28.「貴方が王族であろうと、何者だろうと関係ない。私は、奴隷として貴方を買った」

エリムは王城での生活に不満はなかった。

だが、彼は奴隷になってからの生活がとても刺激的で、毎日が充実しているのを実感していた。

王族としての生活より、奴隷の生活の方が楽しい───

こんな事を言ってしまっては変人だと思われるだろうが、彼は確かにそう感じてしまっているのだ。



「エ、エリムくん……貴方は、王族だったのですか?」



震える声で彼にそう問うマリア。エリムはその言葉にこくりと頷き肯定の意を示した。

イライザも、マリアも驚愕の表情を浮かべるばかりであった。



「わ、私は王族相手に……なんてやべぇ事を……」



エリムが王族である事を知ってしまい、茫然自失のマリア。

彼女は今、浴場での出来事を思い出していた。

彼の指を使って、自慰をしてしまった。彼の初めてのキスを奪ってしまった。ていうか今晩辺りにでも襲ってイチャラブ交尾しようと思っていた。


これはあかん。まじであかん。

ていうかこれ、森林国が侵攻してきてるのって彼を取り戻そうとしているだけではないか?そう考えると合点がいく。

元々森林国のエルフは自種族の男を宝と明言して過剰に保護する傾向がある。それを奪われたとなると取り返しにくるのは当たり前だろう。

それに加えエリムは王族。本物の王子様だ。更に類まれなる美貌と、女に忌避感のないエリムだ。母である女王も溺愛していたに違いない。

何処の国だって自国の王子が攫われたとなると国の威信と名誉に掛け、必ず奪還に来るだろう。

考えれば考える程、マリアは後悔と恐怖の念に駆られた。



「あっあっ……」



白目を剥き震えるマリア。彼女は今何を思っているのか。エリムにはわからない。

しかし、自分が王族だという事で今の関係が壊れるのは嫌だった。

だから、エリムは思わず彼女の手を取ってしまった。



「マリア様。どうか僕を王族だと思わないでください。僕はあくまで奴隷であり、アイリス様の物です」

「うぇ?」



いきなり手を握られたマリアは奇声を上げた。

そんなマリアに構わずエリムは続ける。



「僕は今まで通り、貴方達と共にいたいのです」



エリムにとって、それだけが願いだった。

母も姉も大切だし、今まで育てて貰った恩もある。彼女達との生活は決して悪い者ではなかった。

だが、それとは別に奴隷になってからの日々は全てが輝いて見えた。

アイリスやマリアとの肌の触れ合いも、とても刺激的で官能的であった。

エリムが奴隷で無ければ、彼女達との関係もここまで深まっていなかっただろう。

だからこそ、それを壊さない為にもエリムは自分の気持ちをマリアに伝えた。



「え、エリムくん……それは、その……」



いきなり手を握られたマリアは戸惑いつつも、エリムからの言葉に返答する。



「いきなり結婚してくれだなんて、私困っちゃいます……♡」

「いやそんな事一言も言ってねーだろ!!!」



ポッと顔を赤らめたマリアの横腹に、アイリスの飛び蹴りが突き刺さった。

「ふご!」という可愛らしい(?)悲鳴と共に、マリアは部屋の床に転がりそのまま気を失った。



「全くもう、油断も隙もないわねこのメイドは」



プリプリと怒るアイリス。普通なら乱暴な女主人に怯えるところだろう。

だが、エリムはそんな彼女も好きだった。彼女はどんな時でも楽しそうだから。



「アイリス様。僕は……」

「いいのよエリム。何も言わないでも」



エリムが言葉を述べようとしたところ、それを遮ってアイリスは続ける。

そして彼女はにこりと笑った。



「貴方が王族であろうと、何者だろうと関係ない。私は、奴隷として貴方を買った」



アイリスの手がエリムの頬を撫でる。



「私は、貴方の全部を貰った」



そして、エリムの唇と自分の唇を重ねた。エリムはそれを受け入れた。

彼女がくれるならそれがどんな物だろうと嬉しかったから。



「ね?私達は何も変わらないでしょ?これまでも、これからも……」



ニコリと笑うアイリスに、エリムもまた微笑んだ。



「だから私は貴方が王族であろうが、絶対に手放さないわ。だってエリムは私の奴隷なんだもの」



そうだ、何も恐れる事は無いのだ。

自分は彼女のご主人様で、それ以上でもそれ以下でもないのだから──













「いやちょっと待てーーーーーい!!!!」



イライザの怒声に似た声が部屋響き渡る。見つめ合っていたエリムとアイリスだったがその声にビクンと反応し、彼女の方へと顔を向けた。



