3.5

 テレビでは視聴者からの投稿を含めて、何種類かの空中戦の映像が放送されている。昼休憩中に食堂に集まっている隊員たちはその画像を見つめていた。


 陸上自衛官・木村きむら 桜花さくらもその一人である。目の前に座った同期の犬上いぬがみ 美月みつきに声をかける。


「安保条約って一時停止したんじゃなかったっけ?」

「再開したっていう話は聞いてないけど、どうして?」

「あの撃ち落とした戦闘機ってなんだか、最初から映ってた黒っぽい戦闘機より明るい色してない?」

「あら、別の種類かしら? 空自か海自の知り合いに聞いてみるわ。きっと似たような映像見てるでしょうし」


 美月がスマホでメッセージを送信しているとテレビは軍事評論家や国政政治学者とならんで芸能人たちがそれぞれの意見を述べ始めた。


「先輩っご一緒させてください」

 後輩の山本やまもと 陽翔はるとが陽翔の友人である平岩ひらいわ竹内たけうち大友おおともと一緒に立っていた。そそくさと大友が美月の隣に「失礼します」といって座る。反対側には平岩が座った。二人とも食べながら美月をチラチラと横目で見てメッセージの入力を終えるのを待っている。


 桜花は陽翔と竹内に挟まれて座ることになる。

「なんか、今、門閉まってるらしいですよ」

「UFOもう来たの?」

「いえ、デモ隊が押し掛けてます、あ、ホラ」

 陽翔がテレビを指すと見覚えのある正門の前に人々が押し掛けていた。

「なぜココに?」

「門に『東部方面航空隊』って書いてあるから……ですかねぇ?」

「撃墜したのが陸自の航空隊だと思ってるのかしら?」

 陽翔と桜花が話していると美月が顔を上げた。


「桜花の言う通り、撃墜したのは空自の戦闘機じゃなくて三沢基地のアメリカ軍らしいわ。司令官が『セルフディーフェンス』って言って基地司令が絶句してたらしいわよ」

「破壊指示も撃墜指示も攻撃指示もなーんにも出てないもんね、黙って敵を見守りながら死ねっていうのかしらね」

 桜花が頬を膨らませた。


「関東地方に向かって来てるっていう残り9個のUFOは横田基地がなんとかしてくれるんですかね?」

「何言ってるのよ、竹内。日本の防衛は自衛隊の仕事よ。それに横田基地には戦闘機は配備されてないハズだよ」

「あ、今なんか、沖縄から海軍のF/A-18戦闘機が来てるらしいですよ、桜花さん」

「沖縄の司令官が『台風の予報が出てるから』って言ってるらしいわ。どこにも見当たらないけどね」

 美月が大友に続いて言った。


「立川にも高射中隊が配備されないかな」

「地対空誘導弾撃ちたいんですか?」

「防衛って感じしない?」


「国民の皆様的には使ったらダメみたいですよ」

 陽翔が言うのはテレビ画面に映る市ヶ谷の防衛省前に詰め掛けた人々である。

「対話による平和」「9条を守れ!」「戦争反対」といったプラカードを掲げている。

「ああ、あそこペトリオットミサイルあるもんね」

「あの人たちが身体張ってUFO止めてくれれば空自のパイロットも無事でしたよね」

「言うわね、陽翔」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る