7 昼休みのお悩み相談

入学して2週間経った水曜日の昼。


3人は毎週水曜日、教室の近くにある屋外テラスにて一緒にご飯を食べる約束をした。


凪と昴大は同じクラスだが、いつも一緒にいる訳ではない。昴大にも男友達がそれなりにできて、彼らとご飯を食べることもあった。

だが、昴大の経過観察兼他クラスとの情報交換として、定期的に一緒に昼ごはんを食べることを凪が提案したのだ。


「さて、今日の弁当は……げっ」


凪が弁当箱の1段目を開くと、大量の野菜が詰められていた。


「レタスだ……治め」

「わお、1面野菜」


2段目はご飯と揚げ物が半々で入っている。


「絶対バランスおかしいって……昴大、今日の昼それだけ?」


昴大はたった数秒でエネルギー補給ができるゼリーを飲んでいた。


「うん、あんまりお腹空いてないから」

「不健康。もっと食べなよ、成長期なんだから」

「僕料理作るのは駄目で……」


昴大が苦笑いすると、千鶴は問うた。


「でもこの間は弁当持って来てたよね?」

「おじいちゃんが出掛ける日には作ってくれるんだ。自分で作るのは時間が……」

「でもそれじゃ、将来苦労するよ?」

「ごもっともです……」


昴大は左手の人差し指を見る。どうやら切ったことがあるらしい。


「レタス好き?」

「まあ、普通に」


昴大が答えると、凪は笑顔で言った。


「レタス食べる?」

「いや、悪いよ……」

「遠慮せずにどうぞどうぞ」


凪はゼリーを飲み終えた昴大の口にレタスを放り込んだ。


「うわー、凪悪いんだ」

「ほい、レタス。あ、他の野菜もあげる」


凪は箸を止めることなく、昴大の口に野菜を運んでいく。


「レタス、白菜、人参、トマト、あっ、きゅうりも」

「んー!」


とうとう口の中がいっぱいになった昴大は、首を思い切り横に振って抗議の声を上げた。


「昴大のことおもちゃにするな!」

「面白くてつい」

「面白いけど駄目だから!」


昴大は口をハンカチで拭い、落ち着いて話し出した。


「面白いとは思ってたんだ……」

「途中から遊んでたよ」

「だから駄目だって」


凪は満足気に笑うと、立ち上がった。


「ちょっと購買でパン買ってくる」

「凪、まじか」


いってきます、と言い残すと凪はスキップして購買へ向かった。




昴大は飲み終えたゼリーの袋をゴミ箱に捨てると、席についた。


「ねぇ、昴大。なんか悩んでる?」

「え」

「やっぱり悩んでるー。ウチが話聞こうか?」


千鶴に図星を突かれ動揺した昴大は口籠った。


「いや、クラスも楽しいし、勉強も意外とついていけるし、そんな、悩みなんて」

「勉強、ついていけるんだ……」


千鶴は遠い目で昴大を見た。


「もう最初から何言ってるかさっぱりなのに……しかも昴大って理数科でしょ?頭の出来が違うってこういうことかな?」

「千鶴さん……」

「冗談だよ?で、昴大。部活は?」


気付かれた、と思ったのが顔に出たのだろうか。千鶴はすかさず聞いてきた。


「先輩?」

「……本当に思ってた通りの良い人たちだよ」

「顧問?」

「いや、関わり自体も少ないし……」

「分かった、同級生か」

「はい……」


千鶴の観察眼の前では、昴大は認めるしかなかった。


「まさかいじめられてるの?」

「そうじゃなくて、無視、されてるっていうか」


昴大は、ここ最近の赤毛の彼の様子を話した。

すると千鶴は顔をあからさまにしかめ、口を尖らせた。


「何そいつ。感じ悪いね。凪に相談しなかったの?」

「それはちょっと、凪は、なんというか」

「昴大がそんな風にされてるって知ったら、そいつのクラスに乗り込みそうだね」

「僕もそう思って。いつかは仲良くなれると信じてるから。ほら、時間の問題ってあるし」


昴大がそう言った瞬間、千鶴は険しい表情になった。


「甘い」

「……えっ?」

「本気で仲良くしたいなら、ぶつかりにいかないと!どんどん遠くなるだけだよ?」


千鶴の言葉は正しいと思う。昴大は黙り込んだ。


「友達が、情報処理部に入るとかなんとか言ってたから、様子を聞いてみる。何組の誰?」

「えーと、名前は聞いてなくて」

「え!?それも?」

「あ、でも、確か、特進科の、暁とか言われてたような」

「……それ本当?」


千鶴の異変に気がついた昴大は、慌てて訂正した。


「いや、聞き間違いかもしれないし、でも、特進科の先輩が、一緒とか、言ってたから」

「へ〜……」


しかしもう遅いようだった。千鶴は両手の指をポキポキと鳴らし、席を立つ。何やら殺気立っているようだ。


「……千鶴さん?」

「ちょっとK組行ってくるわ」


大股で千鶴は歩き去って行った。


「ちょっ、千鶴さん!?」




凪はパンを買えず、(購買は余裕で売り切れだった)自販機でジュースを買って席に戻った。


「千鶴は?」

「えっと、K組に」

「なんで?昴大、顔色が悪いね」

「実は……」


昴大から話を聞いて凪は、走ってK組に向かう。


「絶対頭に血が上ってるわ。ユウくんが可哀想だから止めてあげよう」


凪はK組の扉をガラガラと大きな音を立てて開けた。


「ねえ雄太郎、どういうこと?ウチらの姫になんてことしてるの?」


仁王立ちで尋問する千鶴と、それにタジタジの雄太郎。


「ちょっと千鶴、ストップ。騒ぎになるでしょ。というかなってる」

「な、凪ちゃん。久しぶり」


恐れるように言う雄太郎の肩を叩いた。


「久しぶりーユウくん。おっきくなったね。元気だった?元気だよねぇ?」


雄太郎の耳元でそのまま囁いた。


「ちょっと表出ろ」

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