ランドセル、君との2日間。

@1z1q

第1話

あれは星が綺麗な日だった。


「ねえ、そこの君」


俺は目がくらくらして前が見えない。


「おーいおーい」


……?


闇の中から太陽の光が差し込んだ。小さくあいた窓の隙間からセミの音が聞こえる。漏れる太陽の光に圧倒され目を覚ます。


「やっと見えてきた?」


よく分からない声がしてる。今何時だ?勉強しなきゃ……

勉強机に向かって歩こうとした時、体が重く動かなかった。


「どういうことだ?」


その時鏡に映る俺を見た。


「え……?」


俺が見えたのは人間でも生き物でもなくランドセルだった。

(ちょっとまって?まだ夢の中か?)


「ゆめじゃないよー!!」


声が聞こえた先にはちっこい生き物がいた。肌は白く、瞳がくりくりしている。頭には輪っかのようなものがつき、羽が着いて宙に浮いている。いわゆる天使ってやつ?


「お前何者?」

「天の世界からきました!」

「きました!じゃないんだよ」


俺は夢を見ているんだなそうだな


「そろそろ自分の運命を受け入れて」

「は?それどういう……」


その時ドアかバン!と開いた。そこにいたのは小学生の頃の俺の姿だった。


「はーつかれた!宿題やりたくないなー」


小学生何年生か分からない俺がこっちに向かって歩いてきた

されるがまま黙ってランドセルになったらしい俺の方に向かって宿題をとりだしていた。


「宿題リビングでやってこよー」

ダダダダ。小学生の俺は階段をかけおりた。


「あなた思ったより冷静だね。」

天使らしき謎の生き物が再び俺に向かって話してきた。

「冷静というか何が起きてるのか分からない」

「わかってると思うけど、お前はタイムスリップしたんだ」

「あれって小学生の頃の俺?」

「そう。」


ますます意味がわからなくなってきた……


「お前さんはどうやったら元の自分に戻ると思う?」


その質問に俺はビクッとした。


「は!?どういうこと?お前が勝手に俺をこの姿にしたのか!?」

「いや私じゃない私じゃない」


はぁ……わけがわからない


「そういや、お前名前なんて言うの?」

「私の名前はステラ。あなたのサポートを頼まれてやってきたの。」


ステラ曰く、俺がどうしてこうなったかは自分で考えろって話らしい。

……わかるわけないだろ!


「もうすぐ小学生のお前がここの部屋に来る。明日は月曜。それだけ教えておくね。あとは頑張って!」

「ちょっとまって……」


そう言った頃にはステラはいなくなってた。やっぱ天使じゃない。こいつは悪魔だ。


ダダダダ。小学生の俺が部屋にやってきて寝る支度をしてる。

とりあえず俺も寝るか……。


ガサガサガサ。

俺は衝動に駆られて起きた。

(なんだなんだ……)


「遅刻遅刻ー!!!!」

ああ、そうだ。俺は小学生の頃遅刻常習犯だった。

頼むから落ち着いてくれ。背中に背負われてるランド俺からしたら本当に痛い!!


キーンコーンカーンコーン


「ギリセーフ。」

「セーフじゃないよーあと10秒早く家出なさい」


うわ、懐かしい。鈴木先生だ。つまり俺は4年生の頃にタイムスリップしたってわけか。

それにしても俺なにすればいいんだ?ステラーどこいったんだよー。


「凪くんおはよー」

「星空おはよー」


星空……???


小学四年生 夏。

俺は星空と会うのがあの日が最後だった。


(なんで星空がいるんだ?今何月何日?)


俺は黒板をみた。

7月17日……


一ノ瀬 星空。俺の幼馴染。

俺が星空を失うのは確か夏休みの1日前。7月18日だ。


(ちょっとまって、あと1日しかないの?)


「凪くん今日もいい知識教えてあげる」

「でた日本語の話ー」

「星が綺麗だねにはどんな意味が込められてるでしょーう!」

「えーしらねー」

「あなたに憧れていますって意味があるんだよ!ロマンチックすぎない??」

「へー」


いくらなんでも小学生の俺が冷たすぎる。星空はこうやって俺に沢山素敵な言葉を教えてくれたな。


「凪くんこんにちは!調子をはどうかな?」

「いや、運命を変える方法ないのか?」

俺は恐る恐るステラの方を向いた。

「運命……ね」

天悪が黙り込んでしまった。急にどうしたんだ?

「ごめん俺の事情に巻き込んだ。あと残された時間は今日と明日。運命を変える方法があれば……」


星空が俺の前から姿を消した日。蒸し暑いのに背筋がひんやりしたあの日。俺は高校生になった今も星空のことが忘れられない。俺は星空の影響で言葉の美しさに気付かされ、今では日本語が大好きになった。


キーンコーンカーンコーン


「これから帰りの会をはじめる。なにか連絡ある人?」


夏休み前の授業は午前で終わる。


「ねえねえ凪くん!」

「ん??」


(はあ……小学生の俺、俺がお前になって、お前がランドセルになれ。)


「明日最終日でしょ?お母さんが呼んでるからうちきてスイカ食べようよ!」

「えー明日俺友達とバスケ……」


(おい!ばか!どうすれば……)


俺は頑張って体を動かした。ランドセルの俺に出来ること……あっ……!


