49.「オ、オエェーー!!!!な、なんて事言うのよアンタ……!」

雷を放つエルフを殺そうとボコボコにし続けるアイリス。しかしこのエルフはやけに頑丈で幾ら殴っても死ぬ気配がなかった。

最初は楽しかったアイリスも流石に飽きてきたのか殴るのをやめ、そう言えば戦争中だったなと思い出し王国軍と合流しようと思い歩き始める。


「───」


完全にサンドバックと化し、白目を剥き気絶している謎の雷エルフはなんか偉そうなエルフだったので捕虜にしよう。

アイリスはメルティアを脇に抱えるとそのまま悠々自適に戦場を渡り歩く。


「うーん、やっぱこの鎧、暑苦しいわねぇ」


歩いていると段々と厚くなってくる。この呪われた鎧のせいで身体はムレて不快極まりない。

聞くところによるとこの鎧はファルツレインの業が詰まったおぞましい鎧らしいのだが、脱ごうとしても脱げないのでアイリスは諦めていた。

しかしアラクシアならば解呪方法を知っているのではないか?とふとアイリスは思った。彼女はイライザの副官であり、ファルツレインの一門の筆頭だ。

恐らく何か知っているに違いない……。

アイリスはそんな事を思い、アラクシアの元へと歩を進める。


───そうして、ようやくアラクシアを見つけた時、彼女は地面に倒れ伏し、気絶していた。


「……」


折角見つけ出したのに、何故気絶しているんだこいつは。やっぱり王国軍は使えねぇ奴ばっかだな……。

そう思いアラクシアの不甲斐なさにムカついて、脇に抱えていたメルティアを放り投げる。


その時だった。


「ひっ……ひひひひひっ……!!テメェ……最高だぜ……!!!殺し合いにきたんだろ?なぁ、おい!!!俺もよぉ、テメェを殺せるってんなら他の奴はどうでもいいわ!!さぁ、殺し合おうぜ!!」

