第30話 可愛いは正義なんです。たとえ男でも

「いやぁ、食った食った」


 朝食ビュッフェを堪能し、トイレから帰ってくると、ロビーのソファーで双葉が満足げにお腹をポンッと叩いていた。

 たしかに朝から贅沢の極みだったね。ベーコンやスクランブルエッグはもちろん美味しいけど、何と言っても海鮮食べ放題! いくら丼3回もおかわりしちゃったよ。


「あ、清忠おかえり~」

「おう。あれ、他のみんなは?」


 ロビーには双葉しかおらず、周りは外国人観光客と日本人カップルばかりで疎外感を感じる。まあ、男女が2人一緒というだけでカップルと判断するのは早計か。俺みたいに男側が都合よく使われている可能性もあるし。いやないわ。


「男子なら出発の準備するからって部屋戻ったよ」

「あ、まじ? じゃあ俺も──」

「待って!!!」

「えっ?」


 部屋に向かって足を踏み出した俺を、双葉が制止した。

 嫌だなぁ……絶対碌な事じゃないもん。

 

「清忠はその前にやることがあるからね」



 はぁ。

 まあ勘付いてはいたけどさぁ。

 いたけどさぁ……。

 

「よ〜し。じゃあ清忠を可愛くしていこ〜」

「いやなんでだよ!!!」


 女性陣の部屋へと連れ去られた俺は、美少女に囲まれながら、ちょこんと鏡の前に座らされた。眼前に映るのは、これから訪れる悪夢に絶望する俺の顔。タスケテ。


「これから行く公会堂の中ね、衣装館ってのがあるんだって」

「ドレスをレンタルして、写真を撮ったりできるんです」

「ええっと……うん。それが?」


 真意は完全に測れてしまったが、わずかな希望を胸に俺が聞き返すと、双葉は待ってましたとほくほくな表情で双言った。


「清忠も着たいよね~」


 着たいわけあるか!

 前回は流れであんなことになったけど、俺にそういう趣味はないのよ。頼むから普通に観光させて欲しい。


「着たくないし。それなら今日と明日ずっと制服でいいわ」


 みんなが私服なのに俺だけ制服はなぁ、とは思ってたけど。みんながドレスなら俺も!、とはならんのよ。それとこれとは別問題なので……。


「だってさぁ、思っちゃったんだもん」

「……何を?」

「公会堂でドレス着れるって知ってさ。清子ちゃんにぜっっったい似合うって」

「そんな女は知らん」


 当然のように改名するな。


「ほら、海堂は大事な友だちじゃん?」

「あぁ。う、うん」

「だからさ。うちも海堂といろんな想い出作りたいんだよ」

「佐倉ぁ。……とはならんよ?」

「お友だちと一緒に何かをする、というのは楽しいことだと思いますし」

「津久志さんまで……」


 なんでみんなドレス姿の俺が見たいんだよ。どこにも需要無いだろ。美少女たちだけで普通に楽しんでくれよ。


「清忠」

「そうだよ海堂」

「清忠さん」


 あ~もぉ。しょうがないなぁ……。

 女子からそんな熱い瞳を向けられちゃ。


「絶対しません」

「えぇ。可愛い服も買っちゃったのに~」

「……なら普通の服を買ってくれよ」


 元はと言えば、双葉の連絡が遅すぎたのが原因なのに。なんで余計なことをする時間だけは無限に湧いてくるんだよ。


「そうだ!」

「今度はなんだよ……」

「こういうのはどうかな? ちょっと耳貸して」

「えっ?」


 すると双葉は俺の耳に手を当て、ある取引を持ち掛けてきた。


「まあ、それなら……いいけど」


───────────────

いつもお読みいただきありがとうございます!


連載当初からここまで毎日更新していたのですが、ついに話のストックが切れてしまったため、しばらく隔日更新になると思います。なんとかカクヨムコン期間中に10万字行けるように頑張りたい……!


今後ともよろしくお願いいたします。


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