閑話 ミトゥースその想い

僕の名前はミトゥース・ニードル、和国の中心の国である聖城京に住んでいる陰陽師である。

僕はまだ16歳だが今までの人生は悲惨の言葉一つに尽きてしまう。祖父の代なるまでは由緒ある爵位のある貴族だった。

僕が生まれた時に、祖父が悪い意味で狂ってしまった、僕が女の子に生まれてきてしまった為、自分の血筋に女が生まれたのが余程ショックだったのか、あろうことか僕を男として育てるようにと、お抱えの医者に命令した。

女の子なのに……

その日から僕は男の子として育てられた。

言葉使いも全て矯正され、男らしい口調を強要された。

しかし、そんな生活は長くは続かなかった。僕が5歳の時に祖父が、新たに麿となった憲磨呂 鬼亡氏の考えに賛同しさらに狂ってしまった、祖父は麿の考え方に心酔し、僕から全てを奪っていった。

僕は祖父に言われるがまま、武具に魔力を注入していった、それが何に使われるか知らずに……

そんなある日、僕は父親に呼び出された。

「お前はもう魔力を注がなくていい」と父は言う、父が指を鳴らすと今まで優しかったメイド達が僕を取り押さえる。そして僕と母親を馬車に乗せ郊外にある別邸に軟禁してしまった。

「僕が何をしたと言うの、どうして……」

それから僕は、今まで通り魔法の勉強をやらされた。だが魔力を枯渇限界まで使うことが無いせいか楽しい日々が始まった。

ある日、父親がケガをして帰ってきた、聖城京で内乱が起こり都のいたる所から火の手が上がり空を朱に染めたらしい。

内乱の元凶は憲麻呂鬼無氏の「我が意に背くもの滅ぼしてしまえ」の一言であった。

そして、僕の祖父は辣腕で豪快な性格であった為に憲麻呂が言っていた"強い者が正義"や"弱いだけで悪"という愚かな考えに染っていた。祖父は憲麻呂の軍に加わり都の貴族中でも穏健派と呼ばれる者の屋敷を襲い貴族本人を殺すだけでなく家中の者まで捕らえ奴隷にしてくのであった。

やがて、軍勢も聖城京だけでなく都の周りの国から人々を狩り立て奴隷に落とすなどの悪行を重ねていき気付けば和国中の者全てに嫌われるといものだった。憲麻呂の人望の無さと同調して無能の烙印を押される祖父である。

そのせいなのか憲麻呂の軍隊は犯罪集団と変わりないが敵無しで何度も反乱勢力達と戦い勝ち取ったのである。ただ領地が増えるにつれて、権力と金に興味の無い者達はどんどん民草へ下っていったのであった、祖父は自分の力に溺れていった。そう貴族が軍人になると国が弱くなってしまうという欠点が生じていたのだ、そしてそんな欠点が生まれて遂には国がなり行かなくなってしまう。

反乱勢力にも新たな指導者が生まれて更に勢力は拡大した。そしてついに僕の一族にも危機が訪れたのだ、反乱軍の指導者である満麿 貞松が我が家に訪れている時に、祖父が屋敷を襲撃してきた。父は必死に満麿様を守っていたがとうとう見つかってしまい父は僕の目の前で祖父に殺されてしまった。僕は最後まで逃げようと悪あがきをしたがどうにもなりそうになかった。その時に満麿様が助けに来て下さった。

祖父との一騎打ちの末、満麿様は勝って仕舞われたが祖父は満麿様の奥方を人質にして自害しようとしてしまった。だけど僕は命をかけて奥方を救い出したのだ。そこから僕の人生は更に残酷なものとなった、聖城京の有力者である三道洞家の者から命を狙われてしまい僕と母と妹の三人は逃亡の身となってしまったのだ、僕たちを追っ手から助け出してくれたのは満麿様の側近の将軍であり、工戸公国の大公であるナグル・カイザン様である。1度はナグル様によって救われて匿われたが、またも三道洞家の者に見つかり母と妹は捕まり、奴隷として売られてしまった。

僕は、行くあてもなく浮浪者として逃げ回り遂には今の僕の義父である可部 靖迷の屋敷の近くで行き倒れていた。そして僕が倒れていたのを義父が拾って下さり、介抱して下さったのだ。僕はそれを感謝し、必ずや恩返しをしようと誓ったのである。

僕は今、義父の代わりに工戸公国の公都サガミに来ている。そしてナグル・カイザン様の和国の公爵としての屋敷に向かおう義父から頼まれた和国繁栄の為に。

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