第3話 戦う意志
走りに走った。いたたまれない雰囲気に耐えかねたは最初だけだ。
この森は自然が豊か過ぎる。都会の高校に通っていた俺はコンクリートジャングルに適応してしまった。今は狼を出し抜いて、全力で走っている。
「オリエンテーリング、やっておくべきだったなあ」
新入生の時に「オリエンテーションですか?」と聞き返して
山の中に地図とコンパスを持って入って、指定された地点を巡る競技。
これだけ聞くとピンと来ないかもしれないが、クラスメイトが楽し気に話すたびに、後悔したものだ。
「煙だ‼ 人がいるはずだ」
木々の隙間からでも煮炊きの白い煙は見えた。
希望が見えてきた。そういえば道も獣道みたいなものに変わってきている。
もうすぐ森を抜けられると思った。
「人だ、人がいる良かった」
やったぜ。ついに人間を見つけた。金髪と茶髪の男が3人。
斧を手に話をしている。助けてもらおう。
目が青いから地毛だろう。ヤンキーってことはないよな?
「ヘイ、ハウアーユー。ヘルプミー」
拙い英語で話しかける。
しかし、ピンと来ていないみたい。
男たちは首を傾げて、訝し気にこちらを見ている。
「あれ? 言葉通じますか?」
日本語に切り替えて、もうちょっと近づく。笑顔は大事だ。
よかった。何を言っているかは分からないけど、笑顔で迎えてくれた。
1人の男が肩に手を掛けてくれる。遠くからご苦労様ってことかな?
「うっ⁉」
頭部に衝撃。俺はそのままブラックアウトした。
「ううむ、人間族を過大評価しておったわ。何もしていない同族に対してこの仕打ちか」
「正直酷いですね。これ奴隷の首輪ですよね」
男の声と女の声が聞こえる。ここはどこだろう?
目も開かないし、指一つ動かせない。
今できることはこの男女の会話を聞くことだけだ。
「だがこれも巡り合わせか。実はノボルが来た時から私の持っている琥珀は反応しているのだ」
「え? なぜそれを黙っていたのですか? 私は召喚に失敗したとばかり」
「すまなんだローザリンデ。しかし、力があることが分かってしまえば、皆は無理やりにでも心優しいノボルに戦わせようとするじゃろう。高貴なるものの務めとしてな」
「それはそうですが、今は非常時じゃないですか……」
「言いたいことは分かっておる。が、志願制こそ頑固ジジイの譲れない一線じゃ。森に生まれ育ったならいざ知らず、この者は渡来人。この森のために戦う理由はない。当然死ぬ理由もない」
ローザリンデってことは、あのローザリンデなのだろう。
そして男の声はロイドか。
どういうわけか俺はあの森の奥に戻って来てしまったわけか。
ローザリンデが悲痛な声を上げた。
「では、どうすれば、どうすれば彼を戦力に組み込めるんですか?」
「ひとえに彼の意志じゃ。彼をしてこの森を守らしめる理由があればよいのだ。意志こそが重要じゃ。意志無き根に大地は切り拓けぬよ」
「もっと、血に飢えた人を召喚すればよかったと言うことですか? 次こそはそう言う人を呼んで見せます」
「そう熱くなるな。心優しい者を強くすることは簡単だ。戦いを教え、勝ち方を教え、勝利の美酒を飲ませてやればよい。しかし、強い者を優しくする方法は確立されていない」
もう話すことは無いとばかりに、ローザリンデは無言で去ろうとしたみたいだった。
ロイドは慌てたように引き留める。
「待て待て、ローザリンデ」
「君を呼んだのはこんな話がしたかったからではないのだ。見てくれ」
「これは、琥珀が黄金の輝きを放って……綺麗。とても綺麗です。」
「ああ、綺麗じゃろう。私も初めて見る。以前見た
「じゃあ、私は召喚には成功したのですね」
「ああ。あとは彼の意志次第じゃ。といっても残酷なことに選択肢はほとんどない」
「人間族に付いて奴隷にされるか、私達と悪戦苦闘を余儀なくされるか、ですか」
「そのとおりじゃな」
ロイドは深いため息とともにこう続けた。
「いつまでもこの奴隷の首輪を付けさせておくわけにもいかんじゃろう。ちょっとやってみるかの」
「琥珀を、昇の胸に押し当ててどうするのです?」
「
パキャリン、そんな音が聞こえた。
「このとおり破壊される」
「凄い。やはり
確かに胸に何かを押し当てられた感覚はあったが、身体は相変わらず動かない。
目を開けることさえできないままだ。
「ああ、じゃからと言ってそんな顔をするな。あくまでも重要なのは彼の意志じゃ」
「……承知しています」
「やれやれ、これだから戦争は嫌いなんじゃ。のびのびと枝葉を伸ばすためにこそ集うたはずなのに、その集団のために死ぬのが義務なわけなかろうて。人間と戦うために人間に成り下がってどうするんじゃ」
ローザリンデは行ってしまったようだ。ロイドの独り言が寂しく響いた。
俺の意識も再び途絶えた。
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