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 空に国境はない、物理的には無いが実際問題として色々ある。東京都西部から新潟県、長野県方面へ広がる空域を「横田空域」と呼ぶ。東京都西部にある在日アメリカ軍横田基地の管制する横田基地から横須賀基地周辺の空域である。羽田空港近くまで存在していたが、近年、日本へ管制権が一部返還され、その結果大田区をはじめとした都内上空を羽田空港を利用する旅客機が低空飛行をすることによる騒音問題が発生している。

 

 横田空域内をF/A-18戦闘機が飛び交っていた。沖縄から気象予報図には無い「台風の接近」による避難で偶々たまたま飛来していた機体と厚木基地の機体である。ちなみに、横田基地自体には戦闘機は配備されていない。

 通常はC-130やC-17、騒々しいオスプレイといった輸送機による任務を行っている。


 横田基地司令官ハミルトン 大佐は静かに怒っていた。彼女にとって、東京は守るべき土地である。その半分が焦土と化していく。

 東の上空で光っているのは戦闘機によるフレアか、それとも黒い円盤の投下した焼夷弾か。

 時折空を横切っているのはミサイルだろう。


 円盤にミサイルを撃ち込めば円盤はことになる。それでも、都心に攻撃を続ける円盤を上空に残しておくよりは一刻も早く撃墜する方が総量的な被害は少なくて済む。それでもこれだけの人口密集都市だ。人的被害は避けられないだろう。

 もし、アメリカ軍機が撃墜した円盤の破片が住宅に落下した場合、または不幸にしてアメリカ軍機自体が撃墜された場合、この戦闘後に日本国民がまるでアメリカが日本を攻撃したかのように責め立てるだろうことは分析官たちから警告されている。従って、横田空域の外にアメリカ軍機を出すのは日本の応援要請を待つこととなった。


「4分の1インチでも横田空域に入れば攻撃可」


 東京上空の黒い円盤はレーダーでは捉えられないのはパイロットも知っている。つまり、本当に空域に入ったかどうかは証拠が残らないということだ。近づいてきただけで攻撃するだろう。

 それがわかっているのか、円盤は横田空域に全く掛からない地域を爆撃している。


 軍事用の映像を見るまでもなく、日本のテレビ局による中継ですでにスカイツリーが炎に包まれているのを目撃している。アナウンサーの叫び声に目をやれば、国会議事堂の屋根が無くなり、首相官邸は跡形もなくなっている。


 ――閣僚も役人も核シェルターである地下に潜って無事だろう。


「あの円盤、どういうことなの」

「残機数8。双方とも攻撃続行中です」

 すぐに傍らにいるチーフが答える。

「あれがいわゆるUFO、宇宙人ではないなら、どこの国から来たの?」

「不明です。ですが、シベリア方面から現れたと言われています。

 ちょうど、我々の衛星が上空にいない時間にシベリア上空に現れ、ロシア領空では一度も緊急発進を誘発していません。さらに横田空域の位置を認識しています。ロシアは沈黙していますが、彼らと何らかの関係があるとみるべきでしょう」


「何も言わずに日本を攻撃する理由は何?」

「不明です。日本や西側に対する要求があるのならもう表示しているのが通例です。これではまるで、住人など存在していない標的物に対する軍事的デモンストレーションのようです」


 ◇◇◇


 ここに、「総量的被害」など思いもよらない自衛官がいた。

 91式携帯地対空誘導弾を担いでUH-1ヘリコプターに駆け寄る陸上自衛官木村きむら 桜花さくら陸曹である。

 目の前で東の空が真っ赤に焼けている。どこからか飛来したUFOに攻撃されていることぐらいは見ればわかる。


 ――テレビの嘘つき、嘘つき。あのまま何もしないでいなくなるって言っていたのに。


 出動命令は受けていないが、何もせずにはいられなかった。慣れた手つきで操縦席に乗り込み、ヘリコプターを起動する。

 陸上自衛隊 立川駐屯地からUH-1ヘリコプターが離陸した。

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