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 F-35戦闘機、コールサイン Abel 2-1のパイロット金子かねこ空尉は上空にいるというのに汗をかいていた。

 安全な距離をとれ、と言われているができるだけ正確な位置情報を司令部に送信したい。少しでも円盤が傾けば同じように傾き、上昇下降もできるかぎりすぐに真似た。


 情報を蓄積し、後続のパイロットが撃墜する手掛かりになれば、と思っている。撃墜許可がないので撃墜もできない。いつ千歳基地のF-15のように粉砕されてもおかしくはない、その緊張感が汗になって流れていた。


 自身の乗っているF-35のエンジン音と風の音がする。しかし、目の前にある4つの黒い円盤上の飛行物体は音を発しているようには感じられない。円盤の端から後方に向かって薄いベイパーが発生している。物理の法則には乗っ取っているらしいが、円盤型の推進力は外見上よくわからない。


 ――(お・ま・た・せ! Abel 2-1、2-2!)Sorry for keep you waiting ! Abel 2-1 and 2-2!


 能天気なアメリカ英語がヘッドホンから飛び込んできた。管制から連絡のあったアメリカ軍第35戦闘航空団所属のF-16、コールサインOxide 4であろう。6機が接近してきている。


「(コイツらは危険だ! さがって……)They are extremely dangerous! Please set back…… 」


 ――(俺の友達に触るんじゃねぇ!)Don't touch my TOMODACHI !


 F-16は一番近くにいた円盤とすれ違いざまにミサイルを撃ち込んだ。残る3機の円盤が一斉に散開する。しかし、先頭をきったF-16に続くF-16が即座に円盤を追尾する。

 F-16側はロックオンできないのでガトリング砲が軽快な音を立てる。


 円盤が急上昇するが、F-16の方向転換速度には劣る。

 追いつかれた1機は円盤の下部からミサイルを撃ち込まれて爆破した。

 海側へ逃れようとした1機にはF-16から6発のミサイルが煙幕のように撃ち込まれた。山側へ逃れつつ、バラバラと軽い音を立てている。どうやら円盤は機関砲を装備しているようだ。

 山肌を背景に円盤の爆発が起こる。


 ――(管制塔、こちらOxide 4-1。悪い子はやっつけた、繰り返す、悪い子はやっつけた)

 Control, this is Oxide 4-1. All bandits are destroyed. I say again bandits are destroyed.


 一斉に歓声が上がり、口笛が吹かれた。

 管制塔では狭かったので、すでに日米合同司令室が設えられている。周囲にいる司令塔部門のアメリカ兵たちが歓声を上げ続ける中、河野基地司令たち自衛官は一人の犠牲者も出さなかったことを思い、緊張が抜けそうになっていた。


 レーダーは2機のF-35と6機のF-16合計8機が帰還ルートに入ったことを示している。


「スティーヴさん、わかっていたのですか?」

 河野基地司令が言うと、ブラック大佐は唇の端でイタズラっぽく笑った。

「(自衛権でしょ)That is self-defense.」

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