第18話(前編) メイド服は可愛い。以上
4日間に渡って行われたテストも無事に終わり、俺は開放的な気分に浸っている――場合ではなかった……!
テストが終わったということは、いよいよ夏祭り。すなわち清蘭の彼氏とのご対面である。俺はまだ認めてないからな、たっくんとやらを。本当に清蘭にふさわしい男か、この目で見極めてやる。
そう決意しながら、俺は清蘭と一緒に、待ち合わせ場所の最寄り駅改札前に立っていた。
「そういえば清蘭。たっくんは一人でここに来れるのか?」
「ひとりじゃないよ。たっくんもおねーちゃんといっしょにくるって」
「……えっ!?」
聞いてないぞ、向こうもお姉さんが来るなんて。どんな人なんだろう。年齢は? めっちゃ美人だったりして……えへへ。
「せっちゃーん」
「たっくん!」
顔の整った幼い子どもが、こちらに向かってタタっと走ってきた。あれがたっくんか。幼稚園児だから当たり前だけど、油断したら踏みそうなくらい小さいな。その身体で、俺の大事な清蘭を本当に守り抜けるのか……?
「こんばんは。せっちゃん、おにいさん」
「たっくんこんばんは!」
「……貴様にお兄さんと言われる筋合いはない」
「ごめんなさい。おにいさん」
だからお兄さんと言われる筋合いは……まあいいや。それなりに礼儀は弁えているらしい。
ところで美人のお姉さんはどこに──
「あれ、なんで清忠いるの?」
普段とあまりに違う彼女の姿に、それが双葉つぐだと判断するのに数秒の時間を要した。
ということはつまり……たっくんの姉が双葉ってことか。だけど今は別の部分が気になって仕方ない。
「あ……うん。俺は妹の付き添いだけど──」
「えっ!? 拓斗の彼女って清蘭ちゃんだったの」
双葉は目を丸くし、せっちゃんとたっくんを交互に見比べる。
いやまあ、たしかに驚きだよ? 妹の彼氏が友だちの弟なんて、すごい偶然だもん。でも……その前にどうか確認をさせて欲しい。
「えっと、双葉。その恰好は?」
可愛らしいリボンやフリルの付いた、白と黒のエプロンドレス。さらに頭にもヘッドドレスが乗せられ、普段のツインテールが一層映えている。正真正銘のメイド服である。
「ああこれ? バイト先の制服。時間なかったからそのまま来ちゃった」
「バイト先って……メイドカフェで働いてるのか?」
「ううん。ただのカフェだよ。制服がメイド服ってだけ。あれ、言ってなかった?」
「……初耳ですけど」
たしかにメイド服=メイドカフェという思考は短絡的すぎかもしれない。別に露出が多いわけではないし、単純に制服として採用するカフェがあってもいいよな。その膨らんだスカートから覗く太ももには、どうしても目が吸い寄せられてしまうのだけれど。
「あんまり時間もないし。向こうついてから着替えようかな」
「まさかそれで地下鉄乗る気か?」
「大丈夫でしょ。浴衣の人もいっぱいいるし」
……浴衣はコスプレではないけどな。
※
夏祭り会場の公園は、地下鉄を乗り継いだ先にある。
車内は身動きが取れないほどに混雑していたものの、周りの方の好意もあり、なんとか園児2人は座らせることができた。
「つぐおねーちゃん。おひめさまみたーい。いいなぁ」
「えへへ。ありがとう清蘭ちゃん」
清蘭は足をパタパタさせながら、メイド服の双葉を羨ましがっている。たしかに小さい子って、こういう服好きだよな。
……というかまずくね?
メイドの双葉は清蘭だけではなく、少なからず他の乗客からの注目も集めてしまっている。このままでは、俺と双葉が並んでいるところを知り合いに見られ、あらぬ噂を立てられてもおかしくないぞ。
「清忠なんでソワソワしてるの?」
「いや、やっぱり電車でメイド服はまずいのでは……」
「そうかな? 浴衣だって普段は着ないし、似たようなものじゃない?」
「似たようなものではないだろ」
服装にはTPOというものがある。水着は海やプールだから馴染むし、浴衣は祭りにこそ映えるのだ。残念ながら双葉の格好は、TPOに適しているとは言えないだろう。
それと、メイド服を着た双葉つぐは普段と別次元の可愛さを纏っていて……油断すると見惚れそうになる自分が嫌だ。
「着いたよ拓斗、清蘭ちゃん」
「やった! せーらわたあめたべたーい」
双葉ははぐれないように2人の手を握りながら地下鉄を降り、人の流れに乗って進んで行った。俺もその背中を追って歩き出す。
いよいよ夏祭りだ。
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