「ちょっと何よいきなり。びっくりするじゃないの」

「何いい感じに締めようとしとんじゃ貴様!今の状況を理解しているのか貴様は!?」



と、イライザはびしっと指差しながらアイリスに向けて叫んだ。

アイリスはイライザの言葉に「ん~?」と首を捻った。



「今の状況……?あ、エリムが王族なら私の結婚相手として申し分ないって事?」

「違うわアホ!!というか何勝手にエリムと結婚しようとしてるんだ貴様!?」



きょとんとするアイリスに、更に突っ込むイライザ。

だがアイリスはよくわからないと言った表情だ。



「さっきからなんなのよあんたは!私が折角いい感じの雰囲気作ってたのに!」



そして今度は矛先をイライザへと向けるアイリス。いつもの調子である。

イライザは頭を抱え、はぁと溜息を吐いた。



「先程の様子を見るに、貴様もエリムが王族だという事を今知ったのだろう?」

「えぇ、そうよ。それが何か?」

「例の”計画”とやらに支障はないのか?どう考えてもエリムを取り返そうとして森林国の奴等が烈火の如く攻めてきているようだが……」



そう、問題なのはそこだ。王子という身分のエルフを奪われたのならば森林国のエルフ全体が激怒するのも当然である。

エリムを取り返しにくるのは当然であるが、この状態の森林国の様子だとアイリスの計画が上手くいくのかどうか分からない。

何せイライザが聞いた情報では女王自ら軍勢を率いて侵攻しまくっているという。その怒りっぷりが如何程のものか簡単に想像できてしまう。

だからこそこの女……アイリスでは上手く立ち回れるとは思えない。


だが───────



「ふふふ……大丈夫よ。問題ないわ」

「何を根拠に?」

「私に任せておけば大丈夫って事よ」

「……具体的には?」

「任せて!」



ダメだこれは。そうイライザは思ってしまった。具体的に何をしてくれるのかが全くわからない。

自信満々に胸を張って言ってはいるが、逆に不安になる。



「イライザ様」



不意に、イライザの背後から声が響いた。

イライザが後ろを振り向くと、そこにはいつの間にか復活していたマリアが目をくわっと見開き立っていた。



「お屋形様……アイリス様を理屈で理解しようとしてはいけません。そんな事をすれば頭がおかしくなって死んでしまうでしょう」

「お前は何を言っているんだ……?」



よくわからない事を口走るマリアに、若干引き気味のイライザ。

しかし彼女の言う通りアイリスを理解などしようと思った所で無駄だ。だってアレなのだから。

故にアイリスでもエリムを手放す事は絶対にしないというのは理解していた。つまり森林国の侵攻は止まる事は無いだろう。



「我々が幾ら考えても、事態は最悪なのは変わりません。どうせ考えても、もう無駄。ならば流れに身を任せ、そして一時の快楽を享受するのです」

「???」



イライザはマリアが何を言わんとしているのか分からなかった。

こいつは破滅主義者かなにかか?いや、それにしては何かを企んでいるような表情をしているし、何かがおかしい……。

そして彼女はニヤリと笑い……エリムに向き直った。



「エリムくん、イライザ様にあの挨拶を……やってあげたら如何です?」

「え?」



突然マリアに話を振られたエリムはきょとんとした。だが、マリアの意味深な言葉と行動にすぐにピンときたのか顔をポっと赤らめた。

アイリスも同様で、一瞬何かを考えた後に「ははぁん……」と呟きを漏らす。



「マ、マリア様……でも、あれは……♡」

「エリム、ごめんね。あんなババァと手握るのなんて嫌でしょうけど……こいつを説得するのはこれが一番楽そうだからやってくれる?」

「エリムくん、貴方は奴隷なのです。つまり、主人の命令には絶対……分かりますね?」

「そ、それは……でも……うぅ……は……はい……♡」



顔を伏せ、もじもじと恥ずかしがるエリム。

エリムが王族だったと知っておろおろしていたマリアだったが、アイリスに蹴られて常識も一緒に吹き飛んだらしい、彼女は何か吹っ切れた表情でエリムにそう言った。

そしてニヤリと悪い笑みを浮かべ、アイリスとマリアは二人してイライザを取り囲んだ。



「……な、なんだ貴様ら?何をするつもりだ?」



二人に囲まれたイライザは怪訝な表情で問う。しかし二人はニヤニヤするばかりである。

そして、エリムが恥ずかしそうにイライザの前に出て、言った。



