24 墓参り

いよいよ夏休みに突入し、もうすぐ二週間が経つ。


昴大は大きなボストンバッグを見て、思わず口元が緩む。


凪と千鶴のアドバイス(凪の助言はほとんど千鶴に否定されていた)に沿って荷物を詰めたので、まあ間違いはないだろう。


「昴大、出発するで」

「はーい」


今日は京都へ祖母と両親の墓参りに向かう日。今までは一泊二日で京都に滞在していたが、清が気を利かせて今年は日帰りにしてくれたのだ。


早朝に自宅を出発し、9時頃には京都駅に到着した。そこから電車を乗り継いで、両親や祖母、風見家の先祖たちが眠る墓がある寺に向かう。


「お盆にご先祖が帰ってくるってホンマかな……」


右手にお供え物が入った紙袋を下げたまま、昴大が言った。清は首を傾げ、残念そうに答えた。


「それは分からん。少なくともばあさんは、信じてなかったな」

「そっか」


見えなくとも、もし帰ってきてくれたなら、話してみたいと思った。


昴大と清は蝉が煩く鳴く、舗装されていない道を通り寺院にたどり着いた。


風見家の墓の前に供物を置くと、黙って手を合わせる。


昴大の両親は昴大が3歳の時に亡くなっている。そのため両親の記憶はほぼ存在しないに等しいのだ。


どんな人物だったか、清や祖母から聞いてはいる。だが昴大は、自分の言葉で伝えたいことがある。


手を合わせ終わると昴大は墓の前にしゃがみ込み、話した。


「ねえ、父さん、母さん、ばあちゃん。聞いてよ」


反応は当然ない。だが昴大は少し間を置くと、続く言葉を紡いだ。


「僕さ、友達できてん。凪と、千鶴と、雄太郎と、まあとにかくいっぱいできてん。今度な、雄太郎のとこの別荘に凪と千鶴と遊びに行く事になったんや」


良かったなあ。そんな声が聞こえた気がした。


「しかもな、二泊三日やで!めっちゃ楽しみやねんな。最初何持っていったらええか全然分からんかってんけど、凪と千鶴に手伝ってもろて。ほんま、ありがたいわ」


きっとみんな、喜んでいるに違いない。昴大はなんだか嬉しくなった。


その後は二人で墓の手入れをしていた。


井戸に水を汲みに行ったとき、一人の若い男性を見かけた。昴大より少し年上だろうか。


「こんにちは」


その青年はニコリと笑みを浮かべると、昴大に言った。


「こんにちは。どっから来はったん?」

「えっと、東京からです。地元はこっちなんやけどね」


標準語と関西弁が混ざったようになってしまい、昴大はなぜか恥ずかしくなった。


「都会の人か。ええなあ」


昴大は彼に会釈をして、立ち去ろうと思った。


「あ、キミ」


呼ばれて振り返る。男性は優しく微笑んでいるが、不思議な雰囲気を醸し出している。それと同時に、どこか懐かしい気分にもなった。


「なんでしょうか……?」

「キミはすごい愛されてるなぁ。強い神聖な力で護られてるけど、自覚ある?」


もしかしたら千鶴から貰った魔除けの効果かもしれない、と昴大は思った。ただ、なぜ彼にそれが分かるのか。思い当たる理由は一つしかなかった。


「霊が見える人なんですか?」

「そうやね。ボクは霊能力者の家系やから。それをキミに施した人もそうやろ?」

「……はい」


はっきりと千鶴から聞いたわけではないが、きっとそうだと思う。昴大は頷いた。


「僕、生まれつき悪霊に憑かれやすい体質らしいんです。僕自身は、見えませんけどね」


彼は訝しげに昴大を見た。不幸アピールのようになってしまったのが癇に障ったのだろうか。


「ほんまに?」

「……え?」

「キミ、ほんまに見えへん人なん?」


真っ直ぐな瞳で、射抜くように昴大を見つめる彼。意図はまるで分からない。


「多分、自覚してない……ていうか、無意識に封じてしまってるんやろうけど。ボクは、キミも見える人やと思うで。何かのきっかけで突然見えるようになるかもな」


青年の言ってる意味が昴大には分からない。


「何かの、きっかけ」


青年の言葉を反復してみる。やはり意味は分からない。


「そのうち分かる。じゃあね」


強制的に話を切り上げると、青年は去っていった。後を追おうと思ったが、彼はどこかへ消えてしまった。



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