第17話(前編) 大好きな妹を独り占めしたいと願うのは悪いことかも

 土曜日の午前11時。

 時間を気にせず布団に潜れるありがたみを噛み締めながら、ぼんやりした頭でスマホを開くと、双葉からLINEが届いていた。


『今日、家行ってもいい?』

 

 ……家!?

 いやいやいや。あ、あり得ないだろ。つ、つつ、付き合ってる男女じゃあるまいし?

 俺は早急にお断りの連絡を入れる。


『さすがに男女で2人は厳しいです』


 すると3秒で既読が付き、5秒で返信が届いた。


『そうじゃなくて。みんなで勉強会がしたいの。清忠の家でできない?』


 あー、そういうこと……って、なんで俺の家なんだよ。勉強会みたいな絶好の青春イチャラブイベントに、無関係の根暗陰キャを巻き込むな。


 と、心が反射的に拒絶してしまったものの。

 一応俺も今回のテストは頑張りたいし、丁度良い機会なのは事実だ。一人で黙々と勉強するより、多少やる気も出るだろう。


『2時くらいからなら、空いていないこともない』

『やった! じゃあ2人にも伝えておくね』

『了解』


 ふぅ、急に休日が慌ただしくなってしまった。

 ……まずは散らかったこの部屋をどうにかしないと。



 服を着替えて顔を洗い、朝食という名の昼飯を軽く済ませる。

 そして床に散らばったラノベを押し入れに詰め込み、人を招けるぎりぎりのレベルまで部屋を復元すると、ピンポーンとチャイムが鳴った。


「うわ〜可愛いね。清蘭ちゃんって言うんだ~。いくつ?」

「んっとね、6さい!」

「あっ、うちの弟と一緒だ~」


 ……玄関に移動すると、清蘭が既にお客様を出迎えており、双葉と楽しそうにお喋りしていた。あれ、男は来ていないんだ。


「はぁ、やっぱり清蘭ちゃん可愛いな~」

「えへへ。おねーちゃんもかわいいよ」

「ほんと!? うれしい……ありがと、清蘭ちゃん」

「どういたしまして!」


 あっという間に、双葉は清蘭にメロメロである。まあ、うちの妹は宇宙で一番可愛いから仕方がない。


「あ、清忠いたんだ」

「……そりゃ俺の家だからな」


 清蘭しか眼中になかった双葉が、ようやく俺の存在に気がついた。まあ、うちの妹は宇宙で一番可愛いから仕方ないね。


「まだ小さいのに、しっかりした妹さんですね」

「うちより頭好さそう」


 佐倉と都久志さんも清蘭を見て感心している。まあ、うちの妹は宇宙で(以下略。

 自慢の妹をたくさん褒められて、兄は非常に鼻高々である。


「清忠~、清蘭ちゃんあたしにちょうだ〜い」

「死んでも渡さん」

「ぶぅ」


 この生命に替えても、俺は清蘭を守り抜く。彼氏の件だって、お兄ちゃんはまだ認めていないからな。


「ねえ、おにいちゃん」


 清蘭が不思議そうな表情で振り向いた。


「どうした清蘭」

「――おにいちゃんって、さんまたしてるの?」


 純粋な透き通った瞳で、兄に尋ねる清蘭。


「違うぞ。ただのお友だちだ」


 三股って……どこで覚えてきたんだよ。

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