第25話 女の子はお腹と腋と太ももが一番エッチぃと思うんだよねぇ

「あーーーもーーーーー。めっっっっっちゃくやしーーーーー!!!!!!!」

「一瞬で終わっちゃったよなぁ。押せ押せな感じだったのに」

「ほんとそれ!!! てか普通あの当たりが正面飛ぶ!? ちょっとずれてたらランナー2人帰ってたじゃん……」


 球場で買ったハンバーガーに齧り付きながら、佐倉と風戸は互いに悔しさを露わにしていた。それをBGMにしながら、俺も揚げたてカリカリのポテトをつまむ。


 あの当たりはなぁ……たしかに紙一重だった。佐倉の言う通り、打った瞬間抜けたと思って声出たもん。あれで彼らの夏は終わり……高校野球は残酷だ。


「あっ! やっほ〜、みんなおつ〜」

「つぐじゃん。応援おつかれ」

「ハンバーガー食べてるの⁉ いーなー」


 お腹を空かせた双葉つぐが、ハンバーガーの匂いにつられてやってきたらしい。ただでさえ布面積の少ないチアのユニフォームは、二時間の応援で染みこんだ汗によりエロスがさらに増している。できれば上着ぐらいは羽織って欲しいけど、そもそも情念を捨てきれない俺が悪いですねごめんなさい。


 チアの集団は野球部の方に集まっていたはずだが、たぶん双葉はぬるっと抜けてきたのだろう。こいつ、単に可愛い衣装で踊りたかっただけで、野球自体にはまったく興味ないもんな。


「いっぱいあるからつぐも食べる?」

「食べる! 清忠そこ詰めて」

「はいはい――!」


 双葉はお尻で俺を強引に押し込み、無理やり隣に腰かけた。女子の身体の柔らかな感触、大きく露出した腹・腋・太もも、そして汗の香りを間近に感じて……全身が熱い。

 こんな彼女がいても淡々と勉強ができる光琉くんってやっぱりすごいや。


「あれ〜? 清忠、顔赤くない???」

「うるせ」


 そう言われると余計に意識しちゃうだろ。その汗が滴る谷間とか……平静を保つため、俺はポテトを4、5本口に放り込み、咀嚼に全神経を集中する。


「はいつぐ。チーズバーガーだよ」

「やった、日向ありがと」

「ダンス凄かったな! 1週間で練習したんだろ?」

「まーねー。ふっふーん、すごいでしょ」

「まじですごいわ」


 パクパク……風戸に褒められた双葉は、ドヤ顔で満足気に腕を組んでいる。モグモグ……かなり頑張ったんだろうな。パクパク……あんなに一生懸命に動く双葉は初めてみたもん。モグモグ……普段は人を顎で使ってばかりなのに。


「ま、試合は残念だったけどね。大悠もまだ2年生だし、来年またチャンスあるよね〜」


 残念、とは言いつつも。口にケチャップを付けて幸せそうにハンバーガーを食らう双葉に残念感はほとんどない。おそらく楽しくチアダンスができたので十二分に満足していると思われる。


「そりゃ、観てるだけのうちらはそうだけどさ。いまの3年生にとっては一生に一度のチャンスなんだよね……」

「あぁ、だよな。俺も野球はよくわかんないけど、大悠が毎日夜遅くまで練習してたの知ってるし。なんかこう、グッとくる」

「そうそう。だからこそあの涙に心惹かれて……やっぱ高校野球は最高だわ」


 風戸の応援も、最後の方はかなり力が入っていた。やっぱり高校野球特有の熱さってあるよな。そんな素晴らしい試合の後に、双葉の汗に心惹かれてる俺は手遅れかもしれない。


「あー、あたしはそーいう暑苦しいの苦手かも。試合の時だけ楽しくチアやるくらいでちょうどいいかな〜」

「まあ、それもつぐらしいけどね」


 たしかに双葉は部活に命をかけるより、隙を見て木陰で涼んでいるイメージだわ。というか、双葉が急に「球児の涙に心惹かれて……」とかいい出したら偽物を疑う。


「……でもさ。一番悔しいのは大悠と、心優なんだよね」


 ポツリと佐倉は呟いた。

 9回2失点。決して悪い投球ではない。

 それでも、3年生に託されたマウンドで、打席で。野球に縁が無い俺でも感じるものはある。


「2人が知り合ったのも、夏の大会がきっかけなんだよね」

「岩村くんと津久志さんが?」

「うん」

「えっ、そうなの? あたしも聞きた~い」


 双葉はぐいっと佐倉の方に身を乗り出す。……俺の身体に胸を圧しつけながら。た、助けてくれ~。

 だが俺の悲痛な心の叫びは届かず、佐倉はそのまま2人の馴れ初めを語り始めた。



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