Case7 案ずる少女
27 浮かれる女子たち
4人を乗せた車は、とうとう別荘に到着した。
「ひゃっほう!2年ぶりの別荘!!」
凪はそう言って車から降りて外へ駆けていく。そして大きく両腕を開き、深く息を吸い込んだ。
「凪ちゃんはこれで15回目か?」
雄太郎に尋ねられ、凪ははぁ、と息を吐くと答えた。
「多分そのくらい。いやー、改めて見ても大きいね、この家」
香る木の匂いと広がる森林。一体どこまで来たのだろうか、と昴大は考えた。
「早く荷物下ろして、とりあえず玄関まで運んで。凪ちゃんは2つあるんだから」
「今行く」
凪は雄太郎と一緒に荷物を下ろす。千鶴もキャリーケースを押して行く。
「昴大くん」
宗太に名を呼ばれ、ボストンバッグを受け取った。
玄関に入り、木の香りが一層強くなる。
「広い……!」
「でしょ。ユウくんの家って結構金持ちなんだ」
「ウチは来るのは二回目だけど、最初に来た時びっくりしたなあ。昴大と全く同じ反応したよ」
三人で話していると、雄太郎が言った。
「じゃあ、昴大と俺、千鶴と凪ちゃんが同じ部屋。それでいいよな?」
千鶴は走って凪の元へ行き、横を歩く。
「うん!凪、どこにする?」
「できればダブルがいいんですが」
凪の言葉に雄太郎は呆れ気味に言った。
「あったらな」
「あるのは分かってるんだよ」
「それが俺の両親の部屋とは考えないのか?」
「それとは別にあるでしょうが」
こんな会話を聞いていると、本当に二人が幼馴染だということを昴大は実感した。
「まあ私としてはシングルでもいいんだけど?その分くっつけるし」
「くっつ……!?」
聞き捨てならないような発言を聞いてしまった昴大は思わず顔を赤らめて戸惑った。
「おい、凪ちゃん。凪ちゃんの寝相なら問題ないだろうが、千鶴は大丈夫なのか?」
なぜ雄太郎が凪の寝相について知っているのか昴大は疑問に思ったが、考えないことにした。
「大丈夫じゃない」
千鶴は申し訳なさそうな顔をした。千鶴は寝相が悪いのかもしれない。
「そうか。シングル2つの部屋あるはずだから、そっちで寝てくれ」
「えーダブルは?」
「貸さん」
不満げな凪が、何か考えているようだ。
「凪ちゃん、ダブル使ってもいいよ。どうせ余るんだから」
「母さん、それはだめだ」
「寧ろなんで駄目なのかが分からないなあ。私はおばさんの好意に甘えるとするよ」
母親の言葉には流石に逆らえないらしい雄太郎が、悔しげにしている。
「……まさかユウくん、昴大とダブルベッドで寝たかった?」
「えっ!?」
凪の言葉に思わず反応してしまい、昴大は雄太郎を見る。彼は何も答えない。
「雄太郎、本当にそうなの……?」
「いや違う。違うけど、そうだったとしても俺悪くなくないか?」
「昴大が嫌って言ったら駄目だよ」
千鶴が諭すように言った。
「嫌か。俺とダブルベッドで寝るの」
「え」
思わぬ方向に話が進んでしまい、昴大は混乱した。
どう答えるのが正解なのか全く分からない。嫌と言えば当然雄太郎は傷つくだろうが、あまりにもあっさり承諾するとそれはそれで色々疑われかねない。避けたい事態だ。
「……嫌じゃないし、むしろ嬉しい……けど、僕、友達と同じベッドで寝た経験なんてないから、緊張で眠れないかもしれない」
正直に答える。三人は顔を見合わせた。
「だってさユウくん。嫌って言われなくて良かったね」
「……まあな」
昴大の中では雄太郎を拒むなどあり得ないのだが、彼自身は不安に思っていたらしい。少し申し訳ないな、と昴大は思った。
凪は荷物を寝室まで運び込むと、一息ついて窓を開けた。
「千鶴、見て。ものすっごい良い景色」
「あ、待って見たい!」
千鶴は凪の後ろで荷物整理をしている。なんでも、14時から雄太郎と勉強の約束をしているらしい。
柔らかい風と森林特有の自然の匂いが凪の鼻を掠める。堪らなくそれが心地よかった。
「うわあ、ホントに綺麗」
千鶴はすかさずスマホを取り出すと、構えた。
「凪、一緒に撮ろう」
「いーよ」
千鶴がインカメにして凪の身体を寄せる。
「凪、もうちょいこっち寄って」
カシャ、とスマホのシャッター音が鳴る。
「もう一枚」
再びシャッター音が鳴る。
「まだまだ」
「しょうがないなぁ千鶴は」
千鶴と二人の世界に入っているところで、部屋の外から扉を叩く音と声がした。
「……凪ちゃん、イチャイチャしてるところ悪いんだが千鶴をこっちに渡してくれないか?」
扉を開くと呆れ顔の雄太郎が立っていた。
「なんで私と千鶴がラブラブしてるって分かったのかな?」
「今までの行動見てたら大体想像はつく。千鶴、あと10分で2時だぞ」
「ちょっと待って!今行く!」
千鶴はベッドの上に置いていた参考書とノート、筆箱を持って慌ただしく凪の隣に現れた。
「いやまだ良いんだ。勉強場所、リビングか空いてる寝室かどっちが良いか聞こうと思って」
「どっちも、誰も使わないの?」
「らしいな。昴大はそこの凪ちゃんと一狩り行くみたいだから、多分大丈夫だ。父さんも母さんもバーベキューの準備するし」
雄太郎は恨めしそうに凪を見つめる。
「じゃあリビング行っていい?」
「分かった。10分後に待ってる」
雄太郎が去っていく。凪には何も言わない。
「ねえ凪、一狩りって何?」
「あー、それは……」
本当のことを言うと、勉強を頑張ろうとしている千鶴に悪いような気もする。
しかし凪は嘘がつけなかった。正直者といえば聞こえはいいが、ついても後から何かしらの経緯でバレるのが明白だったのだ。
「ちょっと冒険に」
「良いなぁ。いってらっしゃい」
嘘はついてない、はずだ。
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