81 打ち明け(1)

化学室に行くために雄太郎たちは4階から3階に降りた。すると、トイレから出てきた昴大に会った。


「昴大だ!」


先に声を掛けたのは湊だ。それに反応した昴大は、小さく手を振った。


「雄太郎、湊くん。今から化学?」

「そうそう。俺化学苦手だから憂鬱だぁ」

「……もしよかったら、今度僕が教えようか?確か、理数科と特進科の化学は進度一緒のはずだから」

「え、まじ?いつも何点くらい?」

「……あんまり大きな声では言えないんだけど、88点くらい」

「俺より高い!俺、65点」


雄太郎を置いてけぼりにして話す二人。

湊がそれに気がついたのか、振り返って言った。


「雄太郎は何点だっけ?」

「二学期ののテストなら72点」

「やっぱりそうか。さすが理数科だなー……俺らも特進科として頑張らないと」

「そもそもテストって一緒なの?」

「この間話したろ。同じだ」


雄太郎が言っているのは湊が居ない時に二人で話したことだ。

湊と昴大が仲良いのは応援したいが、省かれるのは嫌だと雄太郎は無意識に感じていた。


「あ、そろそろ時間だ」


湊が壁掛け時計を見てそう言った。


「本当だ。僕、そろそろ戻るね」

「ああ、じゃあな」


雄太郎は昴大と別れ、湊と共に化学室に向かった。



6時限目が終わり、雄太郎は湊と共に教室に戻っていた。

結局、化学も夢の内容が心に引っ掛かり、雄太郎は集中して授業を受けられずにいた。


「雄太郎、保健室行くか?」

「それは大丈夫だ。原因は夢のせいだと分かっているしな。こんなことで休んだら色々困るし、周りを困らせるだけだ」


雄太郎はそう言うも、自分で正直疲れが溜まっていることを分かっていた。

湊はそれ以上何も言わないが、心配されているということは雄太郎も肌で感じていた。どう転んでも湊には相談できない案件なので、どうしようか考える。


そこに、見慣れた青髪の少女が横切る。

彼女はピタリと足を止め、雄太郎の顔を見るとニヤリと笑った。


「あれ、ユウくんじゃん。あと久賀くんも」

「凪ちゃんか」

「海月さんやっほー、雄太郎が変なんだよ。なんとかならない?」

「叩けば直るよ。斜め45度からね」

「俺は昭和の家電か!」


雄太郎が勢いよく突っ込むと、凪が吹き出した。


「ねえ久賀くん、これでも変?通常営業だと思うんだけど」

「でも授業中に寝たり、窓の外を見てため息をつくんだぜ。変だろ」

「あー確かにそれは変だね。ユウくんが授業中に寝る?そんなことありえるんだ?」

「俺のことをなんだと思ってるんだ?」


そう雄太郎が尋ねると湊と凪は一拍置いて、口を揃えて言った。


「「クソ真面目な優等生」」

「〜〜あのなあ!」


雄太郎はあまりの二人の声の揃い具合に頭を掻きむしり、目一杯溜めた後に二人を指さして言った。


「俺だって人間だからな、食後は眠くもなるし疲れが溜まっていれば集中力も散漫になる。もう放っておいてくれ!」

「と言われましても」

「友達が困ってるのに、放っておけは無理だな」

「放っておくのも優しさだろ」


雄太郎が言うと、二人は黙り込んだ。


「じゃあ放っておくけど、倒れるくらいなら言えよ?」

「最強幼馴染みの私もいること、忘れないでね。じゃあ、7限頑張れー」


凪が去っていき、湊は言った。


「やっぱ海月さん、いい人だなあ。あんな幼馴染みが俺にもいたら……」

「やめとけ湊。苦労するだけだ」


雄太郎は湊を連れ、教室に戻った。




今日は部活がない。なので雄太郎は一人で帰ろうとした、その時だった。

下駄箱にもたれ、ヒラヒラと雄太郎に手を振る凪が立っていた。


「やっほーユウくん。奇遇だね」

「絶対待ち伏せしてただろ……」

「ばれた?」

「それ以前の問題だ。最初から分かってた」


雄太郎は諦めて靴に履き替え、凪と共に校舎を出た。


「体調治った?」

「いや、7限も全くだ。先生が何言ってたか覚えてない」

「……まさかとは思うけど、霊関係じゃないよね?」


雄太郎は黙り込んだ。凪の勘はどうしてこうも的を射てくるのか。

最初から答えが分かってるんじゃないかと錯覚するほどのそれは、凪の一種の才能とも言えるだろう。


「まあそれはないか。現に私には何も見えないし」

「……凪ちゃん」

「ん?何、ユウくん」


雄太郎は校門の前で、凪の目を真っ直ぐ見据えて言った。


「俺が霊だと言ったら、どうする?」

「……なにそれ、面白い冗談だね」


凪は右に曲がると、雄太郎の前を歩き出した。


「例えば、俺の身体は人間だけど、魂は人間ではない……とか」

「ユウくんそれもしかして昼からずっと考えてたの?私を驚かせるために?」

「違う」


やはり凪に話しても手応えはない。諦めて話を切り替えようとしたときだった。


「代われ」


そう聞こえて、雄太郎の意識はどこかへ沈んでいった。

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