13.「いえ、何でもないです。素晴らしい道具ですね、流石は師匠、流石は僕の母上です」

そよ風が吹き、草木を揺らす音が聞こえる。

陽気な日差しを浴びながら、少年は一人大きな岩の側で座禅を組んでいた。



「……」



少年は目を閉じ、静かに呼吸をする。

精神を統一させ、身体の中にある妖力を循環させる。



「……よし」



少年は目を開ける。そして拳を握りしめ、立ち上がり構えをとった。



「はぁーッ!!」



裂帛の気合いと共に少年は下にある岩に向かって正拳突きを放つ。

凄まじい轟音を立て、岩が粉々に砕け散った。



「ふぅ……」



少年は息を吐き、破壊された岩の破片を見つめる。



「やったぁ!やっと砕けました!」



少年は嬉しげに笑った。

幻魔に修行をつけてもらってから幾ばくかの月日が経ち、少年は日々鍛錬を重ねていた。

そんな少年は今、ようやく目標としていた大岩の破壊に成功したのだ。



「うむ。見事じゃ!」



いつの間にか背後に現れた幻魔が拍手をしながら言った。その表情は満面の笑みである。



「半化生が生来持つ身体能力に加え、鍛錬により増大した妖力。その妖力を身体に循環させる事により、爆発的な肉体強化を可能にしておる。その状態で放たれた拳の威力はまさに必殺……もはや並の人間では相手にもならぬであろう」


「ありがとうございます!……けど、まだまだですね。全然師匠には及びません」



少年は少し悔しげに俯く。

確かに少年は強くなりつつあったが、幻魔の足元にも及ばないのが現状であった。

そもそもの話、足元以前に彼女の強さの底すらも見えないのだ。



「そりゃ当然じゃろう。儂とお前では生きておる年季が違うからの。この差は早々埋まるものではない」



幻魔は苦笑いしながら一つの岩に近付いていく。それは今しがた少年が砕いた岩よりも遥かに大きい巨岩だ。

彼女はそれに指をちょんと触れる。すると巨岩は爆散し、細かな破片となって飛び散った。



「妖力というのは無限の可能性を持っておるが、その使い方を誤れば危険極まりないものとなる。岩相手ならばいいが、人相手に使えばどうなるか分かるか?」


「……分かります」



少年は顔を青ざめさせ、首を縦に振る。

もし仮に、妖力で増強された肉体で人を殴ったらどうなるのか……考えるだけでも恐ろしい。

妖術、忍術だって同じだ。具現化された炎や氷は命を簡単に奪う事が出来るだろう。



「じゃが、それを恐れていては始まらんぞ。時にはその恐怖を乗り越え、己が身や大切な者を守る為に相手を殺さねばならん時もある。それが戦いというものだ」


「……はい」



少年は神妙な面持ちで返事をした。

忍と戦いは切っても切り離せぬ関係にある。時に非情な決断を迫られる事もあろう。

しかし、少年はその選択を出来る自信は無かった。命を奪う…それは少年にとってあまりに重い行為だから。



「ま、今は悩むな。答えが出るのはずっと先の事じゃ。それよりほれ、これをやる」



幻魔は懐から何かを取り出し、それを少年に投げ渡す。

少年は慌ててキャッチし、それが何なのかを確認した。



「これは…ビー玉?」


「ほう、ビードロを知ってるのか。そう、それは確かにビードロの玉…しかも妖力が練り込まれた特別製じゃ」



少年の手にあるのは透明なガラス球だった。その中には妖しい光が灯っている。



「それを通して儂の姿を視てみよ」



少年は幻魔に言われた通りにする。すると、幻魔の姿がゆらりと歪んで見えた。

ビー玉越しに見る幻魔はいつもより輪郭がハッキリせず、まるで陽炎のようにユラユラと揺れている。

少年が暫く見ているとその内に何やら文字と数字のようなものが浮かんできた。



『タヌキそば20万杯分前後』



「…?」



タヌキそば?20万杯分?

見間違えだろうか、意味が分からない…少年は困惑した。



「なにが見える?」


「えぇと…タヌキそば20万杯分という文字が…」


「ほぅ、お前にはそう見えるか」



幻魔はフッと笑うと、言葉を続けた。



「そのビードロ越しに生き物を見ると相手の内在する力が見えるのじゃ。そしてそれは見る者に分かりやすい表現で教えてくれる…つまりお前から見れば儂はタヌキそば20万杯分の強さを持つということじゃな」