「?」


近くから聞こえて来た甲高い声に視線を移すと、そこにはとあるエルフがいた。

巨大な斧を担いだ巨大な斧を担いだ大柄のエルフだ。

アイリスは彼女の姿を一目見ただけで関わっちゃいけない人種だと、理解した。してしまった。


「え?なにアンタ……頭大丈夫?」

「うひ、うひ!うひひひひ!!!こいつわぁ……!!最高だぜぇ……!!」


アイリスはドン引きしていた。エルフらしく美しい外見の女だが、その表情は明らかに尋常ではなく狂っている。

エルフの変質者が出た、とアイリスは思った。


「そ、そう?何が最高なのかは知らないけど……じゃあ私行くから。お幸せに……」


こんなキチエルフに構っている暇はない。多分こいつは戦場でオナニーでもしていたに違いない。

アイリスは踵を返し、その場から離れようとする。


───だがその瞬間。


「グルァァァ!!!!」


アイリスの背後から巨大な狼が襲いかかってきた。オーランディア率いる狼騎兵が騎乗していた森狼である。

狼は主の敵であろう存在、アイリスを屠ろうとその大きな牙を突き立てようと飛びかかってくる。

常人ならば決して避けられぬ奇襲だった。

しかしアイリスの身体は死の気配に敏感であった。背後に迫りくる死神の牙の気配を感じると、振り返る事なく裏拳で森狼を殴り飛ばす。

アイリスの裏拳はまさに砲弾のような威力だった。森狼はその一撃を身体に食らった瞬間に、弾け飛んだ。

文字通り、弾け飛んだ。悲鳴を出す暇もなく、ボフンと。内臓が弾け飛び、血液が周囲一体に飛び散る。

血飛沫がアイリスの頰にかかり、彼女は思わず背後を見る。


「ん……?うわ、何よこれ!?」


そこには弾け飛んだ狼の死骸があった。アイリスは無意識に裏拳を放ったのだ。それはアイリスの身体が狼を敵と見なしていない証拠であった。

指先一つで弾け飛ぶ……そんな取るに足らない存在はアイリスは認識すらしていなかった。

そしてそんな光景を見ていたオーランディアと森狼達。狼は仲間が無残な死をもたらされた事で怒り狂い、吠え……なかった。

彼らはアイリスの身体から滲み出る圧倒的な闘気の奔流に怯え、「くぅん……」と鳴き声を上げ後退る。


「うわぁ何よこれは……誰がこんな事をしたのかしら、酷いわねぇ」


アイリスは犬が好きだ。人間に尻尾を振り、媚びる犬という存在が大好きだった。

だから犬と似たような姿形の狼がこんな凄惨な死を迎えているのを見て憤った。

誰がこんなひどい事をしたんだ。幾ら戦場とはいえ、大きな犬みたいな生き物を無残に殺すなんて許せない。

アイリスはこの状況を自分が作り上げた事にも気付かぬまま、死んだ狼の冥福を祈るのであった。


「ひゃは!!いいねぇ……最高だぁ!!!」


そしてそんなアイリスの一連の行動を見ていたオーランディアは歓喜の声を上げ、興奮したように笑っていた。

あの凶暴な森狼を一撃で粉砕し、残った狼もアイリスの事をまるで悪魔か何かを見たかのように怯えている。

戦場に転がるこのような愉快な光景をオーランディアは好んでいた。


「うひひ!もっと、もっと見せてくれぇ!!そのバカみたいな力をよぉ!!」


