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 茨城県百里基地、中部航空方面隊 第7航空団の置かれた基地である。第7航空団はF-2 戦闘機を運用する戦闘航空団である。つまり、領空侵犯への対処を行える部隊であり、青森方面から南下してきている国籍不明機9機は本来、領空外へお引き取り願うべき存在である。


 今も常時12機のF-2戦闘機が警戒に当たっているが攻撃許可が出ない。攻撃許可が出ない以上、文民統制シビリアン・コントロールの確保が揺らいでしまう。百里基地司令 空将補 花園はなぞのは目の前の電話機を睨みつけていた。

 なぜ攻撃命令が来ないのか、国会で議員が大荒れに荒れているせいで総理大臣が決心できないでいるせいである。その上、円盤が飛行機にあるまじき低速で移動しているため、テレビ中継や見物人で常磐自動車道が渋滞しているという。


 ――この平和ボケした、いや平和を愛する人々を守るために自分は自衛官を志したのではなかったのか。このままメルボルンやシドニーの惨禍を日本で繰り返させるまで待っていていいのか。


 厚木基地からはすでに哨戒機を太平洋上、東京の東南方向に位置する硫黄島方面を中心に5機が出撃したと連絡が来ている。オーストラリアから北上してくる国籍不明機を迎え撃つつもりでいるのだろう。

「海自の哨戒機に同行する隊を出す」

 コールサインBright を持つ航空隊のF-2戦闘機が飛び立って行く。硫黄島までF-2戦闘機が最速でも1時間以上はかかる。哨戒機はそこまでの速度を出せないのですぐに追いつくことができるだろう。


 ――何もせずに立ち去るつもりならもう、とっくに居なくなっているだろう。コイツらはあの14機を待ってるんだろう。腹に隠し持ってる焼夷弾で東京を焼くつもりか?


 花園基地司令は早期警戒管制機から送られてくる映像を見て唇を嚙み締めた。防衛装備庁 下北試験場からの連絡では撃墜された4機がロシア製の爆弾を運んでいたのは確実視されている。


「花園司令、標的を発見しました。高速で硫黄島東900kmの公海上を北上中です」

「硫黄島からの報告か?」

 哨戒機や戦闘機からだとしたら発見がいくらなんでも早すぎる。まだ硫黄島までも到達していないはずだ。


「いいえ、アメリカ海軍所属、空母ジョージ・ワシントンです」


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