オレンジ色の光
櫻井金貨
オレンジ色の光
それはある日の夕暮れのこと。
とある国で、夫と車で移動中だった。
まっすぐに伸びるハイウェイを走って、延々と西に向かって進み続ける。
すでに八時間は車の中。
さすがに肩から腰がガチガチになっている。
一方、運転席の夫は、眠そうに見えた。
この辺りなら、私でも運転できるか。
交代しようと声をかけようかな、そんなことを考えていた。
その時、ふと気がついたのは、進行方向左側の上空に見える、大きなオレンジ色の光。
それは、遠近感を無視したような、異様な大きさで、空に浮かんでいた。
気がつくと、いつも同じ位置にある。
いくつか街を過ぎても、ずっと、左側の上空にその光はある。
車は常に移動しているのに、その光の大きさも、変わることがない。
まるで常に同じ距離を保っているかのように。
「太陽?」
「違う。太陽はほら、向こう。あの光は、どちらかというと、南の空にあるんだ」
「人工衛星……?」
「にしては、大きすぎないか?」
だんだん、落ち着かない気持ちになってくる。
まるで何かに見張られているかのよう。
何も起こっていないかのように、ハイウェイには大量の車が走り続けている。
何も起こっていないかのように、ラジオは90年代のロックを流し続けている。
なのに、車の窓から外を見れば、オレンジ色の大きな光が空に浮かんでいる。
そして1時間ほどが過ぎただろうか。
気がつけば、オレンジ色の光は、いつの間にか消えてしまっていた。
あれは何だったのだろう。
他の人も見たのだろうか。
まるで巨大な太陽のように、夕暮れの空に浮かんでいた、オレンジ色の光。
いつの間にか陽は沈み、すっかり、夜になっていた。
「そろそろ、泊まるモーテルを探そう」
夫の言葉に、私はスマホの地図アプリを開いた。
「空軍基地……」
「え」
「この近くに、空軍基地があるね」
そうなんだ、知らなかったな、と夫が呟いた。
「モーテル、見つかったよ。***番出口」
「よし、じゃあそこに行こう」
ウィンカーを出して、車線を移動する。
街に降りる出口が見えていた。
夜空を最後にもう一回見上げたが、そこにはもちろん、オレンジ色の光はなかった。
オレンジ色の光 櫻井金貨 @sakuraikinka
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