東京半壊

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 ワシントン特別区、FBI本部ビルはメリーランド州グリーンベルトへの移転は決定しているがまだフーバービルにある。

 ペンシルバニア大通りに面した壁面にはこれまでの時代によって星の数などが異なるアメリカ国旗が掲げられている。この砂色の建物の中には面談室や取調室も備えられている。

 ここに元・大統領補佐官ウォルター・H・シュミットは座っていた。


 落ち着きなく目の前に座っているのは弁護士・チャールズ・デビッド・ボルコフ である。依頼人であるシュミットの方を真正面から見つめようとはしないで視線を避けている。

「落ち着きなさい、弁護士さん。取って食ったりはしませんよ」

「それはわかっているが、その、目は何か手術でもしたのかね?」

「生まれつきだよ。そんなに怖いかな?」

「いや、そんなことはないが(では、この言葉もわかるかね?)」


 人間の耳にはただの歯擦音が多めの言葉にしか聞こえない言語だった。シュミットが浮かべていた皮肉な笑みはそのまま、ボルコフ弁護士を見る目が僅かに細くなる。


「じゃあそんなに緊張しなくてもいいんじゃないかな(当然だろう? 今、どこまで進んでいる?)」

「そうは言っても、君の目はホラ、一般のアメリカ人とはだいぶ異なっているからねぇ(東京はもうすぐ壊滅するだろう。だが、アメリカはまだ我々のものになっていない)」

「議員のベネットじいさんはあんまり驚いてなかったけどな(ベネットはどうしたんだ?)」

「まだまだ青いな。ここは民主主義で自由主義国家アメリカだよ? 議員はある意味バケモノだ」


「とんでもない見込み違いをしてしまった、ということか(人間を引き込もうとするんじゃなかったな)」

「議員の提出した録音を聞いたが、君はロシアのために働いている、ということかね? (今回の失敗でロシア国内も技術力への不安から政情不安定化しているんだぞ)」

「そうだよ、ロシアは俺のことなんか知っちゃいないけどな(俺に今更どうしろというんだ?)」


ボルコフ弁護士が立ち上がり、退室の合図を送る。


「オレはどうなる?」

「全力で死刑だけは回避するつもりだ。今日のところはこれで失礼しよう」

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