第3話 毒親と縁を切り、幸せになります。
家に帰ってきた。
涼音パパは念のためいつでもフォローに入れるように俺が家に入るまで待機してくれていた。
涼音パパが言うには『家に帰ってこれた』という安心感に包まれている時が1番危険らしい。
そのまま女性に襲われて童貞を奪われる男も少なくないようだ。
(なんていう天国……いや。ディストピアなんだ、ここは)
インターホンを鳴らすと中から母親が出てきた。
ブスっとしてた。
どうやらこの世界でも俺は母親と上手くいっていないらしい。
母親は涼音の車に気付いた。
眉をひそめる。
(あっ、やばい人たちだと思われてるかな?)
家の目の前に車止められてたら怪しいと思うよな。
涼音たちのためにも説明しないと。
「あれは?」
「彼女の家の人に送って貰ったんだ」
パーーーーーーーーーン!!!!!
強烈なビンタを受けた。
ここまでのビンタを受けたのは生まれて初めてだった。
(??????)
浮遊感。
あまりのビンタに体が宙を舞っていた。
「あだっ」
ケツから地面に着地。
母親を見ると、怒りに顔を赤くして、俺を見下ろしていた。
不出来な俺を怒鳴り付けてきた時と同じような、いつものシチュエーションである。
「この面汚しが。その歳で彼女を作っただって?!しかもなに?その売春夫みたいな姿は?」
明らかにブチギレてる。
てか、売春夫?
普通の姿をしているつもりなんだけど。
今の俺の姿は半袖に夏用のズボンという、比較的オーソドックスな学園の制服なんだけど。
(これがこの世界の売春夫みたいな姿なのか?)
「勘当よ。あんたみたいな売春尻軽男は。荷物をまとめて家を出ていって。どこの馬の骨かも分からない女と暮らしてなさい」
母親は俺に玄関の入口を譲る。
(うそだろ?ここまで言われるの?)
涼音と涼音パパが急いで車から降りてきた。
「優馬くんをぶたないでください。悪いのは私なのです」
「涼音には誠心誠意お付き合いさせる所存でございます。もちろん、結婚もさせますし、幸せにさせます。責任は最後まで取らせます。どうか勘当だけは取り消しを」
ふたりとも本当に誠心誠意頭を下げていた。
でも俺の母親はヒスモードを発動していて聞く耳を持たない。(説明しよう。ヒスモードとはヒスの鎧をまとい、どのような言葉も脳みそに届かなくなる別名チートモードである。会話が成り立たず一方的に暴言を吐き続けることができるぞ!)
「うちの息子を傷物にしやがって!このくそビッチが!」
ぷつっと、俺の中でなにかが切れた。
気付けば手が出ていた。
母親をぶん殴った。
たぶん、人を全力で殴ったのは人生で初めてだし。
これからもないと思う。
ちなみに心はめっっちゃスッキリした。
「うっ……」
「最悪。涼音にそんな事を言う人だと思わなかった」
母さんは俺にずっと厳しく当たってた。
俺がいじめられてボロボロになって帰ってきた時も、いじめっ子を責めるんじゃなくて『いじめられるあんたが悪い』って俺を責めていたし。
俺の中で溜まってたストレスが、涼音を攻撃されたことによって爆発した。
「荷物まとめたら喜んでこんな家から出ていくよ。元々好きじゃなかったんだよ家族のこと」
「早く出て行けええええ」
俺は家の中に入っていった。
部屋に着くと、念のために例の紙も確認をする。
枕の下を見る。
(やっぱり、【飽きた】の紙がない)
確信した。ここは元の世界ではない。
間違いなく平行世界だ。
(次は荷物をまとめよう)
必要な荷物だけをまとめた。
俺は家を出た。
入れ替わるように母親は中に入ってった。
完全に俺とは縁を切ったようだ。
まぁ、どうでもいいけど。
やっと縁を切れたことで俺の胸はスカッとしてる。
真夏の昼の晴れ渡る空のよう爽やかだった。
思い返せば。
あんな母親がずっと家でヒスってるから俺もほんとにストレスだったんだよな。
ちなみに俺が少しメンヘラ気味なのも母親譲りなんだろうな。
メンヘラなこと、涼音に謝っとこうかな。
「ごめん涼音。言い忘れてたけど彼氏がヘラってるの嫌だよね?」
自分でも男のメンヘラなんてキモイと思う。
でも、メンヘラにならずにはいられない。
だって、俺の心は豆腐だもん。
そう思いながら2人を見ていたら涼音パパは喜んでいた。
(え?)
「なんと、ここまで繊細な心の男の子がまだ存在したのか?」
「パパ聞きましたか?優馬くんは心の弱い男性なんですって。メンヘラ男子なんて素晴らしくないですか?」
え?素晴らしいの?
メンヘラ男子が?
涼音は後ろから俺を抱きしめてくれた。
「よしよし。優馬くんは一人じゃないですよ?これからはずーっと私が傍にいてあげますからねー。たっぷり依存してくださいね?いーーっぱい束縛もしてくださいね」
(破壊力がやばい!)
そんなことされたら立っちゃうよ。
しばらく時間をおいて。
今度は涼音が謝ってきた。
「それと、私こそごめんなさい。全部私のせいですよね?母親は世界に一人しかいないのに」
「告白したのは俺からだよ。涼音はなにも悪くない。それに俺の彼女も世界にひとりだけだよ?」
「優馬くん♡」
「きみはなんて、男らしい男なんだ♡よっ!男の中の男!」
涼音パパもそんなことを言っていた。
俺にはかなりいい印象を受けてくれたようだ。
いちゃラブタイムはとりあえずこの辺にしておこう。
たぶん、俺だけが気付いてると思うけど、見られてるんだよね。
ヒスママに。
早く出て行けと無言の圧をかけられてる。このままじゃ俺の中でまたストレスが溜まってしまう。
「この家は居心地が悪い。早く行きましょう」
「優馬くん。これからは気兼ねなくいっしょに暮らせるね♡」
「俺も涼音と暮らせて嬉しいよ」
もう一度車に乗る。
今度は涼音の家に向かった。
文字通り涼音たちは責任を取ってくれるらしい。
家に着くとそこそこ大きな一軒家だった。
噴水とかは無いけど、最低限家柄の良さを伝えてくる。
「これからはこの家で暮らしてくれ優馬くん。それからこれを受け取ってくれ」
涼音パパは俺にこの家の鍵を渡してきた。
「優馬くんはこれからこの家の一員だ。渡しておかないとね」
もう鍵をくれるんだ。
ジーン。
なんか感動してきた。
この家の一員だと認められて心がポカポカしてきた。
今までどこにいっても受け入れられなかった俺が初めて居場所を手に入れたようだった。
なんというか『ここにいていいんだよ』って言ってくれてるようだった。
「うぅぅ。ありがとうございます」
「がははは。礼には及ばん。涼音とは仲良くしてやってくれ。涼音、あとのことは任せたぞ」
「かしこまりぃっ!」
涼音パパは先に家の中へ入っていった。
俺は涼音に家のことをいろいろと案内してもらうことにした。
その間に家族の人にも会ったが、とてもいい人たちだった。
【補足】
この世界で男のヘラ要素は超絶バフです。
パパたちが家の前で残ってたのはこうなることを察してたからです。
実はめっちゃ主人公のことを考えてくれてます。
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