オーランディアは笑い続ける。恍惚とした表情で涎を垂らしながら、アイリスを見て笑っていた。

そんなオーランディアの様子を横目で見ていたアイリスだが、今までに見た事がないタイプのエルフを見て彼女は困惑した。

こいつは間違いなくヤバい奴だ。恐らく変な草の香りでも嗅いで頭がぶっ壊れてるのだろう。

こういう手合いは目を合わせないに限る……。

アイリスはそう思い、無言でその場を立ち去ろうとした。しかし、そんな彼女にオーランディアの巨大な斧が振り落とされる。


「シャア!!!!!」


狼の一撃をも超える神速の一撃。だが、アイリスには見えていた。彼女は片手を上げると振り落とされた斧を指の間で挟み、受け止める。


「───っ!?」


オーランディアが息を飲んだ。だがアイリスは彼女が驚いている隙にもう片方の手でオーランディアの腹部を殴りつけた。

その一撃はどんな武器よりも破壊力があった。オーランディアの身体はまるで砲弾のような勢いで吹き飛び、後方に控える味方の隊列に突っこむ。

そして次の瞬間、大爆発が巻き起こった。一瞬で周囲の空間が歪み、大気が爆ぜる。


「うわ、キチエルフに触っちゃった。えんがちょ」


アイリスからすれば何故襲われたのか理解不能だが、やべー奴の考える事は理解したくもない。

触らぬキチに祟りなし……。アイリスはやべー奴の逆鱗に触れる前にさっさとこの場を離れようとするが、またもやオーランディアの愉し気な笑い声が聞こえてきてうんざりした気持ちになった。


「あぁ───愉しいなぁ。愉しいなぁ……!!こんなに楽しいのは、数十年前にミラージュのクソガキと殺し合った時以来ダァ……!!」


オーランディアのその呟きに、アイリスの身体がピクッと震えた。

彼女の口から聞き覚えのある単語が飛び出してきたからだ。


「アンタ、あのクソババァを知ってるの?」

「ん~?知ってるもなにも、俺様とあの女は何度も愛し合った仲だ。それはもう、くんずほぐれつ……な」


アイリスの身体が固まった。


今、こいつは何と言った?ミラージュ……母と、愛し合った?それも何度も?

え?こいつ女だよな?ちんぽ生えてないよな?え、でも母と愛し合ったって……。

アイリスは混乱した。頭がついていかなかった。


「な、な、アンタ……な、何言って……」


無論、オーランディアが言った言葉の意味は言葉通りではない。彼女にとって戦いというのは愛し合う事と同義であり、殺し合いというのは互いの肉体をぶつけ合う事だった。

だがそんなオーランディアの感覚はアイリスには理解不能なものであり、混乱に拍車をかけた。

混乱に混乱を重ねた結果、アイリスが導き出した答えは……目の前の女エルフは、どうしようもない変態という結論だった。

いや、別にそれはいい。このエルフがド変態であろうと自分には関係のない事だ。しかし、この女から出てきた母の名前がアイリスには見過ごせなかった。

ミラージュ……あのクソババァ……。アイリスにとって目の上のタンコブである存在の母ミラージュ。その母がまさかこんなイカれた奴と愛し合っていただなんて……。アイリスは動揺しながらも、自らの母親の変態的な趣向を聞いて怯えた。そして気持ちが悪くなった。


