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 1930現地到着。もう日が暮れているが、陸上自衛隊弘前駐屯地から借りだされた――航空自衛隊とアメリカ空軍兵だけでは人手も装備も経験も足りなかったので「借り」だされている――第39普通科連隊所属の自衛隊員はヘッドライトを装備して登山をしていた。

撃墜された国籍不明機の破片を探している。山間なので破片の落下に伴って山林にダメージがあることが予想されている。


 ライトを点けたドローンが何台も木々の上を飛び交っていた。普段から40kgの背嚢リュックを背負って行軍訓練している陸上自衛官たちは無線で各班ごとに連絡を取り合いつつ、念のため地面に落ちていないかどうかも確認しつつ進んでいた。


「なんか、アメリカ軍の空軍も回収に参加したがっているって聞きましたけど」

「やめて、空軍とか山では遭難するから。お仕事増えちゃう」


「班長! 焼け焦げた樹木発見しました!」

 ドローンから送られてくる映像を確認していた工藤哲也くどうてつや陸士が声を上げた。柴岡しばおか班全12名が立ち止まる。

「よし、各員2分間周辺を確認! GPS確認!」


 2分後に1異常なし、2異常なし、3異常なし……と報告があがる。


「全員個人用防護装備の装備」

 個人用防護装備、おもに対毒ガス兵器のためにある全身を覆う装備品である。こんなものを着こんで登山するのは時間がかかるので指示書にあった「全員、装備してからの入山が望ましい。遅くとも破片回収に入る前には装備していること」という一文の通り約7.7kgの防護装備も背負っての登山となった。


 班長柴岡と副班長 佐藤さとうがお互いの防護装備の装着を確認すると班員たちも次々に1装備よし、2装備よし、3装備よし……と片手をあげて報告を始める。


「よし、放射線濃度確認」

 無線で班員に指示を出す。全員が頭もすべて覆われているのでインカムが無ければスムーズな会話など成立しない。


 ドローンによる放射線の濃度確認、毒性確認、温度確認を済ませる。人体には影響のない値が示されていることをタブレットに入力し、デジタルカメラで黒い破片を撮影していく。最後に破片をその下の地表ごとプラスチックで覆った。


「班長、こちらにもなにか落ちています」

 プラスチックで覆われた破片の脇に立つ姉川あねかわ陸士から報告がある。

「姉川、離れて。ドローン班、工藤大輔くどうだいすけ、放射線濃度確認」

 慌てて離れる姉川の方へドローンが向かう。その破片は焼け焦げていたが、白っぽい塗装がされた金属片に見えた。表面に何か記載がある。


「あれ? これってキリル文字じゃないか?」

「うをっUFOにキリル文字? なんか凄くね?」


 陸士はほぼ全員が二十歳前の若者である。好奇心が勝ったらしく、班員たちは集まってその破片を手から手へ回して眺めていた。そんな様子を苦笑しながら柴岡と佐藤は回収した破片2つの登録番号を無線で受け取り、プラスチックの隙間にIDを挟み込まないとどの破片がどこで採取されたかわからなくなってしまう。

「SK40-140-1と。そっちは2な。」

 佐藤が集まっている陸士たちにタグを渡すとプラスチック袋のポケットにタグが差し込まれ、ついでに袋の上部に油性ペンで記載された。


 破片が完全に密封されていることを確認してから防護装備を脱ぐ。

「よし、回収して撤収するぞ」

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