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国家安全保障会議のメンバーは首相官邸に集まっていた。ジリジリと南下してくる黒い円盤9機は何もしないで宇宙の彼方にでも飛び去ってくれるのではないか、と楽観的な見方がワイドショーでは大勢を占めている。首相官邸前のデモ隊も「対話による平和」を求めて叫び続けていた。
「みなさん! 軍事力によって平和を追求することが、本当に私たちにとって賢明でしょうか? 戦闘機が平和的に飛んでいた飛行物体に闇雲に近づいた結果、落とされてしまいました!
しかし、もし我々が戦闘機など持たなかったらどうだったでしょうか? 一人の尊い命が失われることは無かったのです!
今だからこそ、憲法9条を基本理念とした外交的努力を中心とする、軍事力に頼らない平和への取り組みが求められているのです!
悲惨な戦争を始めてはいけません! 世界に先駆けて武力を放棄しましょう!」
その様子を官邸内から退屈そうな顔をして眺めているのは
「全く、よくやるよね、ねぇ? そう思わない?」
「さぁ、私にはなんとも」
曖昧な笑顔で答えているのは防衛省から国家安全保障局へ来ている木村事務官である。胸元にノートパソコンを抱えている。
「今日も会議だけど、もうUFOもだいぶ近くなってきたことだし、4大臣会合でいいと思わない? あ、
「はい、外務大臣はアメリカにご滞在中です」
「もうそろそろ帰ってくる頃だから、準備しておいてね」
「は……?」
なぜ、そんなことが言えるのか、と内閣官房長官に問いただせる程の胆力を菊花はまだ持ち合わせていなかった。
「さ、会議始まっちゃうよ、あ、木村サンが司会だから大丈夫か」
内閣官房長官に促されて慌てて「はい」と返答すると菊花は長官を案内するように会議室へ向かっていった。
スクリーンに炎に包まれるシドニー市街が写っている。続けて3都市が瓦礫と化していく様子を見せられた議員たちは珍しいことに何も言わずにスクリーンを見つめていた。1分程沈黙があっただろうか。
「キミ、すぐに災害備蓄の確認をして、オーストラリアに回せる分を確保して」
海江田防衛大臣も横にいた事務次官を振り向いた。
「海自の医療船は何隻ありましたっけ?」
「海江田防衛大臣、自衛隊に医療船は存在しません」
「なんだと……?!」
「ましゅう型補給艦を医療船として転用運行可能ではあります」
「じゃあ、急いで手配してください。支援物資は総務省とすぐ協議して。3隻送れますか?」
「保有数は2隻です。現状、国籍不明機が東京に接近していることを考えますと、ここは見合わせたほうが宜しいかと」
「都民への対応も必要かもしれない、ということか。じゃあ1隻で仕方ない」
「大臣!」
「準同盟国が苦しんでいるんだから、人道支援は当然でしょう? 大体、円盤なんか全部撃ち落とせばよろしいのです」
「それは総理のご判断が必要です」
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