第4話 決断

「目覚めた?」

「あ、ローザリンデさん、お、おはようございます」

「今は夜」


 どれくらい時間が経ったのだろう。とりあえず今は夜らしい。

 ここは、ログハウスというものか、俺は丸太を組んでできた家に居た。

 俺の寝ているキングサイズかな。トレントには少し小さいかもしれない。


「痛むところはない?」

「ないです」

「そうか。じゃあこれで体を拭いてくれ」


 そう言うとローザリンデはタオルを差し出した。気づけば俺はパンツ一丁だった。

 そしてローザリンデの言葉が敬語じゃなくなっている。

 戦わずに逃げ出した奴を相手にしていればそうか。


「じゃあ、問題ないな。看護した甲斐があったよ」

「あ、ありがとうございます」

「気にならないのか? どうして自分がここにいるか?」

「え? ああ、実は体が動かないだけで、ローザリンデさんとロイドさんが話してるのが聞こえちゃったんです。そのあとは眠っちゃいましたけど」


 そう言うとローザリンデは難しい顔になった。

 考え事をしているのだろうか?


「いや、すまない。なら作戦が決行しやすくなっただけだな」

「え?」


 そう言うとローザリンデは自分の服を脱いだ。

 人並み外れた大きさのバストが露わになる。

 まつ毛から下には毛が生えていないことも見て取れた。


「え? え⁉ えええ⁉」

「なんだ女を抱いたことが無いのか?」

「いや、別にそそそんなことはないけど」

「その割には初々しい反応だな」


 ローザリンデはクスクスと笑った。

 ばれてる。


「ふふふ。我慢しなくていいぞ。会った時からチラチラ見ていたのは知っている。今も目が泳いでは戻って来るな」

「いや、よくない、非常によくないよ、こんなの」

「ああ、別に気にしないでくれ。私は今夜君に寝ずの番をしにきただけだ。体調の急変に備えてね」

「いや、看護で脱いだりしないじゃないですか」

「勿論、これはただの人間対策だよ。将来を見据えたね」

「人間対策?」


 意味が分からなかった。


「我々が人間に捕まると、ひたすら犯されることになる。性的な絶頂を迎えるときに分泌される唾液がいい薬になるみたいでね」

「え? ローザリンデさんは人間じゃないの?」

「私はアルラウネ。半分植物半分人間って感じかしら」

「そうなのか、この世界は何が何だか……」

「うん、見知らぬ世界だから大変よね。話を戻すと、捕まった時の苦痛は小さい方がいいでしょう。だからこうして予め媚薬を塗り込んでおくの」


 ローザリンデは少し粘性の高い液体を胸に垂らして、塗り込み始めた。

 俺に処方するために持ってきた物ではなかったのか。

 しかし、薄い桜色の乳首の不規則な動きに視線が吸い寄せられてしまう。


「ええ……」

「目の毒とでも言いたげだね? 別に無理に見る必要はないし、催したら抱いたっていいわよ。私も人間に慣れておきたいしね」

「なんでこんなこと……」

「……もう後が無いから。現状あり得る打開策は蟲珀魔こはくまの暴威だけ。でもあなたが戦わないなら次の蟲珀魔こはくま使いの召喚は半年以上先。しかも、呼べるかどうか確実じゃないし、呼んでも君と同じような人かもしれない」


 ローザリンデがベッドに腰かけた。ほんのりと薔薇の香りがした。

 胸には塗り終わったのか、腕や首周りに塗り始めた。


「だから私はあなたを戦士にした方がいいと思った。でも選ぶのはあなた自身よ。ロイドは逃げる者を追わないし、強制したことがばれたら私も追放されるからね」

「……」

 

 声色は少し明るくなったが、目は相変わらず殺気立っていた。

 彼女は、ここが一世一代の大勝負だと思っているように見えた。


「だんまりなんだ。あなた、戦ったことないんじゃない? 自分の意志を押し通したことないでしょ。争いからはずっと逃げてきた、いや、逃げてこられたって顔をしているもの」

「う……、だったらなんだよ」

「羨ましいわ。戦わなくても生き残れるなんて。でもだからこそ戦って勝って支配する喜びに気が付かなかったのね。今のあなたには力がある。勝利のための力がね」

「戦えば死ぬかもしれないんだぞ。勝って何が得られるっていうんだ」

「たとえば私」


 即答だった。わずかな迷いや躊躇いもなかった。

 

「あなたが戦わないなら、私はそう遠くない未来に人間に捕まる。媚薬漬けにされて犯されて、飽きられたら薬の原料を吐き出す機械にされる。跪かされて、背中に水滴を垂らされただけで、淫らに薬を吐き出すだけの機械にね。」


 俺は言葉が出なかった。


「そう言う意味じゃ。遅かれ早かれ私は戦利品なのよ。ロイドは自由な意志の選択が大事なんて言うけど、自由なんてあったところで、私には戦利品になる未来しかない」

「……」

「そう言う意味ではあなたと私は似た者同士ね。あなたも人間の奴隷になるか、森のために戦うかの2択しかない。ほかにも選択肢はあるかもしれないけど、今のあなたに見えてる?」

「……いや、見えないな」

「呼んでおいて悪いのだけれども、戦わないあなたを養うだけの余裕はこの森にはないわ。もうじき滅ぶもの。」

「そう、だよね」


 敗戦間近の国に来てしまったのだから、それも頷ける。

 周辺国は、国じゃなくて単なる資源と、戦争ではなく開発のための投資と思っているかもしれない。


「じゃあ自由はあるけど選択肢が無いもの同士、仲良くしましょう。私はあなたに勝って支配する喜びを教えてあげられる。媚薬にまみれたこの体ではあなたに逆らえないからね。どこを触られたって無様に果てるだけでしょう」


 そう言うとローザリンデは薬品の瓶を俺に押し付けてベッドにうつ伏せに寝た。


「湿っぽくなっちゃったね。じゃあこれ背中に塗りたくってくれる? ここを一番敏感にしておきたいんだ。でもあなたが戦うと言うなら好きな所に塗り込んでいいわ」


 俺は、戦うことにした。

  

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