第27話 ヒロインは彼氏よりも彼女を作るべき

「私は……あゆみみたいに……うまく人と……話せない。考えて……考えて……それでも……言葉にできない。だから……もう……独りにして」

「それは、できませんわ」

「――!?」

「周りに流されず、自らの信念を貫くせつちゃんの生き方を、わたくしはとっても尊敬していますのよ」

「それなら――」

「でも!!! ……あなたが独りで生きたいのと同じように。わたくしは、あなたと一緒に生きたいのです」

 すると、真白ましろせつは頬を紅色に染め、小さく微笑みながら毒づいたのだった。

「……ストーカー」


~~~


 尊いがすぎる……! 


 野球部の応援から一日挟んで月曜日。

 『夏休み直前総復習テスト♪』を乗り越え、無事に夏休みを迎えた俺は、帰宅の前に図書室でマケクドの新刊を読んでいた。

 人と話すのが苦手な文学少女、真白ましろゆき。百合のハーレムを目指す主人公のTSお嬢様、三ノ宮あゆみは、例によって彼女にアプローチを仕掛けるのだが――。


 3年ぶりのマケクドの続刊。テストが終わるまで我慢してたけど……いやぁ、待った甲斐があった。TSお嬢様×文学美少女とか控えめに言って神です。やっぱラブコメに男は邪魔だけ。彼氏持ちとか論外だろ。


「あー! や、やっと見つけた……」


 ガラガラと音を立てて開く図書室の扉。現われたのは、ぜいぜいと息を切らした佐倉日向だ。


「ど、どうしたの?」

「『ど、どうしたの?』――じゃないよ! 何してんの清忠。めっちゃ探したんだけど」

「え。いや、普通にラノベ読んでたよ」


 俺なんか悪いことした? かくれんぼに参加した覚えはないぞ。あ、かくれんぼなら隠れていて正解か。

 というか佐倉こそどうしたの? ノースリーブなライトグリーンのワンピースに、髪を大きな白いリボンでまとめたデートコーデみたいな恰好。なんで学校なのに制服じゃないの。


「あれ? つぐからLINE来てない……?」

「双葉から?」


 慌てて俺はかばんから携帯を取り出し、LINEを起動する。俺にLINEなんてめったに来ないから、もしかして何か見落としてたのか……ん?


『清忠~』

『言い忘れてたけど、今日の放課後からみんなで2泊3日の函館ね〜』

『連絡遅れてごめ〜ん♡』

『(テヘッと舌を出すウサギのスタンプ)』


 送信時間はちょうど30分前。俺がウキウキでマケクドを読み始めた頃だ。

 ……いやー、あのさ。連絡遅れてごめ~ん♡、にも限度があると思うんだ。だって泊りの旅行だよね? いろいろ準備とかあるじゃん。『今日の放課後みんなでカラオケね~』のノリで言われても困る。俺がカラオケに誘われたことなんかないけど。


「はぁ。つぐったら本当に……」


 通知画面を横から覗きこみ、佐倉も呆れたようにため息をつく。うん、保護者も大変だね。


「まあ、双葉らしいけどな」


 双葉がいい加減なのはいつものことだ。言いたいことは山ほどあるが、別に予定がある訳でもない。泊りの準備は何もできていないけど、必要なものはコンビニで大体揃うし、まぁなんとかはなるだろ。


「……なんでちょっと嬉しそうなの?」

「俺が?」

「うん。口角上がってるよ」


 無意識だった。たしかに新選組とマジカルフロッピーのコラボは楽しみだけど、そんな顔に出てたかな。


「前から思ってたけどさ。清忠って絶対Mだよね」

「はい?」

「じゃなきゃおかしいもん。普通は怒るでしょ、こんなに振り回されたら」

「そんな性癖は持ってないけど……あれ。なんで俺、怒んないんだろ」


 たしかに、これまで双葉には散々迷惑を掛けられ、おもちゃにされ、あげく修羅場に巻き込まれてきた。双葉つぐという人間は、常に自分の欲求に忠実で、彼氏には多少良い顔するけれど、俺みたいなどうでもいいやつの都合なんて微塵も考えていりゃしない。雷の一つや二つ落としても罰は当たらないだろう。


 けどまあ。むしろそういうところが、一緒にいて楽な理由なのかもな。こっちも気を遣わなくて済むし。なんというか、腐れ縁の幼馴染みたいな感じ。それに振り回され度で言えば佐倉も大概だと思う。


「まあいいや。とりあえずうちとLINE交換しとこっか」

「えっ、なんで?」

「だって連絡取れるのがつぐだけだと不安じゃない? 今日みたいなことあっても困るし」

「それは……たしかに」


 もしも旅行中にみんなとはぐれて、連絡できるのが双葉だけだったら。「ごめーん。充電なくなっちゃった。テヘッ」と音信不通になり、俺は知らない土地で一人取り残されて――考えるのも恐ろしい。たしかに早急にLINE交換をしないと。しないと……。


「どうしたの清忠? QRだして」

「あ、のさ。……LINEってどやって交換するの?」


 佐倉は2,3秒固まると、急に優しく微笑みながら俺の肩をぽんっと叩いた。


「後で教えてあげるね。とりあえずみんな待ってるから行こうか」


 やめてくれ、俺を憐れむのは。








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