第12話 男子高校生が女児向けアニメにハマっても良いよね???

 学校が終わると、俺は速攻で教室を出た。

 なぜなら……帰ってマジカルフロッピーを観たいからだ!


 昨日の夜、清蘭と一緒に第1話を視聴したんですけどね。これがめちゃくちゃ良いわけですよ。女児向けアニメと侮るなかれ。厳しい戦いを通じて彼女たちが教えてくれるのは、現代の大人が忘却してしまった、真っ直ぐな想いや尊き夢。それらすべてが、社会に汚された俺の心を浄化していくのである。あぁ、早く最新話まで追いつきたい。


「おっ、海堂じゃん」


 校舎の玄関前に、なぜか佐倉日向が1人で立っていた。誰かを待っている、というわけでも無さそうだ。


「う、うす。……何してるの?」

「あ~、ちょっとぼーっとしてた。海堂ってさ、家あっち?」

「そうだけど」

「うちもそっちだからさ。一緒に帰ろ」

「え? あ、うん」


 ……あれ。コミュ障発揮してたら、流れで厄介なイベントを引き受けてしまったぞ。陰キャにとって顔見知りと過ごす時間は、初対面の人間と過ごす時間よりずーーーっと気まずい。だって沈黙が変な不自然さを生むから、頑張って間を持たせないといけないもん。


「えっと……今日は風戸くんと一緒じゃないんだな」

「うん。カラオケ行ってるからね」


 そうだった。朝話してたじゃん。彼は恋愛より友情を選択したのだ。


「そっか。んーっと、風戸ってカラオケで何歌うんだろ」

「さあ。カラオケはうち、あんま行かないんだよね」

「そう、なんだ」

「けど遥輝、韓流アイドル好きだから、そっち系の歌ってるかも」

「あぁ、なるほど。風戸らしいな」

「だよね」


 そうして流れる沈黙。うう、気まずい。

 俺がコミュ障陰キャなのも原因だが、佐倉がなぜか神妙な顔をしており、あまり話題を振ってくれないのだ。なんでだよー。


 ……いや待てよ?

 考えてみれば、このまま別れたらいいじゃん。そうしたらこの空気から逃げられる。俺天才じゃね? よし、遠回りだけど次の角で曲がろう。


「そうだ佐倉。俺、家こっちだから。またねー」


 しかし彼女は俺に別れを告げることはなく、代わりに一呼吸おいて尋ねた。


「――ねえ海堂。この後、暇?」


 日常生活で受けることのない質問に、俺の頭は混乱していた。これは……つまり予定の有無を尋ねられているんだよな? うん、しっかりあるぞ。


「この後は、マジカルフロッピーを観る予定だ」

「まじかるふろっぴい? なにそれ」

「神アニメだ。現代人が忘れてしまった、美しき道徳を啓蒙してくれる」

「へぇ。よくわからないけど忙しいんだ。……相談したいことがあったんだけど」


 佐倉はなぜか寂しそうな顔を見せる。

 えっ。相談って、俺? なぜ故。


「それ、本当に俺であってる? 風戸じゃなくて?」

「うん。あなたがいい」


 その真っ直ぐな瞳に、俺はドキッとしてしまった。


「ま、まあ多少なら……時間は取れる」

「ほんと! 海堂ありがと」

「お、おう」


 俺に相談ってなんだろ。……なんか悪いことしてる気分。

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