僕の魔女

@littlemare

僕の魔女

僕の家族には秘密がある。

僕のおばあちゃんは、魔女なのだ。

僕はごく普通の一軒家に父、母、僕、おばあちゃんの4人で住んでいる。おばあちゃんは家の2階の1番隅の部屋から滅多に出てこない。出てくるとしたら、僕達が寝静まった深い夜の間だけだった。両親によると、いつも部屋を真っ暗にし蝋燭の灯りだけで何かをしているらしい。

今日、両親は出掛けている。ふと僕の中から好奇心が湧き、おばあちゃんの部屋を少しだけ覗いてみることにした。

ドアを開けて真っ先に見えたのは、黒い猫だった。生き物ではなく、モノだった。それは一つではなく、棚いっぱいに飾られている。

これだけでもかなり不気味な光景だが、最も恐ろしかったのはおばあちゃんのその容姿であった。

長らく出てこなかったおばあちゃんは白髪の入った髪が腰あたりまで伸び、真っ黒になった服を着てこちらを見ていた。

僕は怖くなり震えた手でドアを閉め、少し小走りでその部屋を離れた。

すると後ろからガチャっとドアの開く音がした。恐る恐る後ろを見ると、おばあちゃんと目が合った。目が合ってしまった。

おばあちゃんは不気味な笑みを浮かべ、

「おいで」

と僕に言った。おばあちゃんの部屋に戻るしかなかった。

おばあちゃんは黒い猫を僕の震える手に置いた。


僕は黒猫が苦手だった。

小さい頃、家族とキャンプに行き迷子になった。僕は昔から好奇心が人より強く、その時はカブトムシを探しにキャンプ場の周りを囲む森の奥まで入り込んでしまった。

そこでたまたま見つけたトンネルの入り口に、黒猫がいた。黒猫は、僕を見るなりトンネルの中に入っていった。黒猫の体は真っ暗なトンネルに溶け込み、再び目が合った時には黄緑の2つの目だけが浮かび上がっていた。

その不気味な光景が、迷子だったこともあり僕にはトラウマになっていた。


僕は黒い猫を手にし、一階のリビングに戻った。

少し前に帰ってきていた父と母は、僕を見て困惑していた。

「おばあちゃんに、近づいちゃダメよ」

物心ついた頃から言われていた。いや、物心などない頃からきっと言われていたんだろう。僕は特に疑問を抱くことなく、それが当たり前になっていた。


だが、たった今おばあちゃんのことをもっと知りたくなった。黒い猫を手渡す時に触れたおばあちゃんの手は、暖かかく、どこか優しさを感じたからだ。

それからしばらくして両親が寝てしまった頃、おばあちゃんの部屋からの足音とお手洗いに入る音をきき、急いでおばあちゃんの部屋に向かった。

ドアを開けると棚に並べられた黒い猫と目が合ったが、おばあちゃんは居なかった。恐る恐る歩を進めると、蝋燭の灯りの横に写真が飾られていた。写真にはおばあちゃんと、僕の知らない男の人と、おばあちゃんの膝の上には、黒猫がいた。

「何をしてるんだい?」

僕はハッとして振り返った。おばあちゃんが戻ってきているのに気が付かなかった。

「坊やが生まれる前の写真でね、この頃の毎日を忘れるものか」

おばあちゃんがその写真立てを手に取り話し始めた。写真の中の男の人は僕のおじいちゃん、黒猫はおばあちゃんの飼い猫だった。

おじいちゃんは、事故で早くに亡くなってしまったらしい。その後心の寂しさを埋めてくれたのが黒猫だった。黒猫は20歳までかなり長生きしたらしいが、同様におばあちゃんを残して亡くなってしまった。

「寂しさを紛らわせたかったんだよ。怖がらせてしまったなら、申し訳ないね。」

とんだ思い違いをしていた。おばあちゃんを思い、強く抱きしめた。両親が朝起きてきたら、話をしてみよう。

僕は部屋を離れようとしたその時、開いたドアの後ろに隠すように置かれていたものが目に映った。それは大きな鍋のようなものと、その中の液体に何かが浮かんでいるようだった。

僕はゾッとした。僕にはそれが、小さな骨のように見えたのだ。

僕はそれに気づかないふりをして、部屋を離れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕の魔女 @littlemare

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る