明の章
Case17 交わる少年少女
85 白と春
桜も散って、木に葉が付いてきた頃だ。
4人にとって高校生活二度目の春がやってきた。
新学年4日目、昴大と雄太郎は部活勧誘のため朝早く登校し、看板とパンフレットを持ち後輩たちに声をかけていた。
「情報処理部どうですかー」
「一から全部教えますよ!」
声をかけて歩く雄太郎だったが、後輩たちの反応は微妙だ。そもそも無愛想で人と話すのが苦手な雄太郎に勧誘行為は向いていないのではないかと考えていると、昴大が一人の後輩と話しているのが目に入った。
その後輩は白髪でカッターシャツがズボンから出ており、靴のかかとを踏んでいる。
この四条高校では考えられないくらいの、見るからに不良生徒だった。
「是非〜で、」
「……下さい!!」
昴大が完全にその後輩に気圧されている。
壁まで追いやられそうなその空気に助けに入ろうとするも、やはり一年生の雰囲気が怖い。
「おはよーユウくん。頑張ってるねえ」
そんな雄太郎の元に千鶴と凪がやってきた。
雄太郎は迷わず、二人に声を掛けた。
「助けてくれお願いします」
「何、どうしたの?」
不審がる千鶴に尋ねられ、雄太郎は昴大達を指さした。
それを見た二人は、あー……と口を揃えた。
「厄介なのに捕まってるね、昴大。ちょっと私、あっち行ってくるわ」
「ウチも!雄太郎も来て、みんななら怖くないでしょ!」
「いや俺は勧誘を」
雄太郎が言い切る前に、千鶴に手を引っ張られてしまった。
凪は昴大にひとまず声をかけようとしたが、何かがおかしかった。
カツアゲの雰囲気ではない。キラキラと目を輝かせて昴大の手を両手で握るその1年生は、どちらかと言うと、憧れのアイドルに会ったファンのような様子だった。
「風見先輩、本当に会えて良かったっす!」
しかしそのさまは、どう考えても昴大を困らせているようにしか見えない。
「ねえ、そこの柄悪いの」
「俺頑張ってここまで来たんですよ。貴方を追うためだけに!」
少年の方は凪の声に全く気付く気配が無く、完全に昴大しか視界に捉えていないようだ。
そんな彼の様子を見た凪は痺れを切らし、少年に声を掛けた。
「おいそこの白髪」
「……は?」
「凪!」
千鶴が咎めるが関係ない。全ては、気が付かない向こうが悪いのだ。凪はズカズカと少年に近づき、言い放った。
「私等の昴大に手ぇ出すとか、お前どこ中だコラ!?」
「柏九だボケェ!」
そう言われ、凪は一瞬硬直した。だって、そこは。
「凪、僕は大丈夫だから!
「「……え?」」
凪と夜杜、と呼ばれた少年は同時に声を上げた。そして、呆けた顔を見合わせた。
「お騒がせしたみたいでごめんね。この子は
「……これが?」
雄太郎がボソリとつぶやくと、夜杜がこちらを睨みつけてきた。
「そう、俺は風見先輩の親愛なる後輩だ!」
「夜杜。それくらいにしてね」
「はい!」
昴大の言うことだけを従順に聞く夜杜に、凪は呆れるしかなかった。
「夜杜、これあげるから、そろそろ教室に行ったほうがいいと思う」
昴大が差し出したのは、情報処理部のパンフレット。それを賞状か何かのように受け取った夜杜は、足早にこの場を立ち去ろうとした。
「ちょっと待って!」
「……なんすか」
隣で千鶴が夜杜を引き止めていた。一方呼び止められた夜杜の方は、丸い目をしてこちらを見ている。
千鶴は早足で夜杜の前に立つと、夜杜に言った。
「中学のときの昴大……風見くんの話、聞かせてくれない?」
「……喜んで!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます