第3話 違和感の話

学校の話


 学校は不思議な場所になってしまった。そんな気がするのは、世代ごとにその評価

が全く異なっているからだが、学校を絶対的なものだと考える価値観は、古臭そう

で、今も根強い。良い学校を良い成績で卒業して、良い大学へ入り、幸せな社会人生活を送るために良い企業に入るか、レベルに高い公務員になるという考えは、いまだに確実なサクセスロードであることが僕は否定できない。を否定できるような音楽やスポーツの才能があれば、

   「学校なんて,無意味、、、」

なんてアンチヒーロー的にクールな言葉を吐けるが、意外にもスポーツや音楽で成功

している人たちは学校を大切にしている。

 学校は、それ自体が大切なのではなく、どう利用するかで決まるが、そもそも学校

選び自体をちゃんと行なっているかどうかが疑問なことが多い。

 ずいぶん、カッコつけた言い回しをしたが、僕も今通っている、新海西高等学校を

簡単に選んでしまった。表向きは、文武両道を謳い文句にしているからと聞かれたら、答えるようにしているが、本当はもっとプライベートな理由である。そもそも学

校の掲げる校訓なるものを見ると,いつも気持ち悪くなる。文武両道なんて、勉強も

スポーツも中途半端にやれとしか読めないし、真剣にスポーツをしている人間から見

れば陳腐だし、真剣に学問を目指している人間から見れば、勉強ができない言い訳にスポーツを使っているとしか見えない。そもそも部活強制参加なんて中途半端の極み

である。そんな嫌々行うスポーツの出せる結果は平均的なものしか出せないし、

学校の正規授業以外のイベントに強制的に参加させるのも学力パフォーマンス向上につながるとは思えない。

 だから、僕は帰宅部なのだが、名目上は文芸部所属である。まぁ,本は好きだから、たまに部室に顔を出して、本を読む程度なら,問題はないが、正規カリキュラム以外に課外や補習への強制参加は困りものだ。他のクラスの男子が、学年主任に向かって、

 「学校の単位とは関係ない授業には参加しなくてもいいのではないですか?」

とまともな抗議をしたが、学年主任の稲垣は、

 「内申点に関係するから,参加は義務です。

」と噛み合わない答えを威圧的にした。

  稲垣は,僕のクラスでコミュニケーション英語を教えてくれる先生だが、僕たち

生徒の評判よりも、同じ同僚の先生からの支持が高い。その理由は、彼が周囲の忙しい先生の手助けをしているからである。一見、美談であるが、そんな手伝ってもらっている先生たちは、稲垣の意向や頼みを軽視できず、稲垣が望んだ方向に学校が誘導されているような気がするのだ。

 スティーブン・キングの作品「ニードフルシング」では、ある穏やかな感じの老人が引っ越してきて、周囲の住民の希望するものを与えて周り、感謝される。しかし、いつのまにか街は彼、正体は悪魔なのだが、小さな仲の良かった街は彼の望む通りに崩壊していく。この崩壊という点では、星新一の小説に出てくる鏡の悪魔そっくりであるが、僕の所属する稲垣学年は、彼のいうがまま,文武両道、自主性を重んじる,という校訓の元,強制イベントが続く。

  夏休み前の最後の授業、もちろん、補習が夏休みの間も強制的に組まれているのだが、その稲垣の授業前、僕は仲のいい千晶ちゃんと放課後の話をしていた。放課、JRで天神に出て、大きな本屋で参考書を一緒に選ぶ予定だ。周りから見れば,本屋デート。でも、異変がこの後,起きる。稲垣が教室に入ってきて、彼らしからぬセリフを言い授業が自習になった。

「この学校は自主性に欠けるから、夏の補習はしないんで、自由に好きなように

やってください。」

 大喜びする周囲に生徒と違い、因果関係の明確でない、この変化に僕は少し違和感

と畏怖を感じたのだが、千晶ちゃんのセリフで、それが吹き飛んでしまった。

 「西島君、いっぱいデートできるね、、、、」

 キラーワードに思わず反応ができなかった。

 「名前,間違えているけど、、、、」

 

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僕の終わりとソフトなワンダーランド Judo master @Judomaster

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