのか?
「ああ、主には危険な魔物よな」
曰く、
「なあ、戦闘を避けてさっさとずらかるというのはどうだろうか? 俺らの目的は樹液じゃないし」
魔物3体は俺たちのことは眼中に無いらしい。
それぞれが警戒しあいつつもじりじりと間合いを詰めていた。
問題なのは、彼らの描く円の中心に俺たちがいるということだ。
「いや、ダメだな。こいつらは我らを敵だと思ってはいなそうだけれども」
「だったら姿勢を低くしてずらかろうよ」
「いや、それは悪手だ」
なんでだ? という俺の表情を察して
「こいつら、原則肉食なんだよ」
どう考えても草食獣じゃねえか。なんだその角は?
狩りにでも使うのか?
「この中じゃ
狩りに使えそうだった!
「狙うなら
吐きかけていた火炎弾は渦を巻いて散っていく。
よく見ると血煙も肉片も時計回りの螺旋を描いていた。
「我が王、某を蜂の盾にしろ!」
針が飛び出すはずの尾部にはそれらしきものが無く、10㎝弱の空洞がまるで深淵みたいにこちらを覗き込んでいた。
ズドン! 砲声が轟いた。
「【戦技:水月】」
同時に
【戦技:水飛沫】で飛ばした時とは真逆。
三日月状の水刃が
それはまるで
水の三日月は砲弾を滑らせて、
青い電撃が水刃の上を走ったのもほとんど同時だった。
水刃の切っ先は
俺たちを狙った電撃はそのまま
「うむ、両者相討ちじゃな」
頭部は辛うじて残ったので、ログハウスの暖炉の上の壁に飾れそうだ。
いや、さすがに血生臭すぎるか……。
「……電撃は軌道が読めないんじゃなかったか?」
「だから読んでないぞ。導いただけじゃ」
「焦ったじゃん」
「がっはっは。まあ勝てば官軍よ」
「こちらが賊軍みたいなこと言うなよ。俺たち正規軍なんだからさ」
「悪い悪い。じゃが、わしの腕も少しは信用したかの?」
「ああ、やっぱりお前はバケモンだったわ」
素人目にはなるが、一番火力がなさそうなのは
俺より2㎝くらい上だから、そこまで大柄なわけでもない。もちろん兜の飾りの高さは除いているが、それでも170㎝には届いていそうだな。
……くそ、羨ましい。
にもかかわらず。自分より身長も体重もありそうな魔獣を一蹴してしまった。逆に言えば
「我が王、我が王、ぼさっとするな」
ん?
見れば目の前で
「ああ、それ持っていくのか?」
「ああ、貴重な素材になるからの。ただちょっと切り落としにくいから端っこ持っててくれ」
「こんな悠長でいいのか? また蜜に釣られてやってこないか?」
一応作業は手伝いながらもたしなめる。
思えば黒い樹液から脱線しかしていないのだ。
「問題あるまい。戦闘が一瞬で終わったということは、圧倒的強者がいた証拠じゃからな。漁夫の利を得ようなどとは思わんよ。むしろ、3体の魔獣を瞬殺する強者がいると察して辺りから逃げ出すじゃろうて」
遠くを飛ぶ鳥の羽ばたきが聞こえそうなほどだった。
「さて、では先に進むか。あ、その前にもう一口じゃな」
「俺ももうちょっと飲む」
黒い樹液はたしかにやみつきになる味わいをしていた。
とくに、命の危険を退けた後の一匙は格別だったな。
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