パラッ……


「うわ!まって俺塾の課題やってない」

「なにしてんのー笑」


ランドセルの俺、何してんのかわかんないけど塾の課題を床に落としたみたい


「はー課題やらなきゃ……」

「じゃあバスケなんかやってないで課題よ。明日うちでやる?」

「しょうがねーな。」


なんかわかんないけど俺成功してる。ランドセルだとほんとなにもできないな。とりあえず、今日は星空の様子を伺って変わったところは見当たらない。いつも通り元気だ。……明日が最後だとは思えない。


俺は一日ランドセルとして過ごした。正直何が起きてるかまだ分からない。明日運命を変える方法。それは1日星空について生きることだ。それしか考えられない。ボディガードになる。


「ランドセル生活1日お疲れ様」

「お前ほんっとなんもしないよな。なんか必殺技とか無いわけ?」

「私はただのボディガードです!見守ることしかできないのです」

「はー役たたず」

「運命変える方法なんか思いついた?」

「星空にずっとくっついて生きる。」

「お前ランドセルだぞ?」

「それしか思い浮かばないの。おやすみ。」


俺は天悪をしっしと追い払った。来て欲しい時に来ないし、来なくていい時に来る。


「ふーんおやすみ」



7月18日 星空が姿を消す日



こいつ、、まだ起きない。

俺は今机の上に置いてある。申し訳ないけど体を動かして床に落ちるしかない。


ガタッ

「うわ!びっくりした」

いってぇ……痛いけど小学生の俺が起きたならいい

「なんか今日早起き出来たな。ゆっくり行くかー」


小学生の俺は家を出て学校に向かった。


夏の匂い。チョークの粉が日光に照らされ輝いている。蝉の声が騒ぐ時期。


ガラガラー

「凪くん早くない?」

「おはよう」

星空だ。顔色を伺ってもいつも通りだなあ……

「なんか目が覚めたんだよねー。あ、今日一緒に帰るか」

「うんそのまま家来ていいよ」

「1回家帰ろうかな、塾の課題持ってきてないし」

「わかった!」


やばい。1回家帰ってランドセルの俺が家に置いてかれる。つまり星空のボディガードができない。


キーンコーンカーンコーン

「良い夏休みを過ごすようにー」

「よっしゃ!夏休みだ!」


何事もなく学校はクリア。


「ステラ……」

「ん??」

「初めて来て欲しい時に来たわ」

「星空って不慮の事故で亡くなったんだよな?」

「そうだよ……だっけ」

「そうだよだっけってなんだよ」

「私星空さんのことしらないもーん」

「1周目では俺は友達とバスケに行った。今回は星空と一緒に過ごす。」

「うん笑」

なんで笑ってるんだろう。俺真面目なのに。



「お邪魔します」

「凪くんいらっしゃい!」


ランドセルの俺がどうなったかって?塾の課題の存在を忘れてそのまま星空の家に直行したおかげで無事星空そばから離れなくて済んだよ。


星空は俺の横でスイカを食べている。夏はきらきらしているようで、どこか切なくて。なんだか胸がざわつく。星空の様子を定期的に伺ってるけど、俺に向かってこんなにニコニコして話してたんだな。


「あ、俺塾の課題やんなきゃだったんだ。」

「あ!そのまま家来ちゃったね」

「俺取りいってくるー」

「うん!」


ただ課題を取りに行くだけだ。


(凪くんさっきアイス食べたいって言ってたし、買いに行こうかな)

「お母さん!アイス買ってくるね」

「気をつけてね」

やばい。星空が1人で外出をする。縁側に取り残された俺は何も出来なかった。


キキキーーッ


星空……!



……あれ?

なんだか肌寒い。おれ夏のど真ん中を生きていなかったっけ?しかも自分で動けるようになってる。


俺は高校生の自分に戻っていた。これ、夢だった?

「星空…星空…?」

額から落ちてくる汗が止まらない。

もちろん何回呼んでも星空はいない。

「ステラ……俺の前にもう一度現れて一から説明してくれよ…」


俺普通の生活に戻った。ランドセルになったあの2日間を思い出す。どうしてランドセルになったのかは未だに分からない。でも俺って自分のことを客観視できていなかったんだなと思った。星空がなくなって、大事な存在が居なくなって無気力になっていた。



「俺、今までなにしてたんだろ……」 


そう言いかけた時、目の前に真っ白な肌をした瞳がくりくりしている星が僕に微笑んだ。


「ステラ…?」


俺にこの先はもう何も言うな、と言っているような気がした。


「ほんっとあんたって私がいないと生きていけないよね」


空を見上げると星が輝いている。


「私思うんだ、運命って変えられないわけ。」


俺は気づいた。

ステラはラテン語で星。

5年前に俺の前から姿を消した星空、なんだよな?


「ステラ、いや星空。俺になにか言うことあるんだろ?」


星空は目に雫を浮かべて言った。


__桜が綺麗ですね

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