83 対話
雄太郎は夜、ベッドの上で静かに目を閉じた。
……しかし、眠れない。
昼にぐっすり寝てしまったせいで、雄太郎の体内時計が狂ってしまったのだ。
眠らないとゆうとは話せない。尋ねたいことがまだたくさんあるのに。
雄太郎はおもむろにベッドの横に置いたスマホを手にとって、メモアプリに打ち込んだ。
『ゆう』
『見ているか』
「……ああ、見ている」
ゆうが雄太郎の口で答えた。雄太郎は妙な感覚に一瞬脳が気持ち悪くなったが、不思議と文字を打つことを続行できた。
『凪ちゃんはゆうにとって何だ?』
「前世からの友人だよ」
『お前には前世があるのか?』
「正確には海月凪の前世からの付き合いと言える。私は生まれ変わっていないからな」
『どういう関係だったんだ』
「本当にただの友人だよ。幼い彼女の遊びに付き合っていた」
ゆうの言葉に嘘は無さそうである。ならば、と思った雄太郎はもう少し突っ込んだ質問をすることにした。
『凪ちゃんは前世から霊能力者だったのか?』
「そうだ。霊能力は転生しても引き継がれるからな」
『そうなのか』
『じゃあ、千鶴も何か因縁があるのか?さっき、千鶴のことにも少し触れていたからな』
「土間千鶴本人には因縁はない」
「だが、彼女の持つ力は、知り合いのそれによく似ている」
『それは珍しいことなのか?』
「彼の能力は当時希少性がかなり高かった。唯一と言っても良い。そんな彼と同じ力を持った土間千鶴が私たちの前に現れたのは偶然とは思えない」
『確かに、凪ちゃんを中心に作られた関係だ。偶然とは言えないな』
「凪の魂には何かを引き寄せる力がある、と私は考えている」
それには雄太郎も同意だ。凪は昔から何をするにしても運が良い。
『……なあ、一番聞きたいことを聞いていいか?』
「風見昴大のことか?」
『そうだ』
『あいつは何者なんだ?』
ゆうは非常に言いづらそうに黙り込んだ。
雄太郎が急かそうとスマホで文字を打とうとすると、ゆうは話し始めた。
「風見家の忌み子だ」
『忌み子……?』
「風見啓がそう言っていた。少なくとも、風見家ではそういう扱いだったらしい」
『なんで昴大はそう呼ばれてるんだ?おかしいだろう』
雄太郎は友人がそう呼ばれていることに我慢ならなかった。雄太郎が手早くそれを打つと、ゆうが答えた。
「原因は、風見源弥だろうな」
『……誰なんだ?』
「風見家の初代当主で、強力な霊能力者だ。昴大に容姿が酷似している」
「そして……当時の公家や権力者らを大量虐殺しようとした、禁術を使う極悪人でもある」
『だから、忌み子か』
「そうだろうな。私も初めて風見昴大を見たとき、ゾッとした。あまりにも奴に似ていたからな。見た目もそうだが……オーラも、一瞬錯覚するほどに」
『それは、あいつが利用されることに関係あるのか?』
「大いにある。これは私の推測だが」
「風見昴大の肉体を依り代にすれば、奴をこの世に復活させることが可能だ」
『それを狙っているのが、組織……?』
「確証はないが、おそらくそうだろう」
『じゃあ、その組織を潰すことはできないのか?』
「元はその相談をしに私はお前に会いに来たのだ。雄太郎、私と協力しないか?」
『協力も何も、それで昴大が利用されずに済むなら俺にできることは何でもする』
これが雄太郎の覚悟だ。その意志を汲んだのか、ゆうは呟いた。
「ならば、私の力を制御できるようになってもらわねばな」
『ゆうの力を制御するのか。これは骨が折れそうだ』
「そう難しいことではない。私も裏から制御を手伝う」
『……その力で源弥は倒せるのか?』
「分からない。以前は、源弥をどうにかする前に私は源弥に支配されてしまった。今は雄太郎の魂が半分混ざっているから掌握はされないだろうが、私の力では源弥に対抗するに不十分だ」
『そのための凪ちゃんか』
「ああ。千鶴にも助力を要請したいが、それも雄太郎の協力が必要だろう」
『俺から説得しろってことだな。まあ、あいつはお前からの頼みでも昴大が関わっているなら応じそうだが』
「……そのために、事情を全て夢の中で説明する」
『分かった』
雄太郎はスマホを置くと、目を閉じた。
なぜだか、十秒もせずに眠ることができた。
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