第7話 陰キャは陽キャを妬むが、陽キャは陰キャに案外優しい

 集合場所のショッピングモール内広場は、休日ということでたくさんの人で溢れていた。特に若者が多く、高校生カップルもあちこちに……実に妬ましい。その繋いだ手を、一組一組引き剝がしてやりたい。


 俺の服装はグレーの無地のTシャツにジーンズ。清蘭と一緒に選んだ、陰キャにできる最大限ましな格好だ。これならパジャマとは言われないだろう、たぶん。


「あ、清忠! やっほー」


 そんな人混みから、大きく手を振る双葉つぐ。水色のTシャツにデニムのホットパンツというアクティブな格好だ。こういうキラキラした空間で自分の存在を堂々とアピールできるあたり、さすが陽キャと言ったところか。

 そして後ろには5人の美男美女が勢揃い。まるで戦隊モノの変身シーンである。こういうの、ラノベで読む分にはワクワクする展開なのに、実際に直面すると楽しむ余裕などまるで無い。ラノベ主人公ってすごいんだな。


「お、お疲れ様です」


 俺は双葉の太ももに目が行かないよう意識的に視線を高くしながら、腰は低くして彼女たちと対面した。


「いやお疲れって。サラリーマンじゃないんだから」


 即座にツッコミを入れたのは、オタクに優しいギャルこと佐倉日向である。だが学校でのギャルっぽい雰囲気とは異なり、白のブラウスにふわっとした薄ピンクのスカートを着用している。可愛らしい女の子って感じで、彼氏でもないのにギャップ萌えしそうに……落ち着け俺。


「おはようございます、清忠くん」


 続いて挨拶したのは、ハーフの金髪碧眼超絶美少女こと都久志心優。フリルの付いたグリーンのワンピースを着ており、胸元の白いリボンがとてもチャーミングだ。まさにお嬢様という雰囲気で、その整い過ぎた顔立ちにどうやっても見惚れてしまう……落ち着け俺ーーー!


「つぐちゃんのお友だちって、清忠くんだったんですね」

「それ! うちもびっくりした~。てか心優も知り合いだったんだ」

「はい。実は清忠くんとは幼馴染で……」

「なにそれ面白そう! 聞かせて聞かせて~」


 美少女たちが俺の話題で盛り上がっている……! これは本当に現実なのか? 陰キャ人生のピークかもしれない。

 そんな2人をよそに、双葉は俺の紹介を始めた。


「男の子たちは初めてだよね。昨日転校してきた海堂清忠くんだよ」

「か、海堂です。よろしく……」


 ただでさえ根暗なのに、周りがキラキラし過ぎて萎縮してしまう。

 だが彼女持ちの男3人衆は『誰だよこいつ。俺の女と馴れ馴れしくすんじゃねえ』──という顔もせず、にこやかに俺を見てくれている。これが強者の余裕か。


「よろしくな。俺は岩本いわもと大悠たいゆう。野球部でピッチャーやってるんだ」

「よろしく……」


 へぇ、やっぱり野球部なのか。俺より二回りくらいでかいもんな、坊主だし。生物としての格の違いを感じる。


「大悠くんってすごいんだよ。まだ2年生なのに、野球部のエースだもん」

「いやいやいや。俺なんていつも先輩方に助けられてばかりだよ。もっと成長しないと」


 岩本大悠。めっちゃ運動できるのに謙虚なのかよ。人間としての格の違いも感じる。根暗でコミュ障なのにプライドだけは無駄に高いイキリ陰キャの立場がなくなるからやめて欲しい。


「それでこっちのチャラいのが──」

「おいつぐ! チャラいって言うな」

「ごめ~ん、えへっ」

「ったく……。あ、俺は風戸かさと遥輝はるき。よろしくな」

「よろしく……」


 相変わらずあざとい双葉はさておき。なるほど、たしかに耳に小さなピアスを付けていてチャラ男って感じではある。少しメイクもしているのかな。そして俺、ここまで「よろしく……」しか言っていないのだが。


「遥輝はね、めっちゃセンスがいいの。今日のうちの服も遥輝が選んでくれたやつだし」

「へ、へぇ」


 佐倉が急に惚気ながら話に入りこんできた。残念ながら、俺の話題は終わってしまったらしい。まあラブラブで何より。


「で、彼が私の彼氏の光琉」

「彼方光琉です。困ったことがあったらなんでも言ってね」

「は、はい。よろしくお願いします」


 さすがは爽やかメガネ。双葉つぐの2番目の男候補であるとも知らず、転校生である俺をさっそく気遣ってくれる。顔がイケメンだと心もイケメンなんだろうな。つい敬語が出てしまった。


「それじゃあさっそくレッツゴー!!!」


 ……どうやってもこの陽の輪に入れるイメージが湧かないのですが。

 どうしましょ。

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