第28話 男同士なら浮気じゃないって誰が決めた?

 急いで荷物をまとめて校門に向かうと、道行く人たちの注目を集めながら、いつもの美男美女たちが談笑していた。


「あっ! 清忠おっそーーーい」


 そんな中、一番に俺を発見するや否や、両手を振ってぴょんぴょん跳ねる双葉つぐ。ねぇ、あなたどういう気持ちで跳んでるの?

 

「待たせてしまって申し訳ない」


 みんなと合流すると、俺は開口一番に謝罪をした。もちろん双葉以外に。


「いえいえそんな。頭を上げてください」

「そうそう。球部の休みにあわせてもらったのはこっちだし」


 なるほど、だから今日出発になったのか。双葉は論外にせよ、一昨日提案した割に早いとは思ってたんだよね。


「本当、来てくれてありがとうな」


 そうして岩村くんが差し出した手を、思わず俺は握手会のファンのように両手で握り返す。その隣で上品に頭を下げる津久志さんの髪は、西日に照らされ黄金に輝いていた。

 2人とも良い人すぎるよ。外見は内面の最も外側であるとは、よく言ったものだなぁ。


「ほんと待ったよ清忠~。時間は守らないと~」


 ……ただし例外はある。ねぇ、あなたどういう気持ちで喋ってるの?


「あの、さ。連絡は早めにください」

「えっ? あたしちゃんとLINEしたよね?」

「うん。集合の30分前にな」


 はて、何を持ってなのか。おかげでみんなが私服の中、俺だけ制服移動になりそうなのだが。

 

「ごめんね、海堂くん。ぼくもちゃんと確認しておけば」

「いやいやいや。彼方くんは悪くないって」


 悪いのは全部双葉だから。俺の大切な彼方くんにそんな顔させるなよ。


「ほら、つぐも」

「え~。……ごめんなさい」


 おお、あの双葉が謝罪したぞ……! まさかあの双葉つぐがしおらしく反省するとは。さすがは彼方くんだ。


「ってことで! 函館旅行にレッツゴー!!!」


 ……あれ、本当に反省してる?

 


 津久志さんが事前に切符を用意してくれたため、特急にはスムーズに乗車できた。札幌から函館まではおよそ4時間。ちなみにバスだと5時間半である。北海道は広いね。

 とりあえず俺は指定の座席に座ると、マケクドの続きを取り出した。どうせ移動中はカップルでイチャイチャするだろうから、独り身の俺はボッチ確定だ。大人しく読書に勤しもう。


「海堂くん、隣座っていいかな」

「……え?」

「ほら、2人で話したことあんまないからさ。話して見たかったんだよ」

「も、もちろん。俺は嬉しいけど」

 

 岩本くん優しいよぉ。これで見た目もかっこいいとか、こんなん男でも惚れるだろ。


「じゃあうちらは3人で座る?」

「え~。あたし光琉と座りたい~」

「わがまま言わないの。光琉と遥輝は前で良い?」

「おっけい」

「構わないよ」


 というわけで、座席は前から「風戸遥輝―彼方光琉」「岩本大悠―海堂清忠」「津久志心優―双葉つぐ―佐倉日向」になった。始めから2,2,3で指定席を取ってくれてたのね。俺を独りにしない配慮が素敵すぎて泣ける。


「海堂くん、試合観にきてくれたんだって?」

「うん。めちゃくちゃ球が速くて、びっくりしたよ」

「嬉しいよ。ありがとうな」


 笑顔は見せてくれるけど、やっぱりどこか悔しそうだ。

 

「その……最後の打球も、惜しかったよね」

「正直、俺も抜けたと思ったよ。でもまぁ……それも含めて、足りなかったんだと思う。託してくれた先輩方に申し訳ない」

「そんなこと――」

「だから俺、来年は絶対、もっともっとすごい選手になるよ。……ならなくちゃ、だめだから」


 岩本くんの表情は、少し苦しそうで、何かを迷っているようでもあった。


「陰ながら応援させてもらうね」

 

 それしか言えないよ……だって俺よりずーーっとすごい人が、俺よりずーーーーーっと頑張ってるんだもん。何の努力もせずのほほーんと生きてる自分が恥ずかしいよ。


「なーに話してるの?」


 後ろの座席から急に双葉が身を乗り出してきた。びっくりして左にバランスを崩すと、岩本くんが優しく支えてくれた。好き。


「こないだの野球の話」

「へ~。それよりさ~恋バナしようよ。清忠好きな人いないの~?」


 こいつ、絶対野球に興味ないから話逸らしただろ。そもそも知り合いの女は全員彼女がいて、好きになる権利すら与えられていないのだが。


「というかさ。海堂が好きなのって?」

「……はっ?」


 佐倉がとんでもないことを言い出した。


「女子の間で噂になってるよ? 海堂って光琉といる時めっちゃ嬉しそうだもん。女装も似合うし」

「大悠さんとも随分と仲が良さそうですもんね」


 津久志さんの笑顔が怖い……絶対怒ってるじゃん。いや、まあたしかに、彼氏の皆様方はみんな良い人だけどさ。俺ってMな男好きなの……?


「ちょっと~、あたしの光琉なんだけど~」


 双葉がぷくーっと頬を膨らませている。頼むからあなたは静かにしてください。彼方くんに誤解されたくない……。


「けど男同士で仲良くするのは別に良いだろ?」


 あ、岩本くんも俺の恋愛対象については否定しないのね。いやまあ、さっきから数度惚れかけてるけど。

 すると佐倉はなぜかはぁっとため息をついた。


「男子ってさぁ、『同性なら浮気にならないでしょ?』……みたいに思ってる節あるよね」

「あるよね、というか事実そうだろ」

「ぜーんぜん違うから! だめだから! 浮気に性別関係ないから!」

「は、はあ」

「大悠さんも、いくら清忠くんが可愛いからって、心移りしたらだめですよ」

「お、おう」


 ……さっきからこの人たちは何を言ってるの。





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