「オ、オエェーー!!!!な、なんて事言うのよアンタ……!」


なんという精神攻撃だ。親の変態性癖なんて聞きとうなかった。こんなヤベー奴……しかも女とくんずほぐれつ愛を育んでいただなんて……!

まさに情報の暴力とも言えるオーランディアの言葉であるが、アイリスの勘違いである事は気付いていないし、そしてそれを指摘するものも誰もいない……。

この場にミラージュがいたら烈火の如く怒り狂いオーランディアをぶっ殺そうとするだろうが生憎彼女はここにはいない……。


盛大に吐き気を催して顔色を悪くさせるアイリスは思わず兜を取って、手で口と鼻を押さえた。

この鎧は胴体は外れないが、兜だけは着脱可能であった。兜を取れないと食事が出来ないので兜部分だけには呪い(多分)が掛かってないようだ。


「……んん?」


兜を取って吐きまくるアイリスの顔を見て、オーランディアは目を細める……。

白銀の髪……碧い瞳……。そして特徴的な、美しい顔立ち……。これは……どこかで見たような……。


「テメェ、ミラージュと似てるなァ……?」


そうだ、ミラージュだ。目の前の黒い鎧を纏った女はミラージュによく似ている。

髪色や顔もそうだが、この覇気と闘気は間違いない。奴の一族に違いない。


「もしかして……テメェ、ミラージュの娘かぁ!?ひゃはははははは!!!ひゃはははは!!」


オーランディアが確信めいた言葉を放つと、アイリスは兜をかぶり直しながら答える。


「……違いまーす。あんなクソババァの娘じゃありませーん」

「いいや、そうだ!絶対そうだ!その生意気な態度、その物言い、その闘気!そっくりじゃねぇか!!ひゃはははは!!」


オーランディアは狂喜しながら言った。


「あぁ……本当に殺してぇ」


オーランディアが呟いた瞬間、二人の間にあった空気が重くなる。禍々しい闘気がオーランディアから漏れ出し、周囲の空間を歪めた。

それは大地を震わし、空間さえも歪める異常な光景であった。


「ふぅん……?」


アイリスもオーランディアの異様な様子に気が付いた。目の前のエルフはラリっているが、他のエルフとは根本的に違う存在だ。

肉弾戦が得意なエルフというだけでも珍しいが、このオーランディアというエルフはそれだけではない。

彼女からは凄まじい闘気を感じるのだ。それはあの母のミラージュにも引けを取らない程のものであった。


「ほぅ……分かるか、俺様の闘気が?」


闘気。魔力とはまた違う、この世界の存在ならばその身が誰でも持つ力。

アイリスは無意識にそれを感じ取ったのだ。このエルフ、オーランディアの尋常ならざる闘気を……。


「そりゃあね」

「ひゃははは!!そうかそうか!だがなぁ……俺様はあのミラージュと幾度となくやりあって、生きている。その意味が分かるか?」


そう嘯くオーランディアの全身から濃密な闘気が溢れ出る。

アイリスはつまらなさそうに彼女を睨みつけて言った。


「分からないけど。それがどうかしたの?」

「この俺様が……ミラージュと同じくらい強いって事だよぉぉぉぉお!!!」


オーランディアの巨斧が振り翳された。バリバリと空気を震わす音が鳴り響く。

アイリスは眉一つ動かさずに彼女の斧撃を片手で受け止めると、そのまま力任せにオーランディアの巨躯を投げ飛ばした。


「───!!」


凄まじい速度で投げ飛ばされるオーランディアだったが空中で器用に体勢を整えると着地する。彼女はニタァっと笑みを浮かべた。


「あぁ……これだ……!!これこそが戦いだぁ!!」


オーランディアは心底楽しそうに笑った。アイリスは思う、こいつはきっと頭がおかしいのだろうと。

こんな頭のイカれた奴と母は愛し合っていたのか?そう思うとアイリスは吐き気と背筋の凍る感覚を同時に味わった。


「雑魚を何人殺しても、何も面白くねぇ……!!テメェみたいに俺様と互角に渡り合える奴がいなきゃあなぁ!!」


オーランディアがアイリスに向けて再び突っ込んでくる。彼女の身体からは闘気が溢れており、それが彼女の身体能力を更に高めていた。

その速さは先程の比ではない。まさしく目にも止まらぬ速さで彼女は動き回り、アイリスに襲い掛かる。

オーランディアの巨斧が何度もアイリスに振り下ろされる。大地は抉れ、空気は爆ぜた。

それは常人ならば目で追う事すら不可能な速度であったが、アイリスの反応速度はそれすらも凌駕していた。

迫りくる刃を彼女は拳で受け止め、時に流し、または弾き返す。

それは刹那の攻防だったが、オーランディアの攻撃は一発もアイリスには当たらず、避けられるか弾き返されるか、だ。

そしてその攻防の最中、アイリスはポツリと呟いた。


「互角、ねぇ」


不意にアイリスの全身から禍々しい闘気が溢れ出た。

その闘気には殺気が込められており、オーランディアは思わず身震いする。


「ミラージュのクソババァに苦戦している程度で私とやりあうだなんて、舐められたもんだわ」


瞬間、アイリスの姿が消える。そして次の瞬間にはオーランディアの巨躯が宙を舞っていた。


「は?」


思わず気の抜けた声を漏らすオーランディア。なんだ?なにが起きた?オーランディアは混乱していた。自分が宙を舞った?何故?どうして? 彼女は思考する間も無く、地面に叩きつけられる。肺から空気が全て吐き出され、一瞬だけ呼吸が出来なくなる。


