64 迫る危機

「なるほどなぁ、そんなことが」

「ケイさんはどう思います?」


4日、公園で出会ったケイに、千鶴はそのことを相談していた。


ベンチに座って犬の霊と鷲の霊を愛でるケイは、千鶴の目を真っ直ぐ、射抜くように見てから言った。


「なんでこれ、お父さんの方に持っていかへんの?」

「……持って行く、って?」

「相談。なんで家族やなくて、ボクなんや?」

「実は、両親は私に何か隠しているような気がして」


千鶴には、家族と過ごしていると違和感を覚えることがあるのだ。


「……なるほどなあ。でも、隠してるのは君もちゃう?」

「……え」

「今、自分のこと、私って言ったやろ。まあ、そのへんは深く掘り下げへんけど。ボクも家族に隠し事あるし」


ケイは鷲の霊をどこかに飛ばすと、立ち上がって言った。


「ボクの家のこと、家族には隠してんねん。あ、ボクの息子な。奥さんはもちろん知ったはんで。息子はボクが霊能力者やってこと知らん。霊力はボクより強いけどな」

「……なんで、言わないんですか?」

「言ったら……息子のこと守れんくなるやん。それは絶対嫌や。だから言わん」


ハッキリとした口調で彼は言った。やはり、大人は守るべきものが自分たちより多いのだと、思い知った。


「にしても、昴大くんが霊視えるようになったんか。視たい視たいって言っとったからなぁ。赤飯炊いたらなあかんかも」

「そうですね」

「冗談や」


ケイは関西の人だからなのか、言うことが面白い。というか、話し手としてのセンスを感じる。

京都出身といえば、昴大もなのだが、彼は未だに何かを遠慮しているようだ。


「息子さんって、この学校にいるんですよね?」

「そうやな。……知りたい?」


いたずらっぽくケイが笑う。人のプライベートに突っ込むのは気が引けるが、やはり、気になるのものは仕方がなかった。それに、今を逃すともう知るチャンスはない。そんな気がした。


「知りたい、です」

「そっか。じゃあ、代わりに一個だけ、ボクのお願い聞いてくれへん?」




新学期が始まり、千鶴は今までと何ら変わりなく、3人と学校に登校していた。

変わったのは、気持ちだ。あの日、ケイに告げられた”真実”。それが、数日経っても千鶴の頭から離れなかった。


「霊って、結構いろんな場所にいるんだね。どこでも大体見かけるよ」

「その程度が視えてるなら、本当は昴大は霊感が強かったのかもな」

「えー、じゃあ私が今度は仲間ハズレ?私、全然デカいのしか視えないんですけど」

「凪は仲間はずれなんかじゃないよ。ね、千鶴」

「……千鶴?」

「おーい専門家」


「……えいっ!!」

「うわあ!?」


凪に思い切り肩を叩かれ、千鶴はようやく気がついた。


「なに〜?」

「何じゃないよ、話聞いてなかったでしょ!」

「はい」

「正直だな」


千鶴は内心反省していた。自分はいつも話すくせに、人の話を聞けていない。それだけ、あのことがショックだったのだ。


「どうしたの千鶴。ちょっとそこのコンビニで何か買ってく?」

「それは凪ちゃん、自分が授業サボりたいだけだろ。行くぞ」

「早くしないと、遅刻しちゃうよ」

「……分かった。行こう」


千鶴は、その日、全く集中できなかった。




「今が好機。行くわよ、分かってるわね」

「はい」


4人のその後を、電話しながら付け狙う一人の男が居た。


「……絶対に、成功させる」




朝、教室に着くと、誰もいなかった。

全体的に登校が遅いA組では珍しいことではない。


千鶴の席に行くと、小さな紙が椅子の下に落ちていた。カバンを机に置いた後、千鶴はそれを当然拾い上げ、確認する。


それがいけなかった。


「きゃっ!」


ボン、と爆発音がして、千鶴は紙から手を離す。そこで千鶴は直ぐに違和感に気がついた。


「霊力が……」


千鶴の底なしの霊力が、ほぼ空っぽになるまで吸われていたのだ。

千鶴は原因と思わしき紙を見た。途端、紙は眩しく光り、その青い光は千鶴の全身に絡みついた。


「いやっ、これ何!?」


身体をくねらせるが、普通に動く。そう、”普通に動く”のだ。


千鶴が制服をまくり右腕を見ると、先程の光と同じ、青色の、ツタのようなアザが腕に絡みつくように出ていたのだ。慌てて左腕も見たが、同様だった。


「なにこれ……!」


千鶴はとりあえずまくっていた制服を戻すと、紙を拾いポケットにしまって廊下に出た。


「あ、志朗くん!」

「えっ土間さん?」


そこにいた早乙女志朗を捕まえ、右腕をまくった。


「これ、何か変なアザとかできてない?」

「できてないけど……どうかした?」

「え、いやっ、なんでもない!」


千鶴は制服を再び戻し、教室に戻った。

一体これはなんなのだろう。分からないが、今すぐにでも早退したほうがよさそうだ。

霊力がないせいで、身体が気だるくてならないのだ。


千鶴は机に置いたカバンを持ち、職員室に向かった。




志朗は去っていく千鶴を見て、大きくため息をついた。


引き返して教室に戻ると、昴大に会った。


「風見くん、さっきそこで土間さんに会ったよ」

「そうなんだ」

「なんか、様子が変だったよ。顔色が悪かった」

「そうなの!?ちょっとA組に行ってくるね」


急いで昴大がA組に行ったのを確認して、志朗は自席につく。


「あれ、昴大は?」


凪が戻ってきたようだ。志朗は、何事もなかったかのように答えた。


「知らないよ。トイレにでも行ったんじゃない?」

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