第3話 再会した幼馴染も彼氏持ち!!!???

 女はクソ女はクソ女はクソ。

 帰りのSHRを終えてもなお、俺の怒りは収まらない。


 はぁ、この流れで彼氏持ちとか……詐欺だろ。どう考えても、ラブコメの始まりだったじゃん。こっちは命の恩人だぞ。

 結局、陰キャへの救いは妄想世界にしか存在しないのか。はぁあ、馬鹿らし。さっさと帰ってラノベでも読もう。

 そう心に決め、教室を出ると。


「──清忠くん、ですよね」


 突然俺を呼ぶ透き通った声。振り返るとそこには、信じられないほど綺麗な人が立っていた。

 外国人……なのだろうか。肩まで伸びるさらさらの金髪、エメラルドグリーンに輝く瞳、雪のように真っ白な肌。胸は控えめだが、それがむしろ華奢な身体を引き立てる。美少女、という言葉がこれほど似合う人も珍しい。


「私のこと、覚えてますか?」


 少女は軽く首を傾げ、お上品に俺に微笑みかける。まるで映画のワンシーンのようだった。

 だが非常に残念なことに、彼女について思い当たる節が俺には一つもない。こんなに綺麗な人、一度でも会ったら忘れるはずがないし……はっ!  

 まさか、これも詐欺なのか? 新手の詐欺なのか? 陰キャを嵌めようとしているのか?


「えっと……すみません。心当たりがなくて。どちら様でしょうか……」

「ふふふ。相変わらず忘れんぼさんですね、たーくんは」

「――あっ」


 その瞬間、俺はすべてを思い出していた。

 幼稚園の頃一緒に遊んでいた、大きな瞳に金色の髪の可愛らしい女の子。俺を『たーくん』と呼んだのは、後にも先にも彼女しかいない。


「みー、ちゃん……?」


 俺の問いかけに、コクリと彼女は頷いた。少し恥ずかしそうな表情で、頬をほんのり赤らめる姿は、これまた絵になっている。


「今朝、たーくんを廊下で見つけて、すっごくびっくりしました。まさかまた、たーくんに会える日が来るなんて……!」

「そう、だね」


 懐かしいな、都久志つくし心優みゆちゃん。たしかお父さんが海外で働いていて、お母さんがフランス人なんだよな。よく公園で一緒にブランコ漕いだっけ。

 そして同時に、俺はとてもとても重大な記憶が蘇っていた。あれはお父さんの仕事の都合で彼女が海外へ引っ越す前日のこと。


『わたし、たーくんとはなれたくないよぉ。もうあえないなんてさみしい……うえ〜ん』

『だいじょうぶだよ、みーちゃん。ぼくおおきくなったらね、すっっっごいおかねもちになって、みーちゃんをむかえにいくから。そしたらまた、いっぱいいっしょにあそぼ』

『……ほんと?』 

『うん!』

『じゃあわたしまってるから。たーくんがむかえにきてくれたら、わたしたーくんとけっこんする!』

『わかった。やくそくね』

『うん、やくそく』


 そう、俺たちはあの日結婚の契りを交わしたのである……!!!


 もももちろん? そそそんな幼少期の約束を本気にするほど? やばい俺じゃないよ? 幼稚園児なんて結婚の意味もよくわかってないですし? そもそも今の今まで俺も忘れていましたし?

 でもさぁ。めちゃくちゃ美しく成長した幼馴染との10年振りの再会。しかも向こうは俺をしっかり覚えている。こんなの期待するなという方が無理でしょうよ。


「今度、清忠くんの家に遊びに行ってもいいですか? お母さまにも挨拶したいですし」

「あ、ああ。もももももちろん」


 落ち着け俺、冷静に……いやこれが落ち着いていられっか!!!!!

 この展開はさすがに――あるだろ。おうちデートの誘いだぞ。脈しかないだろ。ないわけがないだろ。あぁ、まさか俺が、金髪碧眼の幼馴染美少女と結ばれる日が来るなんて……生きててよかった。神様ありがとう。


 だが、俺が天に感謝したその瞬間。ピコンとスマホの通知音がなった。みーちゃんは即座に画面を開く。嫌な予感。


「みーちゃん……?」

「ご、ごめんなさい。大悠たいゆうさんが待っているみたいで……また今度お話させてください」


 デジャブ、という言葉が頭をよぎる。

 ま、まさかね。


「えっと、大悠さんというのは?」

「私がさせてただいている人です」


 〜God ist tot――神は死んだ(Friedrich Nietzsche)〜


 おい!!!!!!! 

 おかしいだろ。なんで君たちは彼氏がいるのに、俺とフラグを建てようとするのよ。

 けれど、彼氏の話で顔を真っ赤にしているみーちゃ……都久志さんも可愛いので、俺は許さざるを得ない。


 結婚の、約束……。

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