見事な飛びっぶり

 ミハエルはなんとなく転がしたドッジボールにある違和感を感じた。

「これ……?」

「どうしたのミハエル?」

 東雲波澄しののめはすみがきいてくる。だがミハエルは答えずに、

「いやあ、おかしいんだよね」

 と、相手チームに1人増援が出現した。そこら辺のドッジボールを拾って渾身の力で投げてくる。

(といっても、さっきのリーダーほどではないな)

 ミハエルの感触からするとそうだった。

波澄はすみ、さがってて。このライン……」

「え、えぇ……」

「ほれ、このコースだとバグるんだろ」

 とミハエルがいい、アンダースローどころがごろごろ転がすように相手にボールを渡す感じになってしまう。

 その何の威力もないゴロゴロボールを相手が拾おうとしたとき、

 バコオオオォォォォォォン!

 急にボールが60度くらい上にはじけ飛んで相手のアゴを打ち抜いた。

「やっぱバグだ。ルシファーに学園世界に閉じ込められた時もバグで切り抜けたんだよな」

 ミハエルが核心と共に呟く。

「よく見つけたねえ、ミハエルくん」

 感心した様子でアリウス。

「あれ脳みそ揺れるしいてえし吐くぞ、人間だったら」

 とフレッド。

 相手はそのままその場に倒れて動かなくなる。

 と、フレッドの隣にいきなり人影か現れた。

「おおお!? なんだぁ! おっさん! 脅かすなよ!」

 フレッドが1歩下がる。

 おっさんは何も反応がない。マネキンみたいだ。

 フレッドはドッジボールを手に取る。

「お前さあ、こんな戦場で人の後ろに立つことがどーゆー意味か――」

 振りかぶる。

「――わかってんのか!!」

 気合いと共に、ドッジボールをオッサンの脳天にぶつける。

 オッサンの脳天が吹っ飛んだ。

「あ…………」

 フレッドが投げ終わった姿勢のまま硬直する。

「ええ…………」

 東雲波澄しののめはすみが飛んで行ったものを目で追いかける。10mくらいトンで、それはドッジボールに覆いかぶさった。

「見事な飛びっぶり」

 ミハエルが拍手をする。体育館なので拍手はよく響く。

「ごめんなさいいっとこ、フレッド」

 アリウスが、たじたじな顔でそういう。

 飛んで行ったのは脳天そのものではなくカツラだった。

「すんません……」

 素直にフレッドが礼して謝った。

 だがおっさんは無言で、無表情でフレッドに近づいて来ようとする。頭が爽やかなお兄さんのままで。

「こえーこえーこえーこえー」

 フレッドが恐怖にかられ、ドッジボールをオッサンに何度も何度も当てる。

「生き恥をさらしてやるのも、あはれだな」

 といい、ミハエルが左でドッジボールをオッサンに当てる。

「はい、顔面セーフー!」

といいつつ顔面に投げる。ミハエルは、相手が人間じゃないからこそのあえての鬼畜せんたくである。

「う~ん…………」

 うなりながらもアリウスもドッジボールをオッサンに当てる。

 要するに、男3人がオッサンを集中砲火している様子だ。

 オッサンはもんどりって倒れながらも歩みをやめようとしない。

「全然消えないよ、このNPC! なんで!?」

 アリウスが疑問の悲鳴を上げつつ魔法をオッサンに撃ち込む。

「ちょっと、やめましょうよ…………いじめよこれは……」

「NPCだ。人間じゃない」

 東雲波澄が止めようとする。だが3人は聞かない。

「そういやアリウスくん! キミなんで魔法つかえてるの! 現実の特殊能力引継ぎとかないはずだ」

「バグ。魔導製品には魔導なりのバグがあるんだ」

 そういってウィンクするアリウス。

 そしてオーバースローで投げたミハエルのボールがオッサンの顔面に命中した!

「あ。思いっきり投げたの顔にあたったけどVRのNPCだから謝らないでいっか。顔面セーフー!」

 とミハエルは左で剛速球を投げつづけた。

「あ、また」

 ヂュドコォォォン!

 ドッジボールがオッサンに当たった瞬間、オッサンは黄金の気を纏い、空中に飛びあがりつつミハエルに突撃してきた。

「うおおおおおおお!?」

 ミハエルは宙を舞って突撃してきたゴールデンオッサンともみくちゃになりながら、体育館に転がった……。

「ほら、NPCとはいえ、いじめするから」

 東雲波澄はそう言い捨てた。

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