幻魔の言によればこのビー玉は相手の強さを測る事が出来る代物らしい。どこぞの宇宙人が使っていた戦闘力を測る事が出来る機械のようなものか……

しかし表現の仕方が奇妙なものだ。幻魔は分かりやすい表現に勝手に変わると言ったが、単位がタヌキそばじゃよく分からない。



「ちなみに自分の強さも見る事が出来るぞ。それを通して掌を見てみよ」



少年は言われた通りにビー玉を通して自らの掌を見る。すると次のような文字が浮かんできた。



『おはぎ1200個分くらい』



「……」



少年は頭を抱えたくなった。色々突っ込みどころはあるが…まず何故単位がさっきと違うんだ。

タヌキそばとおはぎじゃあ比べようがないし、その時点で測定器としては破綻している。しかも前後やら、くらいやらかなりアバウトな感じだし……

そもそもおはぎ1200個分というのがどれくらいの強さなのか全く分からない。

これを作った人物は相当適当な人に違いない。



「師匠、これは出来損な…」


「それはな、儂が作った人妖測定玉じゃ。ある程度の実力があるならそれを使わんでも相手の力量が分かるじゃろうが…駆け出しのお前にはちょうど良いと思っての」



わぁ…作った人が目の前にいたぁ…

少年は驚きのあまり口をあんぐり開ける。



「どうした?難しい顔をしておるが……」


「いえ、何でもないです。素晴らしい道具ですね、流石は師匠、流石は僕の母上です」



少年は曖昧に微笑むと、ビー玉を握りしめた。

もう何も言うまい。とりあえずこれでいいじゃないか。



「そうじゃろそうじゃろ、もっと褒めてもよいぞ!あ、言うとくが妖怪や半化生は強さが固定されやすいが……人間、特に英傑は強さが変動しやすいからあまりアテにはするなよ」


「強さが変動?人間は強さが変わるのですか?」


「うむ。英傑の連中は戦いの最中に爆発的な力を出したりする。その玉で計れるのはあくまで目安じゃ。それをゆめ忘れるでないぞ」


「はい、師匠!」



まぁ目安でも相手の強さが分かるのは有り難い。過信はしない方が良さそうだが、今の自分には役に立つだろう。



「……ところで話は変わるが、最近お前が修行ばかりしておって寂しいんじゃが……たまには一緒に遊ぼうではないか!」



幻魔は悪戯っぽく笑いながら少年に近付き、彼の腕を掴む。



「し、師匠…」



少年は顔を赤らめ、少し戸惑った様子を見せる。



「ふっ、照れるでない。さ、行くぞー!今日は一日イチャイチャし倒すから覚悟せい!!」


「うわぁ!?♡♡」



幻魔は少年の腕を引っ張ると、そのまま押し倒し、馬乗りになる。



「さて、まずは何をして遊ぶかのう……やはり定番はくすぐり合いっこか?」



幻魔はニヤリと笑うと、少年の身体をまさぐった。



「あひゃ、ちょ、くすぐらないでくださ……♡♡んんんんん!!!」



少年は身を捩り悶える。最初はくすぐったそうにしていた少年だが、その内に熱を帯びた吐息を漏らし始めた。



「ん?どうした?そんな声を出して……」


「あ、あの……その……♡♡」



少年の顔は紅潮しており、瞳は潤んでいる。



「どうして欲しいのか言ってみよ。言わなければ分からぬぞ」



幻魔は意地悪な笑みを浮かべ、少年の耳元で囁いた。

少年はビクッとし、身体を震わせる。

彼女は少年の服に手をかけ、脱がそうとしてきた。



「あっ、し、ししょ……やめて……ください……♡♡」



少年は弱々しく抵抗するが、幻魔はその手を掻い潜り、少年の上半身を露出させる。

そして少年の胸板から腹筋にかけて指先でなぞるように触っていく。

少年はゾクリとした感覚に襲われ、背筋に電流が流れたかのように仰け反ってしまう。



「ほう、なかなか鍛えてあるな。真面目に鍛錬しておるようで感心感心…♡♡」



幻魔は感心したように呟き、今度は少年の首筋に舌を這わせた。



「あぅ……♡♡…ししょう……♡♡だめぇ……♡♡」



少年は全身から力が抜けていき、蕩けた表情になってしまう。

幻魔は少年の反応を楽しむかのように、首や鎖骨にキスをしたり、舐めたりした。

少年は甘い刺激に身を任せ、されるがままになっている。

やがて幻魔は唇を離すと、少年のズボンを脱がせにかかる。



「やっ、そこは……ダメです♡♡恥ずかしい……♡♡」


「何を今更、散々弄くり合った仲であろうに♡♡」



幻魔は少年の言葉を無視し、強引にズボンを



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



幻魔「申し訳ないがこのシーンは健全版では誤魔化しきれないので流石にNG」(指でバッテン)


白狐くん「そんなぁ……」



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★




「はぁ……はぁ……♡♡」



少年は息を荒らげ、ぐったりとしている。

幻魔はそんな彼の頭を撫でると、額にキスをした。



「よく頑張ったな……偉いぞ♡♡」


「ママ…♡♡」



幻魔はそう言って少年を褒め称えた後、ぎゅっと抱き締める。

少年もそれに応えようと、力を振り絞って彼女を強く抱きしめ返した。

二人は暫くの間、お互いの存在を確かめ合うようにして抱擁を交わしていた。

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