第12話 交流
レヴィオンは外見だけでなく性格も、アリアの想像とはまったく違っていた。
何もしなくても寄ってくるからか、女好きであってもガツガツしておらず、来る者拒まずといった風だった。
『アリアさん、彼は誰にでもああいった期待を持たせるような……誘うようなことを言うのです本気にしてはいけませんよ』
レヴィオンと食堂で出会ったあと、フィオラは真剣な顔でそう注意してきた。
嫉妬なのか、それとも田舎出身で世間知らずそうなアリアへの忠告なのか。
フィオラの真意はわからないけれど、食堂での一件からしてレヴィオンが誰にでも甘い誘い文句を言っているのは、間違いなさそうだ。
(普通に誘惑したところで、遊び相手の一人になるだけよね……)
ユリシスの望みは、レヴィオンとフィオラの婚約解消だ。
たんなる遊び相手のために、レヴィオンが婚約の解消をすることは思えない。かといってレヴィオンとの会話を見た限り、フィオラが浮気に腹を立て婚約の解消を申し出る可能性も低そうだった。
とりあえずは、レヴィオンと二人きりにならないことには話が進まない。
休みの時間か、それとも帰り際を狙うか。
まずはレヴィオンの行動を把握するところから始めようとしていたのだが、ちょうど試験期間に突入してしまう。
慌ただしくなってしまい、アリアはレヴィオンを見張る機会を作れずにいた。
食堂で見かけはしたのだが、アリアの隣にはいつもフィオラがいる。
挨拶をする程度の接触しか持てなかった。
転入して二十日目の早朝。
ユリシスに黒い鳥経由で進捗訊ねられたアリアは『試験で忙しくて会えていません』と正直に答えた。
するとその夕方。
「君、目的、試験、違う」
黒い鳥が再び現れ、そう口にした。
アリアの答えに対する返事の時間差からして、その場で言葉がユリシスに伝わっているのではなく、黒い鳥はあくまで伝書鳩代わりのようだ。
「すみません。明日試験が終わるので、明日から頑張ります」
アリアが夜会で出会った令嬢たちは、勉強より交流やおしゃれに熱心だった。
しかしフィオラを始めとしる生徒たち、少なくともアリアの周りにいる者たちは熱心に勉学に励んでいた。
なのでアリアもつい彼らを倣って、必死に試験に取り組んだ。
けれども確かに黒い鳥の……ユリシスの言うとおり、アリアの目的は模範的な学生になることではない。
頭を深く下げて謝ると、黒い鳥はどこか不満げに、忙しなく羽ばたかせて去って行った。
翌日。
「アリアさん、よかったら今日、うちに来ませんか?」
レヴィオンに会う方法を思案していると、フィオラからの誘いを受けた。
「フィオラさんの、おうち……ですか?」
「ええ。アリアさんが嫌でなければですけど。先日お話ししていた本をお見せしたくて」
ソラリーヌ男爵家には広い書庫があり、そこには男爵が収集した本が所狭しと並んでいた。
男爵が『読書』を推奨していたので、アリアも頻繁に利用していた。
それもあって特に趣味というわけではないのだが、よく本は読んでいる。
フィオラは読書が趣味なようだ。
他愛のないお喋りをしているときに本の話になり、彼女のお気に入りの本をアリアが読んでいたと話すと、キラキラした目で食いついてきた。
「同じ趣味の方に出会うのがはじめてなので……。ぜひ、アリアさんにおすすめしたい本があるのです。美味しい焼き菓子もありますし、ぜひ」
読書は趣味ではないので、おすすめされても困る。
けれどフィオラとより親密になれば、レヴィオンと会う機会も多くなる。
「ご迷惑でなければ、お邪魔したいです」
朗らかな笑みを見ていると、少しだけ……ほんの少しだけ胸が痛んだが、後ろめたさを吹っ切るようにアリアは笑みを返した。
エメロフ侯爵家は想像していたとおりの豪邸であった。
由緒ある家柄に相応しく長い歴史を醸し出してはいたが、修繕が行き届いているのか古めかしさは感じなかった。
焼き菓子とお茶をいただいたあと、フィオラの自室に招かれる。
フィオラの部屋には大きな本棚が並んでいた。
「この本と……これとこれとこれ、あとこれも、私のおすすめなんです。試験勉強も終わりましたし、どうぞゆっくりお読みになって。よければ感想を聞かせてくださいね」
本について話したあと、勧められるまま五冊の本を借りた。
馬車で送ってくれるというのを丁重に断って、エメロフ侯爵家の屋敷を出たのはいいが、案外に本が重い。
重くなった鞄に眉を顰めていると、バサバサという音とともに、突然黒い鳥が目の前に現れた。
見知らぬ黒い鳥ではない。ユリシスの『伝書鳩』である。
どうしてここに、と驚いていると、黒い鳥が嘴でアリアの髪を引っ張った。
どこかに誘導しようとしているようだ。
アリアは黒い鳥に引っ張られるまま、裏通りに入る。
細い路地を何度も曲がると、人気のない空き地のような場所に出た。
大木の下に、長身の男が立っている。
全身黒づくめなうえにフードを深く被っていて、顔は半分しか露わになっていない。
どこからどう見ても不審者なのだが、黒い鳥は優雅に旋回してその男の頭の上に止まった。
アリアの知っている人物で間違いだろう。
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