「ぐぼぉ!!」


苦し気に呻くオーランディアだったが、アイリスは既に彼女の目の前にまで接近していた。

アイリスはオーランディアの首を掴むとそのまま持ち上げる。そして無造作に、まるで紙屑を放るかのように彼女はオーランディアの身体を放り投げた。


「ぐ───うおおおおおおおおおおおお!!?」


砲弾のような速度で吹っ飛ぶオーランディアの身体。オーランディアは咄嗟に空中で態勢を整え、斧を大地に突き立てろようにして身体を無理やり停止させる。

だがそれでも勢いを殺しきれずに地面をガリガリと削りながら後退し続ける。


「な───んて馬鹿力だテメェ……!」


信じられないといった面持ちで呟くオーランディア。その身体は既にボロボロであった。全身の骨が軋み、筋肉は悲鳴を上げる。

そんな彼女を見てアイリスは「ふぅ」とつまらなさそうに溜息を吐き、言った。


「3歳」

「あん?」

「3歳の時、私は既にミラージュのクソババァより強かったわ」

「───は?」


再び間の抜けた声を出すオーランディア。アイリスは「うーん」と唸ると続けた。


「うん、じゃあ10秒あげるわ。せいぜいその時間で私に殺されないように頑張ってね?」


その言葉を聞いた瞬間、オーランディアは理解した。

───こいつは、化け物だ。それは圧倒的なまでの身体能力と、それに見合った膨大な闘気。

オーランディアの闘気すらも抑え込んでしまう程の力を持った化け物だ。


「は───ははは……」


オーランディアの口から笑いが漏れる。口元は大きく歪んでいた。

そして彼女は、アイリスの言う地獄の10秒を味わう事となる。

突如、アイリスの姿が消えた。いや、そう錯覚する程の速さでアイリスが動いていたのだ。

気付いた時にはオーランディアの眼前に拳があり、それを知覚した時には既に顔面に直撃している。


「ごぉ───」


次に腹部へ蹴りが突き刺さる。その一撃はオーランディアの身体を貫き、内臓が破裂し、骨は砕け散った。

口から血と吐瀉物を撒き散らしながら吹き飛ぶオーランディアの身体をアイリスは再び掴むと、そのまま力任せに大地に叩きつけた。


「うげぇ!!」


大地が陥没し、オーランディアの身体が埋まる。アイリスはそのまま彼女を拘束するかのように、その身体を踏みつけた。

オーランディアは口から大量の血を吐き出す。だが、死んでいない。


「私はね」


アイリスはオーランディアの髪を掴んで無理矢理引き起こすと、そのまま彼女の顔をまじまじと眺めながら語り始めた。


「この世界で一番強い事を自覚してるし、自分の異常さを理解しているのよ」


アイリスはそう言いつつ、オーランディアの身体を蹴り上げた。


「───ぐぼぁ!!」


血反吐を吐きながら宙を舞うオーランディアの身体。

そして空中で無防備となった彼女の身体をアイリスの拳が容赦なく襲った。


「だから全力を出した事は無かったし、出すつもりはなかった」


オーランディアの身体がくの字に折れ曲がり、地面に叩きつけられる。


「だけど私が愛する男の子は、私みたいに強くない。殴られれば死んじゃうし、蹴られても死んじゃう。だから───」


アイリスの拳に膨大な闘気が集束し、空間が軋む。

それはまさに、終焉の一撃だった。時空すら歪ませる一撃がオーランディアの胴体に直撃した。


「少しだけ、本気を出す事にしたの。彼に降りかかる火の粉を払えるようにね」


瞬間、光の渦がアイリスの拳から放たれた。その一撃はオーランディアの身体を包み込むと、そのまま大爆発を起こした。

それは最早生物が放つ一撃ではなく、天災であった。

アイリスの周囲は荒地と化し、巨大なクレーターが出来上がる。彼女の攻撃の余波で周囲の木々が吹き飛ばされて消し炭になった。

辺りがシンと静まり返る。アイリスはふぅっと息を吐くと、地面に横たわるオーランディアを見下ろし、言った。


「ミラージュのクソ雑魚ババァに苦戦してるようじゃ、私とやり合う資格すらないわ。まぁ、今の10秒で死ななかったのは褒めてあげるけど」


オーランディアからの返事はない。死んではいないが、もはや虫の息であった。

アイリスは「やれやれ」と溜息を吐くと、踵を返す。そして未だに戦い続ける王国軍と、森林国の軍勢へと目を向けた。

オーランディアとの戦闘でかなり時間を食ってしまったが……まぁイライザもいるし大丈夫だろうと思いつつ、周囲に転がるスプール公、オーランディア、後ついでにアラクシアを見る。

彼女達は全員気絶し、ぐったりとしている。だが死んではいない。


「めんどくさいけどこいつら全員イライザの元に持ってくかぁ。あーめんど」


今倒したキチエルフはよく分からないが、多分敵の将軍的な存在なんだろう。

放電してるクソエルフはキラキラしたドレスを纏っているし、何か偉そうな感じがする。

アラクシアは……別に助ける義理はないが、この鎧を脱ぐ為にもイライザの心象を良くする為に持っていくか。


「よっこらせ……!!」


アイリスは三人を抱え、そのままイライザの元へと歩き出すのであった。


「……」


その様子を脇から見ていた者がいた。

翠の軍の一指揮官であるエルフ……先程アイリスに腹パンを食らい、気絶していた女性だ。

彼女は途中から意識を取り戻し、オーランディアとアイリスの戦いを見ていたのだが、あまりのハイレベルな戦いについていけずに気絶したフリをしてやり過ごしたのだ。


「……な、なんてことだ……」


エルフの英雄オーランディア。スプール公の元、翠の軍の大将軍を務めるオーランディアはエルフの間でも恐れられている最強の戦士だ。

しかし、それが手も足も出ずに敗北した。いや、手も足も出ないという言葉すら生温い。

アイリスが本気でオーランディア将軍を殺そうと思えば恐らく殺せただろう。だが彼女はそれをしなかった。

何故なら……アイリスは本気を出していなかったからだ。


「あれが……悪魔……」


女性は震えていた。あの戦いを見ていて感じたのは純然たる恐怖。アイリスにとって今のは戦いですらないのだ。

あれを悪魔と言わずしてなんと言おう。


「……」


もう戦う気力も起きない。彼女はよろよろと立ち上がり、自軍の方へと歩いていくのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る