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 大統領官邸ホワイトハウス。ウエストウィングに「シチュエーションルーム」と呼ばれる一室がある。大統領とそのスタッフや軍人が国内外の有事の際に監視・対応を行うための通信設備をそなえた部屋である。

 数多くあるモニターにはオーストラリアの惨状と、日本の航空自衛隊によるE-747早期警戒管制機から送られてくる黒い円盤9機の現状が映し出されていた。


 デイビス 国防長官とそのスタッフ達、ランカスター 大統領、ウォーカー 国務長官とそのスタッフ達が眉を顰める。

「オーストラリアを襲撃した黒い円盤はそのまま太平洋上へ飛び去りました。レーダーでの捕捉ができないため、目下ハワイとグアム周辺での警戒飛行は続けていますが行方は判明しておりません」

「日本に向けて航行中の空母ジョージ・ワシントンがハワイを出港しました。目視による上空確認をしつつグアム経由で横須賀に向かいます」


「大統領閣下、アメリカを戦争に巻き込む可能性もあります、不用意な攻撃は慎むべきでしょう」

 シュミット大統領補佐官がそう言うと大統領は軽く頷いた。国務長官がすぐに反対する。

「オーストラリアは同盟国です」

「ですが、オーストラリア自身で追撃をしていないのであればアメリカによる追撃は不要でしょう」


 オーストラリア軍の人的規模は大きくはない。保有している戦闘機の数も練習用機体を合わせても三百機程度である。3都市同時攻撃での対応に数十機と熟練パイロットが失われている。被害の復旧と別の都市への防空のため、追撃したくともそれに割ける人員は極めてすくないだろう。


「沖縄から支援物資を運ぶこともできますが、物資も限られています、直接送る方がいいでしょう」

「もう沖縄からC-17大型輸送機が出発しています」

「どういうことですか?」

「人道支援です。救護物資の寄付が溢れましたので飛び立ちました。カンガルー作戦と名付けています」

 無表情で空将が報告するとシュミット大統領補佐官は手元のタブレットを確認した。


「在日米軍基地の司令官全員を呼び戻していただきたい。オーストラリアの災害救助は命令に含まれていないはずです」

「禁止事項でもありません。それに日本上空は黒い円盤のせいでロックダウン中ですから呼んでも戻ってこれませんよ」

 国防長官が穏やかに言い足した。

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