「え、えと……イライザ様……ごめんなさい!」



そしてエリムはイライザの両手を包み込み、ぎゅっと握りしめた。



「───は?」



イライザは呆けた声を出し、エリムに包み込まれた自らの手を見る。

エリムの小さな手に握られ、ぎゅっぎゅっと力を入れられたそれはまるで、この世の女が夢にまで見る男からの子作りOKサインのようだった。

いや、待て。幾ら女に忌避感がないエリムでもそう簡単には子作りなんてOKしないだろう。


───イライザという人物はこれまで多くの男を見てきた。夫を始め、数多の奴隷の青年達と関係を持ち、子を生し、育ててきた。

だが、彼女達の誰も子作りOKサインを出す事は愚か自分の手を握る事も無かった。

彼等の視線は恐怖と侮蔑で彩られ、義務的な作業としてこなしているだけだった。

そう、男にそんな風に扱われる事にイライザは慣れてしまっていた。

そんなイライザだが、今この現状に動揺せずにはいられなかった。

それもその筈だろう─────自分の手は……エリムの「ぷにっ」と柔らかい手の感触で包まれていたのだから。



「え?え?これって……えぇ!?」



握られた手をエリムの顔を交互に見るイライザ。エリムは顔を赤らめ恥ずかしそうにしながらも、イライザの手をぎゅ~っと握り続ける。

その反応は、まさしく子作りOKサイン……歴戦錬磨のイライザですら憧れた、あのOKサイン……。一日中交尾して、膣内なかに精液ぶちまけて、絶対に生で膣内射精しまくるというあのOKサイン……。



「ちょっ……エ、エリム……妾は……!?」



話を聞く限り、エリムは成人したばかりであるらしい。対して自分は倍近く年齢が離れている。

そんな自分に、この子は欲情し、子作りOKサインを出したのだ。



「うっ……あっ……あ……」



その現実に、イライザは激しい混乱に陥った。自分の都合の良い妄想なのではないかとすら思った程だ。

しかし現実は事実で、エリムは自分を受け入れてくれたのである。



「イライザ様……♡」



エリムもエリムで命令され嫌々やっている訳ではない。彼はオークション会場でイライザの姿を見てから、ずっとこうして触れたいと思っていた。

確かに年齢は離れているが、それがなんだというのだ。むしろ彼女の妖艶な雰囲気はアイリスやマリアとは違った大人の魅力を放っていた。

熟れた身体が放つ色香、その妖艶な雰囲気にエリムはメロメロになっていたのだ。



「僕は……貴女とも仲良くしたいのです……♡」

「あっ……♡」



まるで生娘に戻ったかのような反応を示すイライザ。彼女は顔をポッと赤らめ、思考を彼方へと飛ばしてしまった。


そして───



「───」

「?」



突然イライザの動きが止まった。突如として反応が無くなったイライザに、アイリスとマリアの二人は首を傾げ彼女の顔を覗き込む。

そして、二人はイライザの顔を見て……無表情になった。



「アイリス様。この人立ったまま気絶してますよ」

「う~ん、ババァには刺激が強すぎたのかしら」

「えぇ!?」



なんと、イライザは立ったまま気絶してしまっていた。その顔は恍惚と驚きの表情で固まっている。

歴戦の勇士も形無しである。



「ま、これでこいつも少しは大人しくなるでしょ。もう後戻りはできないんだし」

「そうでございますね。後は彼女を快楽の虜に引きずり込めば完璧でございますよ」

「えぇ?そこまでしなくてもいいんじゃないの?こんなババァ手握るだけで十分よ。エリムの身体は私だけのものだし」



アイリスとマリアの二人が何やら言っているが、エリムは突っ立ったまま気絶しているイライザを見て何だか興奮してしまっていた。

今の彼女になら何をしても許される。そう思ってしまう程の背徳感がそこにはあった。

そんな高揚した気持ちのまま、エリムはイライザの大きなおっぱいをむにっと掴んだ。



「(柔らかい……♡)」



アイリスやマリアのおっぱいとは違う、エリムの小さい手でも覆えない程の大きな乳房。

服の上からでもその柔らかさと、重量感が伝わってくる。



「確かにエリムくんもこんなババァの身体を触るだなんて嫌でしょうけど……お触りくらいなら許してあげてもよろしいのでは?」

「う~ん……奴隷とはいえそんな酷な命令……流石に可哀想だわ……」



二人がそんな会話を繰り広げる中、エリムは一人イライザのおっぱいの感触を楽しみ続けたのであった……。

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