レクイエム・オーストラリア
1
その日、オーストラリア上空は心地よい快晴だった。
警戒飛行をしていたF/A-18戦闘機2機が黒い円盤を目視確認するまでは。
オーストラリア空軍のパイロットは即座に情報共有された日本のF-15戦闘機と円盤の映像を思い出した。
「管制塔、こちらファイヤーバード1-1、3-9地点で黒い円盤十数機を確認した。レーダーには映っていない。そちらのレーダーには映っているか?」
――ファイヤーバード1-1、了解、……こちらのレーダーにはファイヤーバード1-1と1-2が写っている。どんな物体か説明できるか? キウィ5-1とデビル2-1が緊急発進した。あなたの右側から来るはずだ。
「了解。日本から送られてきた映像にあった黒い円盤だ。もうすぐ領空に入る、何か交信はしてきているか?」
――周波数を変えて試しているが、全く応答が無い。F/A-18を見せても反応無いか?
「全くない。領空に入った。キウィとデビルを確認した」
――了解
今回の円盤は静かに、まるでF/A-18戦闘機がいないかのように進んでいく。不意に5機が直進し、9機が進路を東へ変更した。途端に9機は加速してファイヤーバード1-1の視界からは消えた。
「管制塔、こちらファイヤーバード1-1、円盤との交信はできたか? 9機が東に向かって飛んで行ったぞ。」
――こちら管制塔、了解。ニュージーランド空軍に連絡はしておく。円盤からは全く応答が無い。今はメルボルン郊外だな。円盤からどれくらいの距離にいる?
「1Kくらいだ。ヤツら高度を下げ始めたぞ」
――ムアアビン空港で円盤を目視確認した。市内じゃ見物人が出始めているぞ。なんなんだ。着陸許可要請なんか来ちゃいないぞ。
――管制塔、こちらキウィ5-1、シドニー手前で4機さらに北上していった。デビルが追尾している。5機はシドニー市に向けて高度を下げ始めたぞ。
「こちらファイヤーバード1-1、やつらは散開したぞ。どんどん高度を下げていく。交信できたか?
」
――まだだ。うわぁっ
メルボルン市上空に散開した黒い円盤は空中に一時停止した。そして一斉に円盤下部からきらきらと光る爆弾を連続して投下開始した。同時刻、シドニー上空とブリスベン上空でも円盤からの爆弾投下が一斉に開始した。
ファイヤーバード1-1と1-2は即座に円盤に対してロックオンをしようとした。しかし、レーダーでとらえられない円盤をロックオンすることができない。地上ではあらゆるところから炎が上がっていた。黒い円盤は5個浮いている。バルカン砲で撃墜しようとしても直前で素早く動き回るので当たらない。
ファイヤーバード1-2は1つの円盤に近づいていった。手動でミサイルを撃つようだ。
「1-2! 上に避けろ!」
ファイヤーバード1-1が警告を発するのとほぼ同時にファイヤーバード1-2が目標としていたものとは別の円盤がファイヤーバード1-2を通過した。戦闘機であったものが粉砕される。日本から共有された画像と同じことがファイヤーバード1-1の目の前で起こっていた。
ファイヤーバード1-1の視界左後方に黒い物体が写りこむ、直前で左前方へ飛び込んだが、右翼がすっぱりと無くなっていた。墜落していく機体から記録用カメラを胸元に突っ込み、緊急脱出する。
パラシュートで落下しながら見えていたのは美しかったメルボルンの街が崩れ落ち、炎に包まれる様子だった。
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